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18話

 ■■■


 僕と風華さんは音楽室にいた。

 夕日に照らされた音楽室には僕らの他に2、3人生徒がいた。その人達は皆同じようにして僕と風華さんをもの珍しそうに見詰めていた。吹奏楽部でもない僕とそんな僕を連れてきた風華さんに驚きを覚えているのだろう。


 「それじゃ、吹くから聞いてて」

 「あぁ・・・」


 ・・・・・・どうしてこうなった。

 なぜ僕が音楽室まで来て風華さんの演奏を聞かなければいけないのだろう。僕が知っている風華さんはそんなことをしたことがないだろうし、するようには見えない。


 僕がなんだかんだ考えている内に風華さんはフルートを手に取り曲を吹きはじめた。

 僕はあれこれ考えるのを止め、曲をじっと聞くことにした。




 どこか郷愁を誘うような、それでいてどこか遠くへ旅立ちたくなるようなそんな曲だった。

 知らない曲であるはずなのに、どこかデジャヴュを感じた。


 僕は風華さんがその曲を奏でるのを見ながら、自分の中にいる何かが動き始めるのを感じた。


 黒い何かが、

 僕に向かって

 近付いて来て、

 それはゆっくりそれでいて素早く、

 僕を飲み込んだ。



 暴力的な睡魔に誘われて、僕は灰色の世界へ旅立った。




 ■■■


 「うぅ・・・ん」


 僕は呻き声を上げながら目を覚ました。そこは、いつの間にか僕にとって当たり前に存在する世界。一面を白と黒を合わせた灰色で構成された彩度0の世界。

 僕は辺りを見渡した。


 相変わらず灰色な世界。目の前にはいくつか咲く“想いの華”。そして、しんしんと降り積もる灰色の雪。


 「・・・・・・!」

 僕は雪が降っていることに呆然としていた。今までそんなことはなかったからなのと、建物の中であるこの部屋に空から降り落ちるはずの雪が降り積もる非現実的な光景だったからだ。


 「何なんだよ・・・」

 僕は床に降り積もる雪を摘んだ。灰色でさらさらとしてひんやりとしていた。見ているとなんだか物悲しくなってくる不思議な雪だった。


 「さて」

 僕は気を取り直して周りを見渡した。

 目の前に赤い“想いの華”が一つあり、奥の方に黄色と緑色と青色の“想いの華”があった。


 ここには風華さんはいない。僕だけがこの世界にやって来た。僕は自分の心の中にどこか寂しさという気持ちがあることに気付いた。たった1回風華さんと一緒にいただけなのに、僕は風華さんと一緒にいないことに寂しさを感じていた。


 今まで自分の気持ちというものをあまり感じたことのなかったため、僕は新鮮さを感じていた。

 他人(ひと)に対して明確な気持ちを抱いたのは初めてだった。



 「ふぅ」

 僕は深く息を吐いた。雪が降っているせいか、体中がひやりとしたものに包まれた。

 寒かった。




 

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