第15話 クリスマスの話。
正月になり、永礼崇は静岡に来ていた。
静岡には八幡天音の実家があり、八幡天音は母に「約束通り彼氏と行く」と言っていた。
そう、クリスマスを過ごした八幡天音は「参ったよ。アタシの負けだよ。崇、彼女にしてくれ」と言い、永礼崇はあまりの喜びで記憶が曖昧になる程だった。
永礼崇の頑張りはすごかった。部屋を大掃除して飾り付けて、食事の用意としてチキンとケーキ、サラダにオードブルとピザを揃えて、缶チューハイでいいのに目玉が飛び出るようなシャンパンを買ってきて、「天音さん!メリークリスマス!」と言って八幡天音を出迎えた。
恐ろしいのは、バイトを明け方から昼に入り働き済ませている所で、文句を言えても「お前、缶チューハイで十分なのにシャンパン?しかもこれ高い奴だろ?」と言ったくらいで、ピザもチキンも正直嬉しい。
「お前、こんなにアタシを喜ばせてどうすんだ?アタシを抱きたいのか?」
照れ隠しと牽制で言った八幡天音は心底後悔をした。
真剣な表情で「ごめん天音さん!」と謝る永礼崇。
「俺に誠実さが足りないんだね!それで不安にさせたんだ!禅寺に行ってくるよ!極寒の2月に滝行とか出来るところが無いか調べて行ってくるね!」
真剣な表情でそんな事を言い出して、八幡天音が「冗談だバカ」と言っても、「天音さんの優しさに甘えるわけにはいかない」と言い、面倒な事になった。
だが八幡天音もここまでで永礼崇の喜ばせ方を身につけていて、「照れ隠しだよ。最初に言ったろ?アタシを喜ばせてどうすんだよ?アタシは喜んでるんだよ」と言うと、永礼崇は「やった」と小さな声で喜んでいた。
もうその姿に八幡天音は陥落寸前だった。
「とりあえず食べようぜ。今日は向かい合わせじゃなくて横に来いよ」
「なあ、乾杯しようぜ」
「サラダ食うだろ?取ってやるよ」
優しい言葉、穏やかな口調で永礼崇に声をかける八幡天音に、永礼崇は嬉しくて仕方なかった。
ラジオ派の永礼崇はあえてテレビをつけずにラジオをつけていて、ラジオから聞こえてくる言葉や音楽でクリスマスを肌で感じて、その一部になっている事に八幡天音が嬉しそうに食事を楽しみ、横にいる永礼崇を見ると、自身と同じく嬉しそうな顔で微笑みかけてる。
その姿に八幡天音は永礼崇が愛おしくて仕方なくなっていた。
出会ったのは4月。付き合っていると誤解されて約半年。
十分に見てきた。
だらしない格好をやめて清潔感を出したら本当に見た目も良くなり、勉強にしても取ってない授業にまで現れて、熱心に学び八幡天音に教えてくれる。
独学に限界があると言って教授の所に質問に行くと、教授から「君、今からでも私の講義を受講しないかい?」と誘われる程だった。
そして八幡天音に相応しくなりたいと心身を鍛えてくれた。
「なあ…崇」
「なに?」
「…プレゼントとかいらないからさ、甘えさせてくれよ」
「それは俺へのプレゼントだよ!俺からはこれだよ!」
順番なんて関係なくて突然渡されたプレゼントは高価なネックレスだった。
箱を開けると綺麗な銀色のネックレスが出てきて、八幡天音は「ネックレスだ」と驚きを口にする。
永礼崇は喜んで貰えたことが肌でわかって嬉しそうに、ネックレスを買った日の事を話す。
「うん!天音さんに絶対似合うよ!本当は20万のやつが良かったんだけど、ダメって言われるだろうし、アクセサリー屋の店員って融通きかないんだよ。金ならキチンと20万払うから領収書には2万ぴったりにしてくれって言ったのに断るんだ」
ネックレスなんて貰った経験もない八幡天音は顔を真っ赤にして喜ぶと、「で、これってキチンと2万なのか?」と聞く。
永礼崇は少し困った表情で「ネックレスを買った日だけ消費税が爆上がりしてたんだ、本体価格は2万円だよ!」と言う。
もう笑ってしまう。
八幡天音が「いくらだったんだよ?」と聞くと、永礼崇は「2万5千円に届かないくらい!」と答えた。
「お前、買い物できない奴だな」
「天音さんの為だからだよ」
「てっきり指輪にするかと思ったのにネックレスなのは意外だ」
「指輪は今度一緒に行った時に18万の奴を買わせてね!」
「…18?」
「うん!天音さんの指に似合いそうな可愛い奴を見つけたんだ!」
「…そんな高いの貰えないだろ?」
「そんな事ないって、受け取ってよ!」
「アタシの指は喧嘩ばかりしてたからボロボロなんだぞ?」
「俺にとっては大好きな指だよ。指輪もそれくらい高いのじゃないと、天音さんの美しさに負けちゃいそうだから、できたら50万くらいの奴がいいんだ」
「バカ!怖くて着けらんねえよ!」
「え?傷つけても無くしてもまた買うから、使い潰していいんだよ?」
永礼崇の言葉には、おべんちゃらでもなんでもない本音があった。
ヤリ目的で甘い事を囁く男はいたが、そんなのとは次元が違う事を、八幡天音は肌で感じていた。
「もう勝ち目がねえな」
そう言った八幡天音は、「食事は少し後でもいいよな?」と言うと、永礼崇の返事を待たずに「膝の上に座らせてくれよ。抱きしめてくれ。崇と寝ると安らぐんだ。起きててもそれが欲しい」と言いながらフローリングに座る永礼崇の上に跨って抱きしめていた。
もう永礼崇は嬉しさでどうにかなりそうだった。
「天音さん」
「人前ではそれでもいいけど2人きりの時はさん付けすんなよ崇」
永礼崇はカラカラの喉で「天音」と呼んで八幡天音を抱きしめると、八幡天音も「崇」と言って抱きしめ返してきた。
「天音が降りたくなるまでこうしていたい」
「アタシもだ。途中で向き変えるから、赤ん坊にするみたいな奴をやってくれよ」
永礼崇は幸せでどうにかなりそうな中、何遍も「天音」と八幡天音の名を呼び続けて、八幡天音も「崇」と呼び返した。
1時間もののラジオ番組が終わったところで、「なあ、早く食べて続きをさせてくれよ」と八幡天音が言い、直後に「早食いすんなよな。あくまで食事も楽しむからな」と釘を刺した。




