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倒れる騎士と倒れさせる令嬢 ~甘すぎて毎日尊死してますが、婚約者です~  作者: 秋乃 よなが


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第四話 婚約者と知って、恋が迷走しました


 合同講義を終えた翌日。大食堂は今日もわいわいと騒がしい。その真ん中あたりで、アルノーは心ここにあらずの顔でスープを飲んでいた。


「そういえばさ、あの一年の可愛い子、名前なんて言うんだっけ?」


「ああ、ティアラ・フローレンス嬢だろ」


「そうそう! ラシエールがデレデレの婚約者!」


 同級生の話を聞いた瞬間、アルノーは固まった。


(あのラシエールが、デレデレ、だと……?)


 震える手からスプーンが落ちる。天使の可愛さを間近で見られるエデルを思うと、嫉妬で胸がきゅうっと苦しくなった。


(いや、苦しいって何だこれは)


「おい、フィオレル、大丈夫か? 顔色悪いぞ?」


「あ、ああ……すまない。大丈夫だ」


 一気に失せた食欲を誤魔化しながら食べ終える。そして教室に戻ろうとしたとき、一緒に昼食を取るティアラとエデルの姿が目に入った。


(フローレンス嬢だ……!)


 遠目で見ても分かるくらい、天使(ティアラ)は幸せそうな笑顔をしている。一方のエデルはというと、顔を真っ赤にしたまま、どうやら固まってしまっているようだ。そして、無言のまま倒れる。


「エデル!?」


「またラシエールが尊死したぞー」


「保健室ー!」


 見慣れた景色なのが、倒れたエデルに対して、驚いているのは天使だけだ。天使の隣に座っているチョコレートブラウンの髪の職員に至っては、冷静な表情を少しも変えなかった。


「……エデル様、本日二度目ですよ……」


(に、二度目!?)


 自分と成績を争うほど優秀なエデルが今日は二度も倒れたらしい。しかもどうやら、倒れることは別に珍しいことでもないようだ。


(婚約者に笑いかけられただけで倒れる? それで本当に婚約者を守れるのか?)


 いや、そもそも婚約者に倒れられるような関係ってどういう?


(尊死? いや、フローレンス嬢の愛らしさが尊いのは分かるがしかし……!)


 アルノーの頭の中は、嫉妬と心配と混乱でない交ぜになっていた。


「エデル? 大丈夫ですか?」


 倒れたエデルを見守るティアラ。その表情が優しすぎて、アルノーの胸が痛む。


(優しい……可愛い……僕も心配されたい……。こんな子を、笑っただけで倒れる男に任せていいのか?)


「ごめんなさい、エデル。少しずつ普通に接すると言ったばかりなのに……」


(自分のせいだと心から心配している……!? 優しすぎるだろう……!!)


 憂いを帯びたティアラの瞳に、アルノーの心臓が切なく疼く。彼の恋心は、さらに加速したのだった。


(ラシエールが悪い男だとは思わない。だが、あの倒れ方は……。庇護が必要なのは、むしろラシエールの方ではないか?)


 大食堂から騎士科の教室へ、足早に歩いていくアルノー。頭の中は、ティアラとエデルのことでいっぱいだ。


(いや、違う! ラシエールのことを気にしている場合じゃない!)


 アルノーは、ぶんぶんと首を振った。


(僕が、フローレンス嬢の力になれないだろうか……? いや、婚約者としてではなく……せめて、友人としてでも!)


 悶々とするアルノーの背後から忍び寄る影がある。


「……フィオレル君、何か悩み事でも?」


「うわあ!」


 突然の声かけに驚くアルノー。振り返った先にいたのは、ティアラの隣にいたあの職員――カティアだった。


「え、あ、どうして僕の名前を……」


「……ティアラお嬢様に対し、最近視線が多い方がいらっしゃると思っていたら……貴方でしたか」


(バ、バレてる!? 何者だ、彼女は!?)


「お嬢様は、それはもう可憐でいらっしゃいます。フィオレル君のお気持ちは理解します」


「あ、貴女は一体……」


「お嬢様の侍女 兼 学院の補助職員です」


 ずいっと身を乗り出してくるカティアに、アルノーは思わず及び腰になる。


「しかしお嬢様には婚約者がおります。過度な接触はお控えください」


「わ、分かっている! だが、倒れるような関係では……!」


 アルノーの言葉に、カティアはすっと目を細めた。あの二人はあれで、なんやかんや上手くいっている。それを邪魔する第三者の登場は面倒でしかない。


「お嬢様たちはお二人のペースでゆっくりと思い合っております。どうぞ障害になるような言動はご自重くださいね」


「ぼ、僕は彼女のためにできることをしようと思う! 例え婚約者がいても、騎士として、支えたい!」


(この方、もう完全に恋心が暴走していらっしゃる……!)


「……フローレンス嬢。僕は貴女を見ているだけで心が騒ぐ……。僕は、貴女を守りたい」


(……これは、少し面倒なことになりそうですね)


 大食堂の方を見て、アルノーは一人拳を握っている。カティアはというと、彼の決意ポーズを、ぬるい紅茶みたいな目で見つめていた。


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