第十一話 心配させようとしたら、恋が深まりました
学院祭準備も本格化し、各班は朝から教室や制作室で作業をはじめている。
(早くエデルにおはようを言いたいなあ)
(今日の尊死回数は抑えてほしいところですね)
ティアラは今日もエデルに会えることを嬉しそうにしており、カティアは通常運転の監視モードだ。
そんな中、一人だけ胸の奥で煮えたぎっている人物がいた。そう、アルノーだ。
(昨日は班も離れ、まともに話しかけることもできなかったが……僕の恋は死んでいない! むしろ燃えている!!)
昨日のエデルの『ティアラを守る宣言』を見て、さらに嫉妬の炎を強めていたアルノー。
(はっ、もしや!! フローレンス嬢を心配させれば、距離を縮められるのでは……?)
心優しい彼女を思えば、それはとても良い案のように思えた。
(フローレンス嬢は優しい。なら、心配をするはずだ。その心が揺れた瞬間、僕が慰めて……チャンスが生まれる!)
結果、アルノーが選んだ講堂は、『匿名の忠告手紙』だった。
《ティアラ・フローレンス様へ
貴女の婚約者は倒れすぎです。危険です。
もっと周りを見てください。
尊死体質の者に近づきすぎると、貴女まで危険です》
(ああ、なんて優しい忠告なんだ……。フローレンス嬢に伝われ……!)
手紙を書きながら、アルノーは一人で悶える。そうしてカティアの目をかいくぐってティアラの席に手紙を置いた。しかしかいくぐったのはカティアの目だけで、他の生徒にはばっちり見られていた。
アルノーから遅れて登校してきたティアラとカティア。すぐにテーブルの上の手紙に気がついた。
「……え? なにこれ?」
カティアも横から手紙を覗く。そこに書かれた内容を見て、カティアはすぐに察した。
(あのミルクティー、今度は何を考えているんですか……)
「カ、カティア。これ…どうしよう……?」
ティアラは純粋すぎるため、アルノーの狙いどおり心配した表情を見せる。
(そういえば最近のエデルは倒れる回数が多いような……。わたしのせいってこと? わたし、気づいてあげられてなかったの……?)
倒れるエデルのことを思うと、ティアラの胸がぎゅっと痛んだ。その痛みに、思わず瞳が潤む。
「カティア……。エデルは、大丈夫でしょうか……」
「……お嬢様、これはただの悪質な煽りです」
「わたし、エデルの様子を見てくる!」
ティアラは居ても立っても居られなくて、エデルの朝練の場所――訓練場へと向かった。
訓練場では、エデルが朝のウォーミングアップをしていた。そこにティアラが駆けてくる。一生懸命走る彼女の姿に、エデルの胸はときめいた。
「ティアラ! おはよう……!」
しかし駆けてきたティアラの表情は暗い。それにどこか深刻そうだ。
「エデル……! わたし、心配で……っ」
「え? 心配? ぼ、僕を……!?」
何のことがよく分からないが、自分を心配だというティアラの瞳は潤んでいて可愛い。エデルの尊死ゲージが急上昇する。
「最近、倒れてばかりで……。あのね、どうしたらエデルが倒れないようになるか考えたいの!」
「ティ、ティアラ……僕のために……そんな……ぐふっ」
エデルは盛大に倒れた。頭を地面に打つ直前で、カティアがキャッチをする。
「お嬢様。これは心配が原因ではなく、単純に喜びです」
「……え? 喜び……?」
「はい。恋です。かなり重症な」
「………?」
ティアラは、ぽかんとした。
そんな訓練場でのやり取りを、少し離れた木陰でこっそり見守っているのはアルノーだ。
(よし! フローレンス嬢の心が揺れた! 作戦成功だ!)
一人でガッツポーズをするアルノー。
(ここで颯爽と僕が登場して――)
木陰から出ようとした次の瞬間。倒れたエデルを見て、ティアラが泣きそうな声で叫んだ。
「エデルーっ」
(え、ちょ、なんで!? 心配するどころか、余計に距離が縮まってる!?)
ティアラに呼ばれて、エデルが目を覚ます。
「エデルが倒れたら、もう、胸が苦しくて……!」
ティアラは堪えきれず、ぎゅっと抱きついた。
「わたしもエデルに恋してるんだからあっ」
「ティアラの告白!?!? だめだ、もう……幸せで……死ねる……」
本日二度目の尊死である。カティアは盛大に溜め息をついた。
(な、なぜこうなるんだ……!?)
一方のアルノーは、木陰で膝から崩れ落ちて白目をむいていた。
(逆に二人の仲が深まってしまった……! 僕はまた、敗北したのか……!!)
その日の帰り道。ティアラはまだ手紙の内容を気にしていた。
「エデル、本当に大丈夫なんですよね?」
「大丈夫だよ、ティアラ。君が心配してくれたから……!」
エデルはまた倒れかけ、カティアに支えられる。カティアはそのまま、ティアラに囁いた。
「お嬢様。エデル様が倒れるのは体質ではなく、ただの愛の症状です」
「愛の……症状……?」
ティアラにはよく分からないが、エデルが倒れるのは体質の問題ではないらしい。彼が元気なのを確かめるように、そっとエデルの手を握った。
「――ぐはっ」
エデル、本日六度目の尊死である。
(……まだだ、まだ終わっていない! 今度こそ……!)
遠くの茂みで、拳を握って肩を震わせているアルノー。その視線に一人だけ気づいたカティアは、冷ややかな視線を送った。
(あのミルクティー……また厄介事を起こされては困りますね)
カティアを敵に回すと怖い。アルノーがそれを知るのは、もう少しあとのことである。
今日も学院は賑やかで、そしてバタバタしているのであった。




