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13話

僕と橘さんは灰色の世界を歩いていく。僕と橘さんの間に会話はなかった。


図書室を出て廊下を歩き、階段を下りてさらに廊下を歩いて。そうやって静寂な世界を歩いて建物の外へ出た。

灰色の空、灰色の大地、全てが灰色。広々とした印象を与えると同時に物悲しさを感じさせる。

僕は、なぜこの世界が“灰色”なのか考えていた。灰色、それは白や黒といった色の中間。灰色に意味はあるのだろうか。白であれば、純白とか白紙とかに使われるように清らかさや何もないといった意味になる。黒であれば、絵の具の黒のように全てを飲み込むだとか色を混ぜると最終的に黒になることから全ての集合ともとれる。だけれど、灰色は何なのだろう。中間(ニュートラル)?曖昧さ?



「ねぇ、夢野くん」

橘さんの言葉に僕は意識を目の前に戻した。

「なんか、音聞こえない?」

「ん?そうかな」

「なんていったらいいんだろう・・・オリエンタルな感じ?かな。今まで聞いたことのないような音楽・・・」

「それはどこから?」

「あっちの方かな」

そう言って橘さんは指差した。校庭の方向だった。

「・・・行ってみる?」

「うん」

僕は半年前のことを思い出していた。僕にも謎の音楽に誘われて校庭に行き、謎のオルガンを見つけた。たまたまそれに触ってしまい、“華”が見えるようになった。そして偶然知ってしまった想いを叶えてあげたくなってしまった。あの時は僕が僕でないかのように感じた。

それが、橘さんの身にも起きるかもしれないと思うといたたまれなくなる。彼女もまた僕と同じに苦しむかもしれない。・・・案外楽しんだりするかもしれない。僕には人の心を推し量ることはできない。そんな高等技術は持ち合わせていない。

僕は、どうしたらいいかわからず仕舞いのまま先を行く橘について行った。




校庭のど真ん中には案の定といっていいのか、オルガンがあった。灰色の世界にぽつりとダークブラウンのオルガンが。

僕は一つ気がついたことがあった。いくらオルガンに近付こうとも僕にはあの謎の音楽は聞こえなかった。おそらく“華”を見れるようになった人は聞こえないのだろう。まだ“華”を見ることができない橘さんはこのオルガンが放つ音楽を聞くことができる。そういうことなのだろう。


「うっわー、こんな場所にオルガンがあるよ!不思議・・・」

「・・・・・・」

僕は観察を始めた。一度見ている僕の中では驚きよりも圧倒的な好奇心が支配していた。この世界の秘密がわかるかもしれない。前回も同じように好奇心があったが、今回は幾分冷静だった。日常に影響がでない程度に探っていこう、そう考えていた。


「夢野くん、これから音楽が出ているのかな?」

「たぶんそうだろうな。鍵盤もペダルも動いていないけど」

「なんか不思議・・・」


「くれぐれも不用意に触らないように」

僕はそういってオルガンに近寄った。何か鍵となることはないか。僕はこの世界を全くもって知らない。何もわからない。だから・・・


「!?」

オルガンの横側に何か文字が書いてあった。

それは・・・


『これを読んでいる者へ “想いの華”を咲かせろ、間違っても摘むようなことはするな』




現実と夢の狭間。それは“想いの華”が咲く場所。それがこの灰色の世界。僕はまだこの時は自分の身に起きていることに気付いていなかった。




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