妹がツンデレか‥
季節は夏
日差しが容赦なく降り注いでくる。
今年は例年よりも暑いらしい。
こんな日は冷房が効いた部屋でアイスを食べながらマンガでも読んでたいな〜。
オレはそんなことを考えながら、重たい段ボールを運んでいる。
「ぼーっとしてないで早く運んでよッ! まだいっぱいあるんだから」
梨音さんがキツイ口調でオレに向かって言ってくる。
オレ、黒木優祈は荷物運びをさせられていた。
「なんでオレがこんなことしなきゃいけないんだよ……」
自然とため息まで出てしまう。
なぜこんなことをしているのか?
それは今朝の出来事が原因だった。
さかのぼること数時間前……
謎の美少女に衝撃的なことを言われた後。
「えっと……どういうこと?」
オレは混乱しながらも聞いてみた。
「さっきも言ったがお前の妹になる子だって……」
「だからそれがどういうことなの!?」
「声大きいぞ」
「ゆーくん落ち着きなよ」
「変態、うるさい」
「…………」
3人にそれぞれ言われてオレは黙った。
「まあさすがに驚くよね。とりあえず説明したほうがよさそうね」
母さんはそう言って、謎の女の子の隣に歩いて行く。
「この子は私の親友の娘さんなの。だけど親友……つまり梨音ちゃんのお母さんは交通事故で亡くなっちゃって」
言いながら母さんは悲しそうな顔をした。
隣では、謎の女の子……梨音さんも少し俯いている。
「梨音ちゃんはお父さんもいなくてね。親戚も連絡が取れないから、孤児院に行くことになりそうだったのよ」
そうだったんだ……。
「だったらウチで引き取ろうってなったの」
笑いながら母さんは言う。
「そういうことだ。今日から一緒に暮らすけど、優祈は賛成だよな?」
父さんが尋ねてきた。
賛成もなにも、こんな話を聞かされて断るわけがない。
「もちろんだよ! 家族は多いほうが賑やかで楽しいし」
オレはそう言って答えた。
「……ゆーくんならそう言うと思ったよ」
母さんは嬉しそうに笑いながら言う。
「梨音ちゃん、我が黒木家はあなたを大歓迎しますよ〜」
母さんのその言葉に、梨音さんは花が咲いたみたいなとびっきりの笑顔で
「本当ですか!! 嬉しいです。ありがとうございます」
と言った。
それは今日初めて見せた彼女の笑顔だった。
「じゃあさっそく梨音ちゃんが暮らす為の準備しなくちゃね」
父さんの方を見ながら母さんは言う。
「そうだな。 部屋は空いてる部屋にして、荷物はもうすぐ届くらしいしな」
ピンポーン!
父さんが言ってすぐにチャイムがなった。
「おっ! 来たみたいだな」
父さんはそう言いながら玄関に向かって行く。
「はい。……人手不足でして……」
「そうなんですか……。なら……は玄関に置いといて……。後は……でやるので」
「わかりま……。ありがとうございます……」
玄関で何か話してる。
父さんが小走りでこっちまでやってくる。
「実は引っ越し屋さんが人手不足らしくて時間かかるらしいから、玄関に荷物を置いてもらって、みんなで手分けして持っていくことにしたよ」
引っ越し屋が人手不足って……。
あまり乗り気ではなかったが、オレは手伝うことになった。
そんなことがあり、現在に戻る。
「クソ〜。引っ越し屋が人手不足なんてありえないだろ……」
そう愚痴りながらオレは段ボールを運び続ける。
「だ・か・ら! 喋ってないで手を動かしなさいよ!」
梨音さんが小さい段ボールを脇に抱えながら、キツめに言ってくる。
「いくら家族になるからって、威張りすぎだろ……。顔はカワイイのに口悪いなー」
オレはさっきよりも小さな声でそうつぶやく。
「なによ?」
梨音さんがその大きな目を吊り上げながら聞いてくる。
「いや、その、なんでもないよ」
オレは慌てて目をそらしながら答える。
「ふーん? あっそ」
そう言って、梨音さんはそのままどっかへ行ってしまった。
「やっぱりすぐには仲良くなれないか……」
有川梨音がどういう人間なのかをオレは午前中のうちに、観察しながら考えてみた。
とりあえずわかったことは、彼女が非常にツンツンしていることだ。
喋り方も性格もトゲトゲしていて、意地っ張りで強気。
それが午前中に感じたことだ。
最近は『ツンデレ』が流行っているらしいので、彼女もそういう類なのかと思っていたが、残念なことにオレはまだ1度も『デレ』の部分を見れていない。
梅雨も過ぎ、もうすぐ夏に入るという頃
それはなんの前触れもなく、突然にして訪れた出来事。
「お母さんねぇ〜 ガンになっちゃった」
「……は?」
あまりに突然だったために、オレがその言葉の意味を理解するまでにはかなり時間がかかった。
オレは黒木優祈
身長は160cmで顔は普通
運動神経も学力もすごいわけではない普通の男子。
そして今まさに衝撃告白をしたのは、オレの母さんで、黒木笑子
30半ばだけど童顔で小さいから、見た目は中学生にも見える。
天然で優しい、自慢の母だ。
いきなり驚くことを言うが……。
「ガンって……どこに!? 手術するの!? 治るの!?」
「質問の多い子ねぇ」
「だっていきなりだし……」
「大丈夫よ。手術はするけどちゃんと治るから」
母さんはそう言って微笑んでいる。
「そっか。ならよかったぁ」
「ただね、そのガンになった場所なんだけど……」
母さんはなぜか少し言いにくそうにしている。
「? どこなの?」
気になって聞いてみた。
「その……子宮なんだよね」
「あ〜」
子宮。オレはそれがどんな役割の部分かはすでに知っている。
だから母さんも言いにくかったんだろう。
「ゆーくんは兄弟欲しがってたでしょ? でもお母さんのガンは少し大きくなっていて、子宮ごと切り取らなきゃいけなくなっちゃったの。だからもう子供は……産めないの」
そう言う母さんは、とても悲しげな表情をしていた。
「ゆーくん、ゴメンね」
そう言う母さんは、なぜか申し訳なさそうな顔をしている。
オレが責めるとでも思っているのだろうか?
全く母さんは。
「なんで母さんが謝るの? 母さんは何も悪くないじゃん。兄弟が出来ないのは少し淋しいけど、その分家族3人で仲良くやればいいじゃん」
いつもより優しく言った。
「ゆーくん……」
「優祈……」
母さんと父さんは嬉しそうな顔だった。
……父よ。
いつからそこにいた?
「全く、ゆーくんはいい子に育って。ムギューッ」
「!?!?」
母さんがいきなり抱きついてきた。
母さんの胸はFカップ。
それをオレの顔に押し付けている。
結論
オレ窒息死!
「母さん離し…て……」
「あ、ごめんね」
母さんは慌てて離してくれた。
死ぬかと思った……
「あら? ゆーくんはなんで顔が真っ赤なの?」
酸素を吸えなかったからだ。
「はははっ 優祈は母さんに抱きしめられて照れているのか」
「まぁ ゆーくんったら」
父さんと母さんは、二人で微笑みながら言っている。
……この両親には1回、常識というのを教えたほうがいいな。
母さんの天然ワールドに一緒にいるのはオレの父、黒木創造だ。
180を超える長身で、髪は短くツンツンしている。
爽やかなスポーツマンといった感じの見た目だ。
思いつきで動くことが多くて、よく周りを巻き込む困った人だ。
もちろん尊敬しているけど。
――なんやかんやで2週間が過ぎ……
ついに手術の当日になった。
「じゃあお母さん、頑張ってくるわね!」
母さんはいつものように明るく元気に言っている。
「終わるまで待ってるからな」
父さんのほうが不安そうな顔をしていて、ちょっとおかしかった。
「母さん、頑張ってきてね。手術終わって元気になったら旅行にでも行こ」
「そうね。今のうちに家族で出かけましょうね」
ウチの両親は共働きで遅くまで帰って来ないので、家族がそろって出かけるというのはあまりなかった。
オレが兄弟を欲しかっていた理由は そういう時間が淋しくて、話し相手が欲しかったからなんだ。
でも、もう兄弟は出来ない。
だったら両親と話したり出かけようと思っていた。
母さんも、そんなオレの気持ちを知ってたから謝ってきたのかもしれない。
「うん。出かけよ」
オレはそう言って、少しだけあった悲しみの気持ちを拭い去った。
「ところで優祈、兄弟をずっと欲しかってたけど、もし出来るなら妹でもいいの?」
母さんが突然そう言ってきた。
「へ? そりゃ妹でもいいけど」
「同い年でも?」
「? まあそっちのが話も合うしいいかな」
「そっかー」
なぜか母さんは嬉しそうに笑っている。
いったいどうしたんだろう?
隣では父さんもニヤニヤしてるし…
気持ち悪いな。
オレは真相を聞こうと思い、母さんに尋ねようとしたが、
「黒木さーん。お時間ですよー」
ナースさんに呼ばれ、母さんの手術の時間になった。
まあ終わってからも聞けるからいっか。
「じゃあ……行ってくるね」
母さんは少し緊張しながら言っている。
「あぁ、頑張ってこいよ」
「母さん、待ってるよ」
オレと父さんはそう言い、病室を後にした。
その数分後に 母さんはナースさんに運ばれて手術室に入っていった。
それから数時間
父さんがタバコの2箱目に突入をしそうになったとき
手術室の扉の上のランプが消え、母さんが運ばれて来た。
母さんはまだ麻酔が残っていたけど、オレと父さんのほうを向いて少しだけ微笑んでいた。
オレと父さんは安心してお互いの顔を見合って、笑った。
手術は無事成功。
再発の可能性もないらしい。
母さんも、手術のすぐ後はさすがに疲れた顔をしていたが、2・3日したらいつもの元気な顔に戻った。
それからまた数日がたち、ついに母さんの退院の日になった。
手術のあとも体調がよく、医師がもう大丈夫と判断して退院が早くなったらしい。
久しぶりに黒木家に家族全員が揃った。
「ゆーくん、起きなさい。ご飯よ〜」
いつも通りの朝。
母さんが退院してから数日がたっている。
「……ん、 はーい」
まだ眠い目を擦りながら、ベッドから降りてリビングに行く。
「母さん、夏休みくらいゆっくり寝かしてくれてもいいじゃん」
少しぼやきながらオレは席に着く。
季節は夏
オレはすでに夏休みに入っていた。
「何言ってるの! 夏休みだからって、ちゃんとした生活を送らないとダメ人間になるわよ?」
ダメ人間って……。
「それに今日は大事な話があるしな」
父さんは笑顔で言う。
「? なに?」
「実はな…」
父はそのまま何も言わずに、ニヤニヤしながら黙っている。
「???」
いったいどうしたのだろう?
「まあ、言うより見てもらったほうがわかりやすいかもね」
そう言って、母さんはリビングの隣にある部屋の扉を開けた。
そこには…………
1人の女の子がいた。
『……は?』
全く状況が理解出来ない。
とりあえず落ち着け自分!!!
まずは状況を理解するんだ。
とりあえず相手をよく観察してみるか。
腰まである茶色の長い髪
神様がひいきして作ったような整った顔立ち
少しキツそうな大きい目
身長は155cmくらいだろうか?
結論として言えるのは、かなりの美少女だ。
こんな子いるんだな〜
というかこんな可愛い子がいきなり目の前にいるなんて、衝撃的だな。
そう思いながらその子を見ていると、
「? 何ジロジロ見てんのよ? 変態!」
本当に衝撃的だ……。
ってか初対面でそのセリフはヒドくないか!?
なんなんだこの女の子……。
「変態って……。それより君は誰?」
オレは恐る恐る聞いてみた。
「私? 私はねぇ……」
「新しい家族だ」
「はあ!?」
どういうことなのだろう?
父さんの冗談か?
でも冗談にしては、女の子までいるし。
いろいろわからないことばかりだな。
そんなとき、謎の女の子が喋りだした。
「私の名前は有川梨音。あなたの妹になってあげるわ!」
その女の子は驚くようなことを言った。
中1の夏休み。
オレには新しい家族が出来た。