表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】はじめまして、旦那様。離縁はいつになさいます?   作者: あゆみノワ@書籍『完全別居〜』アイリスNEO
2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/47

はじめまして、義家族様 1

 

「お母様! ただいまっ。それからごめんなさい!」


 屋敷に着くなり、ルンルミアージュは母親目掛けて飛びついた。


「私、馬鹿だったわ。赤ちゃんが生まれたら私の居場所がなくなっちゃう気がしてたの。それでつい寂しくなって、不安になって……それで屋敷を飛び出しちゃったの。心配かけてごめんなさいっ」


 涙交じりに謝罪するルンルミアージュの体を、母親がぎゅっと抱きしめた。


「わかっているわ。本当に無事でよかった……」


 目を潤ませ娘を抱きしめる母の姿に、幼い日の自分が重なってアグリアの胸がきゅっとなる。

 ルンルミアージュの母、リリアンヌが手を差し出した。


「アグリアさん、この度は娘がご迷惑をかけてごめんなさい。本当にありがとう」

「あ、いいえ。そんな私は何も。それよりも……」


 アグリアは、慌ててシオンの両親とリリアンヌに向き直った。 


「こちらこそ結婚したというのに一度もご挨拶にもうかがわず、失礼をいたしました。あらためまして、アグリア・ノーレルと申します」


 本来ならば四年前にしなければならない挨拶を、今さらながら口にした。

 深々と頭を下げ、ぎゅっと目をつぶる。

 するとコロコロと軽やかな笑い声が頭の上に降ってきた。驚いて思わず顔を上げれば、義母が朗らかに笑っていた。


「あら、いいのよ。そんなこと。シオンがそうしようって言い出したのはわかってるもの。この子、言い出したら昔から聞かないの」

「は、はぁ」


 笑った顔に下がる目尻のやわらかな感じがシオンによく似ている。以前聞いた通り、シオンは母親似であるらしい。


「こんなところでいつまでも立ち話もなんだ。中へ入ろう。さ、ルンルミアージュ。中を案内しておあげ」


 孫娘の無事な姿と久しぶりに見た息子の姿に、ほっと安堵したのだろう。嬉しさをにじませた義父が、ルンルミアージュに声をかけた。


「はぁい、おじいちゃま! さ、こっちよ。アグリア。シオンも!」


 すっかりいつもの明るさを取り戻したルンルミアージュに手を引かれ、アグリアはシオンともとに屋敷の中へと足を踏み入れた。


「さ、まずは熱いお茶をどうぞ。長旅で疲れたでしょう?」 


 カチャリ、という音を立てて香りのいいお茶が目の前に置かれた。

 テーブルの上には王都で人気のスイーツや軽食がずらりと並ぶ。到着に合わせ用意してくれたのだろう。 


「アグリアさん。いえ、アグリアちゃんって呼んでもいいかしら? 家族皆、あなたのことをそう呼んでいつも話題にしていたものだから。ふふふっ」

「あ、は……はい! もちろんです」


 思いがけない歓待に、どうにも嬉しさとむずがゆさでもじもじとする。いや、叱責されるよりはもちろんありがたくはあるのだけれど。


(ちょっと拍子抜けしちゃったかも。まさかこんなにあたたかく迎え入れてくれるなんて……)


 屋敷の中は品のいい調度品でまとめられ、どこかほっとする空気を醸し出していた。

 シオンの持つ雰囲気とどこかよく似ている。 


「シオンもよく帰ってきてくれたわ。ずっと心配していたのよ」

「あぁ……」


 気まずそうにシオンがうなずく。

 それを困り顔で見やり、義母が小さく笑った。


「この子ったらちっとも王都に顔を出さないんだもの。親としては心配が尽きないの。でも心なしか以前に会った時より顔色もいいし、元気そうで安心したわ」


 きっと領地の空気が合っているのね、と義母が安堵の息をついた。

 これまで気が気ではない日々を過ごしていたのだろう。息子を思う母の思いを想像すると、なんとも複雑な思いだ。


「私ね、アグリアの領地で色々な体験をしたのよ! まずは牛のお産のお手伝いでしょ。それに川で魚釣りもしたのよ」


 ルンルミアージュは久しぶりに会った母親にべったりとくっついて、離れようとしない。

 嬉しそうに顔を輝かせ、ずっと話し続けていた。

 すると玄関の方で物音がした。 


「あら、ジグルド。おかえりなさい」

「お父様っ! おかえりなさいっ」


 仕事で外出していたシオンの兄ジグルドが帰ってきたのだ。


 父親が顔をのぞかせるなり思いきり飛びついたルンルミアージュの体を、ジグルドがひょいと抱き上げた。


「このお転婆め。どれだけ皆が心配したと思っている。……アグリアさん、この度は娘が大変世話になりました。お会いできて何よりです」


 ジグルドの目が、自分からちらとシオンに移った。


「……シオン、よく帰ったな。もう生きて会えないかと思っていたぞ」


 ぞんざいな物言いながら、その顔には弟への情がにじんでいた。兄弟仲は決して悪くないらしい。


「……あぁ」


 もっともシオンの反応がなんとも薄いのが気にかかるけれど、兄弟なんてこんなものかもしれない。

 その後挨拶は滞りなく済み、ひとまずは部屋へと案内してもらうことになった。


「さ、ここがあなたたちの部屋よ。東向きであたたかいし、窓からは王都の町も見渡せるわ。何か足りないものがあったら、そのベルでメイドを呼んでちょうだいね」


 義母に案内された部屋は、なんとも素敵な部屋だった。広さも申し分なく、調度品もあたたかみがあってとても素敵だ。

 けれど――。


「……」

「あら、どうかした? アグリアちゃん」


 口をあんぐりと開け黙り込むアグリアに、義母がきょとんとした顔で問いかける。


「はっ……! あ、いいえっ。何でも……」


 慌てて首を横に振り、動揺をごまかした。


「そう? じゃあふたりとも、夕食までお部屋でゆっくりしていてちょうだいね」


 そう言って義母はいなくなった。


「……」

「……」


 残されたのは、シオンと自分ふたりだけ。

 なんとも言えない沈黙に耐え兼ね、アグリアが口を開いた。


「えーと……、と、とっても素敵な部屋ね。シオン」

「あ、あぁ……」

「でもこれって……」

「……」


 長い沈黙が落ちた。


 もともと夫婦用として作られた部屋なのだろう。部屋には広々とした大きなベッドが一台鎮座していた。

 天蓋付きの、非常に贅沢なベッドだ。寝具も見るからにふかふかで、パリッと糊の効いたシーツもかけられている。

 なんとも寝心地のよさそうではある。でも――。 


(まさかこれから数日間、シオンと同部屋でひとつのベッドに寝るの⁉ 形だけの夫婦なのに?)


 予想外のピンチに、背中をつうっと汗が伝い落ちた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ