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倒れる騎士と倒れさせる令嬢 ~甘すぎて毎日尊死してますが、婚約者です~  作者: 秋乃 よなが


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12/20

第十二話 犯人に気づいたのは、侍女でした


 昨日の匿名手紙事件が、ティアラにまだ不安を残していた。手紙のことを思い出すたび、胸の奥がぎゅっとしてしまう。


「ティアラ、大丈夫だよ。君のためなら僕はいくらでも倒れてもいいんだから」


「エデル……うん、ありがとう」


 不安そうなティアラを心配したエデルは、彼女と一緒に登校している。エデルの励ましに、ティアラの頬はわずかに上気した。


「でも、やっぱりなるべく倒れてほしくないから……倒れない方法をもっと考えないと」


 両手で拳を作り、ふんす!と気合いを入れるティアラ。その姿の愛らしさに、エデルはまた倒れかけるが、そこはカティアの出番だ。


(しかし、昨日の匿名手紙……なにか見覚えがありますね)


 カティアは手紙の文面を思い返す。


(丁寧に書こうとしている癖、やけに丁寧な単語選び、余計なお世話しかない助言……それにあの文末の癖……)


 カティアの中で、犯人はほぼ確定していた。昨日、木陰から見守っていた視線も一致している。


(あのミルクティー……どう考えても、彼しかいません)


 早速カティアは行動に移す。ティアラとエデルを遠目で見守りながら、学院祭準備をしている生徒たちに話を聞く。


「昨日ですか? 手紙をこっそり置いている騎士科の先輩を見ました」


「ミルクティー色っぽい髪でした」


「『フローレンス嬢のため』って、なんかぶつぶつ言っていたような?」


 カティアの中での犯人確信度、二十パーセントに上昇。


「フィオレル? 最近はずっとフローレンス嬢のことばっかりだよな」


「そうだな。ラシエールを見る目が仇を見る目なんだよなぁ」


「学院祭準備中も、ずっとフローレンスさんのことばかり見てましたよ」


 犯人確信度、六十パーセント。


 そしてカティアは学院職員として、職員室に戻る。提出物の中からアルノーの書類を見つけ、筆跡の癖をくまなく観察した。書類の筆跡と、匿名手紙の文末の癖が似ている。


 彼女は普段から学生の提出物を処理しているため、筆跡の癖には詳しいのだ。


(これはもう……犯人に自白を迫るしかないようですね)


 犯人確信度、九十九パーセント。カティアは教室に戻り、ティアラに気づかれないようアルノーを呼び出した。


「アルノー・フィオレル君」


「は、はいっ」


 アルノーにとってカティアは、『噂のときに釘を刺してきた怖い女性』だ。


「ちょっと廊下まで来てもらえますか?」


「……ひぃっ」


 カティアの無表情レーザーで、アルノーは凍った。しかし大人しくついて行くしか道はない。


「昨日の手紙のことですが……貴方ですよね?」


「な、な、何のことでしょう!?」


「まず筆跡。手紙の文末の癖は、貴方の提出物の文字と全く同じです」


(ドキドキドキドキ……)


 アルノー、心拍数が異常に上昇しはじめる。


「『尊死体質』などと奇妙な言葉を使う生徒は限られています? そしてその言葉を貴方が呟いているのを聞いた生徒がいます」


(タラタラタラタラ……)


 アルノー、冷や汗が止まらない。


「さらに昨日タイミング良く訓練場の木陰にいた気配も……忘れていませんよ?」


(ガクガクブルブル……)


 アルノー、身体の震えが止まらない。


「そして何より――貴方は、『フローレンス嬢のため』とひとりごとを言いながら手紙を置いていたそうではありませんか」


「………!!!」


 アルノーの顔は可哀想なほど真っ青になり、傍から見れば完全にカティアがアルノーを虐めている状況だ。


「……アルノー・フィオレル君。正直に言った方が、楽になりますよ?」


 カティアの声は優しい。しかしその目は少しも笑っていない。


「…………ぼっ、僕です」


「はい?」


「ぼ、僕が手紙を置きました……っ」


 アルノー、ついに陥落。


「ぼ、僕はただフローレンス嬢を守りたくて……!」


「………」


「ラ、ラシエールの虚弱ぶりを危惧して……!」


「………」


「ラ、ラシエールが倒れたときに彼女が傷つくのが心配で……!」


「………」


「か、彼女の気持ちが揺れれば僕にもチャンスが……!」


「………」


「や、やめてください。その沈黙が一番つらいです……!」


「……言いたいことはそれだけですか?」


「ひぃっ」


 まるで死を告げる死神にでも出会ったように、アルノーの身体の震えが激しくなる。


「アルノー・フィオレル君。貴方の行動すべてが、お嬢様の迷惑です」


「……へ?」


「エデル・ラシエール君の迷惑です」


「や、あの、」


「学院全体の迷惑です」


「うぅ…っ」


「そして私の仕事量が増えています」


「……最後のは……すみません……」


 アルノーの表情から色という色が抜け落ち、まるで寒気でも走ったように頬が青くなる。


「もう余計な噂や手紙は出さないこと。お嬢様に近づきすぎないこと。ラシエール君に無意味な敵意を向けないこと。――守れないなら、私が対処します」


「ま、ままま守ります……!!」


 壊れた人形のように、頭をガクガクと上下に振るアルノー。カティアは疑わしそうにそれを見ていたが、盛大に溜め息をついてから彼を解放した。


「し、失礼します……!!」


 一目散にアルノーは教室へと戻る。しかしその心の中の恋心は、まだ折れていなかった。


(約束は守るけど、諦めるとは言ってない……!)


 ティアラを見ると、今日もエデルの隣で楽しそうに学院祭の準備をしている。エデルはティアラの笑顔でを見て、腑抜けた顔をしている。


(フローレンス嬢……! こんなことで僕は負けません……!)


(……あのミルクティー。また何か企んだら、次は容赦しませんよ)


 ティアラを見るアルノー。アルノーを見るカティア。ティアラを巡る恋は、賑やかで騒がしい。今日も学院には、静かではない恋が吹き荒れていた。


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