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倒れる騎士と倒れさせる令嬢 ~甘すぎて毎日尊死してますが、婚約者です~  作者: 秋乃 よなが


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第一話 笑いかけたら、婚約者が倒れました


 穏やかな陽射しが緑を包む。塔の上では鐘が光を受けて輝き、石畳の中庭で白い鳩が羽ばたいていた。


 白い制服をまとう教養科の生徒たちと、肩に赤いマントをかけた騎士科の生徒たちが、校舎に向かって同じ道を歩く。その中で、ふわりとペールピンクの髪が光を受けて揺れた。


「ええと、一限目の授業は第二校舎だったよね」


 入学から一週間が経ったばかりの一年生であるティアラ・フローレンスは、蜂蜜を薄めたハニーアンバーの瞳を校舎の間でさまよわせる。


「ごきげんよう」


 同じ白い制服を着た女子生徒が挨拶をしてくれる。


「ご、ごきげんよう」


「お嬢様、声がどもっていらっしゃいますよ」


 ティアラも挨拶を返す。けれど、緊張で声がちょっと固い。それを指摘するのは、幼い頃から彼女に仕えているカティアだ。チョコレートブラウンの髪に、光の加減でダークレッドに輝くブラウンの瞳が、理知的な雰囲気をまとっていた。


「今日の授業は第二校舎の大講堂です。ついてきてください」


 カティアはティアラの侍女で、学院の補助職もこなしている。それはもちろん、ティアラの学院生活を見守るためである。


 ティアラが第二校舎へ向かう渡り廊下を歩いているとき、赤いマントをはためかせた騎士科の生徒たちが向こう側からやってきた。


 先頭を歩いているのは、ミスティローズの髪にローズグレーの瞳が美しい青年だ。


「あ……!」


 久しぶりに彼の姿を認めて、ティアラは、ぱあっと満面の笑みを浮かべた。


「エデル!」


 美しい青年――エデル・ラシエールは、今日こそはと気合いを入れていた。しかし、ティアラの可愛らしい笑顔に全てが吹き飛ぶ。一歩踏み出した足は硬直し、その笑顔を一時も見逃さまいと目は見開いている。


 だが次の瞬間には、顔を真っ赤にし、膝から崩れ落ち、そのまま背中から床の上に倒れてしまった。耳まで赤く染まっている。


「おい! エデル! 大丈夫か!?」


「ティ、ティアラが! ほ、微笑んで……っ」


「一体何が――あ、フローレンス嬢がいるぞ。……納得」


 ティアラとエデルは婚約者同士だ。ただしエデルの愛が深すぎるため、こうした光景は入学式以来ほぼ毎日だった。


「エデル!? わたし、何かしてしまいましたか!?」


 ティアラの眉尻が下がる。自分が原因でエデルが倒れるのは理解しているが、『なぜ』倒れるかを理解していない。


「まーたエデルの尊死(とうとし)だよ」


「婚約者が可愛いのは分かるけど、これじゃあなぁ」


 エデルの同級生たちは、倒れたままの彼の肩を揺すって、いつものようにからかっている。一通りの出来事を見守っているカティアは、そっとティアラの耳に顔を近づけた。


「――お嬢様。エデル様に向かって、さきほどの笑顔は刺激が強すぎます」


「ええ? ただエデルを見つけたから声をかけただけなのに……?」


「入学準備でしばらく会えてなかったんですよ? 反動が出ても仕方ありません」


 ティアラは心配で、思わず倒れているエデルのもとへと駆け寄ってしまった。そしてその隣で膝をついて、その顔を覗き込んだ。


「エデル、大丈夫ですか?」


 ティアラの声に、エデルの長い睫毛が震える。そしてゆっくり持ち上がったかと思えば、その瞳は蕩けた色で彼女を見つめていた。


「……ああ、ティアラ。今日も……可憐で……ぐふ、」


 エデル、再び気絶する。


「いや、そこは先輩の意地で耐えろよ、エデル」


「婚約者で尊死するって、本当おもしろい奴だよなぁ」


「す、すみません! わたしのせいで……!」


「まあ、もう毎度のことなんで気にしてないよ」


 同級生たちがエデルを担ぎ上げる。その姿を、ティアラはしょんぼりと見つめていた。


「もっと普通にお話したいのに……」


 それはきっと、エデルも同じ気持ちだ。


「ラシエール君は私が保健室まで運びましょう。生徒のみんなは授業に急ぐようにしてください」


 カティアが学院職員らしく、その場を取り仕切る。そして生徒たちからエデルを受け取れば、小さく溜め息をついて呟いた。


「先輩としての威厳がどこにもありませんよ、エデル様」


 エデルの心配をして、途中で振り返りながらも第二校舎へと向かうティアラ。その後ろ姿を、一人の騎士科の男子生徒が隣の校舎から見つめていた。


「……誰だ、あの可愛い一年生は……!?」


 どうやら、また一人。ティアラの可愛さに落ちた者が増えたようだ。


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