12話
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僕は久しぶりの感覚に懐かしさを覚えながら目を開いた。
ここは図書室であるのだが、辺りは灰色一色で、まるで凍り付いてしまったかのように静寂に包まれていた。
僕はふと目の前に視線を移した。目の前には橘さんがいたはずだが、その姿は見当たらなかった。まさかと思い僕は立ち上がった。僕が立ち上がることで椅子ががたりと音を立てる。
「あぅー」
橘さんの声がどこからか聞こえてきた。どうやら目の前の席から転がり落ちていたようだった。
「大丈夫?」
僕は向かいにいる橘さんを助け起こすために駆け寄った。
「あれ・・・夢野くん?」
「どうした?どこか痛いところがあるのか?」
「そうじゃなくて、なんで夢野くんもいるの?あれっ、これって夢だよね。夢に夢野くんがでてくるってことは私・・・」
「まぁまぁ、いいじゃないか。それより今はこれだ」
僕はそういって部屋を示した。
「この世界から出るにはもう一度睡魔に襲われる必要がある。それまで待つしかない。橘さんは前は何していた?」
「えっ、あー私は前は教室だったけど普通に教室の中にいたけど。全部灰色でびっくりしてた」
「そうか・・・」
まだ橘さんは灰色の世界しか見ていない。僕が見た謎のオルガンとか華とかは見ていないようだ。
「せっかくだから、外に出ない?」
「う、うん」
中にいたって間が保たない。いくら幾分か知っているとはいえ、二人っきりで女の子と一緒にいるのは大変だ。辛いとまでは言わないが、相手のことを考えるといたたまれなくなる。こんなつまらない僕でごめんなさい、と。
いつまでになるかはわからないが、この世界にいられるのだから何か一つでも発見しておきたい。
「なんか、夢野くん頼もしいね」
「まぁね、何度か体験したことがあるから」
「何度か?」
「あぁ、最近はご無沙汰だったけど以前は何度か暴力的な睡魔に誘われてこの世界にきたことがあったよ」
「これって夢なのかな、なんか夢じゃないみたい」
「少なくとも僕は夢だとは思っていない。だけど、橘さんが夢だと思うならば夢なんだよ。そもそも現実だって本当に現実かなんて誰にだって証明できない。だから橘さんは必要以上に不安になることはない」
「・・・・・・私って不安になってるようにみえる?」
「あぁ、なんか他の人とは自分は違うんじゃないかって不安に思っているんじゃない?」
「あってる・・・」
「同じ体験したからわかるんだよ」
「夢野くんって、なんか優しいね。なんか夢野くんと一緒で安心したよ」
橘さんは僕のことをじっと見つめていた。僕はどこか照れ臭くなって顔を逸らした。
「それじゃ行こうか」




