第十四話 模擬試合が迫り、恋も火力が上がりました
学院祭が無事(?)に終わり、生徒たちは少し疲れを残しながらも活気に満ちていた。
(学院祭は終わっちゃったけど、エデルには毎日会えるもんね)
(お嬢様の笑顔が増えるにつれて、尊死回数も少しずつ増えていますね……エデル様には早く慣れてほしいものです)
「ティアラ!」
そこにエデルが登場。朝から輝くティアラの笑顔にエデルが心を打ち抜かれ、倒れそうになるのをカティアが支える。もはや、毎朝のルーティンと化していた。
校舎の玄関まで来ると、何やら生徒で人混みができていた。掲示板にまた何か貼られているらしい。そこには大きな字で『今期・騎士科模擬試合』と書かれていた。
「エデル、あれはなんですか?」
「ああ、年に一度の模擬試合だね。学年問わず大規模な模擬試合を開催して、優勝者を決めるんだ。優勝者は『学院守護生徒』という名誉職に任命されるんだよ」
「今年の優勝者は誰だろう?」
「王道にいけば三年生よね」
教養科も騎士科の生徒たちも、誰が優勝するかを話題に盛り上がっている。
「でも今年は二年生のラシエールとフィオレルも有力らしいぞ」
「あの二人、去年は惜しいところまで行ってたもんな」
「番狂わせが起きるかもねー」
噂話の中にエデルの名前が出てきて、ティアラはなんだかドキドキしていた。エデルを見上げると、困ったように笑っていた。
「エデルも優勝候補なんですね。頑張ってください! 応援してます!」
「ティアラが応援してくれるなら、今年は絶対勝たないとだね」
表向きは余裕のある態度のエデルだったが、その心の中は激しく燃えてきた。
(ティアラのためなら……! 僕は絶対、勝ちたい! 誰より強い騎士になって、ティアラを悲しませない男になるんだ!!)
そして何よりエデルはこう思った。
(守護生徒になれた、ティアラの傍を堂々と守れる……!!)
「エデルなら絶対勝てます! 勝てたら一緒にお祝いしましょうね!」
「ティアラ……っ、かわ――」
「決意の後に倒れるのはやめてください、エデル様」
真っ赤にした顔を押さえながら、エデルが後ろへと傾いていく。それを支えるのは、カティアの役目となっていた。
一方、人混みの中で、妙に真剣な目で掲示板を見ている生徒がいた。
(守護生徒、か……)
そう、アルノーである。
「フィオレル、お前また何か企んでるだろ?」
「フローレンス嬢のためって言って、暴走するのもうやめろよな」
「ふん。一体僕がいつ暴走したっていうんだ」
「「………」」
アルノーの無自覚さに、同級生たちはドン引きだ。
(守護生徒になれば、フローレンス嬢を守る権利を得られる……!? つまり僕が優勝すれば、堂々と近づける……!? いや、近づくだけじゃない、視線の独占も……!!)
アルノーの心は、既に暴走をはじめていた。
それからというもの、両者はいつも以上に訓練に明け暮れる日々を送る。
エデルは汗だくになりながら、同級生を相手に対人練習を行う。素振り練習の際には、ティアラの名前を呟きながら頑張っている。アルノーもまた、そんなエデルを遠目で見ながら、負けはしないと訓練に打ち込んでいた。
(ラシエール! お前がティアラ嬢を守る気だというなら、僕はそれ以上に守ってやる……!)
アルノーの視線を感じ、エデルが視線を向ける。二人の間に火花が散った。
「フローレンスさんは、やっぱりラシエール先輩を応援するの?」
教養科の教室でも、模擬試合の話題で盛り上がっていた。
「うん、エデルが優勝するって言ってくれたから……」
「わあ! いいね! ラシエール先輩が優勝したら素敵だよね!」
「でもフィオレル先輩も強いらしいよ」
(エデルが頑張ってる姿……きっとかっこいいだろうなあ……)
もちろんティアラは、エデル応援一択である。カティアはそんなティアラを横目に、冷静に状況を分析していた。
(模擬試合……お嬢様が応援に行けば、エデル様の尊死回数が増えますね……)
懸念事項はそれだけではない。
(それにアルノー・フィオレル君。あの子は間違いなく厄介な動きをする……)
カティアの『面倒事察知センサー』が最大値の警報を鳴らしていた。
「ティアラを守れる騎士になりたい……! 勝って、胸を張って、隣に立ちたいんだ!」
エデルの汗が夕陽に輝く。
「模擬試合……これは天啓だ! 勝利すれば、フローレンス嬢への道が開ける!」
アルノーの木剣が、夕陽の光を切り裂く。
(エデルも頑張ってるんだもん。応援、がんばらなくちゃ!)
応援に気合いが入るティアラは、今日も可愛い。
(……試合当日は労働量が跳ね上がりそうですね。今の内に湿布でも買い込んでおきましょうか……)
カティアは当日を思って遠い目をする。
「――模擬試合が近づくたび、恋というものは面倒になっていきますね……」
カティアの呟きは、人知れず、夕陽の空に溶けていくのだった。




