10話
その後の話。
あの日の出来事をきっかけに“彼”と“彼女”は正式に恋人になった。その話は瞬く間に学校中に広がった。最も目の前で目撃した僕が広めたようなものだが。
その後、僕の周りはしばらく何も起きなかった。あの灰色の世界へ誘う暴力的な睡魔はその時を境にぴたりと音沙汰もなくなった。それはそれで平穏が訪れたということで嬉しいのだが、もうあの灰色の世界に行けないのかと思うとどこか哀愁を感じた。喪失感ともいうのかもしれない。
とにかく僕は再び日常に戻った。僕の目の前にはいつもの光景が広がっていた。
あれから幾分か時が経ち、ある日のこと。季節は夏から秋、そして冬へ変わった。僕はまだ高校2年であるため大学受験はまだであるが、周りはそろそろ勉強しなければいけないムードになっていた。僕の学校は進学校ではなく中堅であったから、危機感を感じている人といない人の二極に分かれた。僕は当然感じている方だ。大学受験はある意味今後の人生を左右すると思っている。これで失敗したら誇れる人生を歩めないだろうと思っている。まだこの国は学歴社会だ。いい大学に入っておくことに越したことはない。
そういう訳で僕は夏休みから予備校に通い、勉強をしている。はっきり言って大変だ。だけど、未来で笑うためには今頑張るしかない。僕は大学受験で合格する自分の姿を思い浮かべながら日々を過ごすのだった。
僕が一重に頑張るのは僕が小心者で自信がないからだ。どうも失敗した時の姿が浮かんでしまう。
学校で行われた将来の調査には迷うことなく志望大学の名前を書いた。そうしなければ自分はどこまで行ったって前には進めない。
そう、僕は傷付くのが怖い。
話を元に戻そう。僕がそんなこんなでいるある日のことだった。その日は日曜日で僕はその時ちょうど学校の図書室で問題集を広げていた。科目は数学。微積分の問題を解いていた。
僕はほとんど人のいない図書室の中で黙々と問題集を解いていた。そんな中、僕は誰かが後ろにいる気配を感じた。気配といってもそんな大したものではなく、吐く息の音とかきぬ擦れの音とかに気付いただけだ。
僕はそれをただ誰かが本を探しているだけなのだろうと思い、意識から外した。
しばらくして、いきなり背中を突かれた。その唐突な刺激に僕は驚き、思わず声に出てしまった。
「なっ、なっ」
「頑張ってるね、夢野くん」
「あれっ、橘さん」
僕は再び驚くことになった。なぜならば突いてきた人は、同じクラスの女の子だった。
僕の心がカチッと音を立てた気がした。
カチッ
とりあえず一区切りです。次へ続きます。




