第14話 菩薩と女神。
永礼崇と噂になり、更に3ヶ月が過ぎた。
八幡天音は今日も頭を抱えている。
前向きすぎる悩みでどうにかなりそうだった。
永礼崇は八幡天音に相応しくなると言って、自主トレーニングも始めて、身体は程よく引き締まり、大学の授業でもキチンと結果を出す。
もうかつてのだらしない面影はどこにもない。
八幡天音は困っていた。
永礼崇は自分が選んでいない科目まで、八幡天音に教える為だけに勉強をして八幡天音をサポートする。
「天音さんのお宅も掃除したいです」
そんな事まで言い出して掃除に来ようとしたり、花が綺麗だったとぬかして、花束を買って大学で堂々と渡してきて、羨望の眼差しと嫉妬の目を向けられたりもする。
自分はそんな事をされる人間ではない。
その思いから好意を受け入れる事を拒んでいた。
だが身体は正直らしく、秋なのもあるが寒くなってきた事で、帰るのが億劫になって泊まってしまい、寝ている間に永礼崇に抱きついていた。
その事に気付いたのは永礼崇のスマホを覗いた時で、まさか待受が永礼崇が八幡天音に腕枕をしていて、八幡天音が永礼崇に抱き着いている写真になっているとは思わなかった。
「おい!んだこの写真!?」
「あ、この前の朝、早くに目が覚めたら天音さんがくっ付いてくれてて、嬉しくて記念に撮ったんだよ!幸せな時間だったんだ。天音さんもいる?」
悪びれずに言う永礼崇。
前に永礼家に行って気付いたが、案外永礼崇は猪突猛進だ。
だからこそ不良に憧れて不良になった。
八幡天音が「照れるから見ていられん」と断ると、がっかりした顔で「引き伸ばして部屋に飾りたいんだけど恥ずかしいならダメだよね」と言う永礼崇。
飾る?
もう意味がわからなかった。
だがそれ以上に頭を悩ませるものがある。
クリスマス
年末年始
お正月
冬の三大イベントを前に永礼崇はカレンダーを見て曜日を気にしている。
八幡天音は断るにも理由が見つからずに三浦菜央に全てを打ち明ける事にした。
[わぁ!おめでとう!本当の崇は素敵な男だから沢山甘えてね!]
もう開始からこれである。
八幡天音は諸々を諦めて、自分は相応しい女ではない事を、過去の経験をマイルドに説明しながら告げるのだが、[崇は気にしないと思うよ?天音さんが気にしても崇は気にしないから、崇を受け入れてあげてほしいな]と菩薩マインドが凄い。
違う。
そうじゃない。
ナメられない為だけに、好きでもない男に初めてを渡した。
ノリが悪いだの、乙女チックだの、気位が高いだのと言われて、ナメられない為だけで自分を安売りした。
求められたら変なプレイにも応じた。
そして今は公衆浴場なんかでは二度見されてしまうような傷だらけの身体。
それが自分を縛る鎖になっている。
三浦菜央は呑気に[結婚式は呼んでね。伊勢海老食べたいなぁ]とか送ってきているし、[海老マヨのピザって美味しいよね]とか追加されてきて、話がエビにそれやがる。
それなのに急に芯をつく言葉を送ってくる。
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ありがとう天音さん。
天音さんが崇の事を真剣に考えてくれてて私嬉しいよ。
崇をよろしくね。
嫌われても平気なら雑に扱うし、弄ぶし、全部打ち明けるよね?
でもそれをしないのは天音さんが崇を意識してくれたからだよね?
私はそれが何より嬉しいよ!
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スマホを片手に言葉に詰まり、頭を掻く八幡天音は[なあ、菜央さんから見てアタシってどうだ?]と聞くと、[女神様]と返ってきた。
どこが女神だ?傷だらけの女神なんて聞いた事ない。菩薩じゃなくてお花畑の住人か?
そう思った時には追加のお気持ち長文が表示された。
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崇を助けてくれて、私たちを仲直りさせてくれた女神様。
でも人に優しくできるのに、優しくしてもらうのに慣れてない女神様。
だから崇に甘えて貰うの。
崇がもう無理って言うまで甘えて、天音さんは優しくして貰っていいの。
その資格がある人。
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八幡天音は「マジ敵わねぇ」と言って、永礼崇が帰ってくる前の部屋で1人泣いていた。
・・・
バイトから帰宅した永礼崇を待って、八幡天音は「冬のイベントだがな、アタシを満足させてみろ」と言うと、永礼崇は「本当!?全力で持て成すからね!」と言って喜んでいた。
そして本気で情報収集を始める永礼崇に怖くなり、「おい…泊まりはダメだ。食事もここが良い。プレゼントは1万円までだ」と釘を刺すと、この世の終わりのような顔で「貯金をはたいても良かったのに」と言い出して、唸りながらプレゼントだけはもっと高価なものをと言い出して、2万円まで受け入れることとなった。
2万円でも多いのに、永礼崇は「天音さん、20万円になりませんか?」と聞いてきて、八幡天音からは「ならねーよ!」と怒られてしまう。
ぶつぶつと「商品ページを見ると、天音さんに似合いそうなやつは、どれも高価なのになぁ」と言ってスマホを眺める永礼崇に、八幡天音は「んな価値ねぇって」と真っ赤な顔で俯いていた。




