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倒れる騎士と倒れさせる令嬢 ~甘すぎて毎日尊死してますが、婚約者です~  作者: 秋乃 よなが


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第七話 木剣を隠したら、予備がありました


 今日の騎士科は実技で模擬戦を行う日だ。教養科の生徒も見学ができる、貴重な交流日でもある。


(今日のエデルは世界一かっこいいんだろうなあ)


 模擬戦が始まる前から、ティアラはうきうきだ。早々の訓練場の観客席で一番前を陣取っている。一方のカティアは先日から引き続き、監視モードを継続していた。


(……む? 今日は朝以来、あの粘着質な視線を感じませんね)


 その視線の主はというと、サブの訓練場で模擬戦の対戦表を眺めていた。


(……いくら木剣とはいえ模擬戦なんて危険だ。ラシエールが怪我でもしたら、フローレンス嬢の心が痛む!)


 しかもエデルはいつも尊死で倒れている。アルノーの中では、エデル=虚弱だという式になりつつあった。しかし彼は忘れている。エデルもまた、騎士科の成績優秀者だということを。


(今日の訓練は中止にすべきだ……! ラシエールの身が危ない……!)


 しかし教師に中止を要望する勇気はない。正統な理由がないからだ。必死に考えを巡らせ、どうにかエデルの身を守る方法を考える。そうして導き出された結論は、やんわりと犯罪まがいのことだった。


 倉庫にこっそり入り、模擬戦で使う木剣を抱えられるだけ抱える。


(これは怪我防止のためだ! 僕は悪くない!)


 そして人目につかないよう倉庫を出て、木剣を大木や植え込みの裏などに次々と隠した。


(これはフローレンス嬢のためでもある!)


 黙々と木剣を隠し続けるアルノー。そのとき、同級生から声がかかった。


「あれ、フィオレル? そんなところで何やってんだ?」


「あああ安全確認を行っている!」


「そんなところ、野良猫ぐらいしかいねえよ。変なやつだな」


 正直なところ、かなり怪しい。が、謎の言い訳でなんとかその場を乗り切った。


 そして模擬戦の授業開始を知らせる鐘が鳴った。しかし訓練場は困惑の波に包まれていた。それもそうだ。なにせ木剣がごそっと無くなっていたのだから。


「なに? 木剣が無いだと?」


「はい、倉庫にあるのは数本だけで……」


 教師と男子生徒は戸惑った顔で互いを見合わせる。木剣の準備を任されていた生徒たちからすれば、冷や汗ものだ。


(……よ、よし。これで模擬戦は中止になるはず……!)


 アルノーはほっとした表情で観客席の方を見る。そこではティアラは『どうしたんだろう?』と、不安そうな顔をしていた。


(し、しまった! フローレンス嬢を心配させてしまっている!? これは想定外だ!)


 ティアラの笑顔のためと思ってやったことが、逆に彼女を不安にさせている。アルノーは慌てたが、どうにもならない。


「……仕方ない。今日の模擬戦は中止に――」


「先生! ここに予備の木剣があります!」


「ラシエール? それは?」


「個人的に準備していた予備の木剣です!」


 エデルは真面目で準備が良い。いつ何時でもティアラを守れるようにと、予備とは言い切れない量の木剣を学院内に持ち込んでいたのだった。


「さすがラシエールだな! よくやった!」


(ティアラの視線を感じる……! 頑張らなきゃ……!)


 ティアラから尊敬の視線を感じて、エデルの顔は真っ赤になる。それでも尊死しないように踏ん張る姿は、ある意味健気である。


 エデルの活躍で生徒たちの士気が高まり、模擬戦は予定通り開催されることとなった。


(な、なぜ……!? 僕の作戦は完璧だったはずなのに!)


 アルノーの作戦は、エデルに台無しにされたのだった。


 模擬戦がはじまり、エデルの番が来る。ティアラの前で情けない姿は見せないようにと、彼は厳しく自分を律した。


(ティアラに、かっこいいところを!)


 耳は赤いが、その動きは鋭く、容赦なく対戦相手の隙を突いていく。木剣の軌道は美しく、踏み込みも軽やかだ。


「ラシエールくん、がんばってー!」


「ちょっと赤くなってるけど、剣の腕前は本物ね!」


 観客席にいた女子生徒たちが騒ぎ出す。その中でティアラもまた、エデルの華麗な剣さばきに見惚れていた。


(すごい! エデル、いつもの優しい顔を全然違う……かっこいい!)


 一方でエデルの活躍に顔を真っ青にしているのは、アルノーだった。


(う、嘘だろ……? 虚弱婚約者じゃなかったのか……!?)


 虚弱なのはティアラの前だけであって、普段のエデルは成績優秀者だ。今となってもなお、アルノーはそのことをすっかり忘れていた。


 なんら危なげなく、エデルの勝利が決まる。観客席は大きな拍手と歓声に包まれた。


(ラ、ラシエールはフローレンス嬢を守れる男だった……!?)


 自分の妨害が無意味だったこと、そしてエデルが強かったことに、アルノーは大きなショックを受ける。


(ま、まさか虚弱婚約者じゃなかったなんて……ぼ、僕の思い込みだったのか!?)


 ティアラの視線を独り占めするエデルへの嫉妬と、自分の作戦が失敗したことへの敗北感で、アルノーの胸はズキズキと痛む。それでも彼は、折れなかった。


(……でも僕は、諦めない……!)


◇◇◇


「エデル、今日はいつもよりさらにかっこよかったです!」


 帰り道。ティアラはエデルの活躍を、自分のことのように喜んでいた。


「ティ、ティアラにかっこいいところを見せたかったんだ」


「……しっかり立ってください、エデル様」


 エデルは照れすぎて、すでに尊死ゲージがほぼゼロだった。カティアは模擬戦が終わってから何度も支え続けていて、とにかく疲れていた。


 一方のアルノーはというと、隠した木剣を回収しながら、ひどく落ち込んでいた。


(……明日こそは、いや、今度こそは! フローレンス嬢、待っていてくれ……!)


 今度は一体何をしでかそうというのか。アルノーは今日も空回りをしたまま、その恋心をこじらせていた。


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