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暗く深い井戸の底から世界を見下す。  作者: さんまぐ


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第13話 天音×崇。

翌朝、八幡天音は飛び起きた。

どこでどうしてこうなったのか、記憶がなかったが、服はベランダで洗濯されていて、永礼崇のTシャツ姿で永礼崇と眠っていた。


別に乙女ではない。

ナメられたらおしまいだからと、ヤンチャな男に迫られて、清潔感さえあれば抱かれてやっていたし、格好つけた男の腕の中で朝を迎えた事もある。


でも、なぜか驚いたし慌てた。

それは過去を話してしまったからかもしれない。

傷だらけの身体を見せたからかも知れない。


今も横で幸せそうに眠る永礼崇を見て、顔が熱くなる八幡天音は、サークルの飲み会で浮いている永礼崇を見て、ひと目で悪ぶっているだけの男だと見抜き、自分のようにさせたくないと気にしていた。


あのボコボコで戻ってきた日はいい機会だった。

いい家族、いい友達、素敵な環境の何が嫌なのか、分かりかねたし意味がわからなかった。

だがまあナメられたらおしまいの世界から飛び出して、普通の世界に行ってみて思ったのは普通の連中もそこそこやるもんだと言う事。

八幡天音は三浦菜央達と連絡先の交換をした。


名目は永礼崇の逃げ道を塞ぐ事で連絡先を交換したが、連絡先に普通の人間が増えていく度に、自身も普通になれていく感覚に顔が緩んでしまった。


三浦菜央は結構目ざとくて、手帳型のスマホケースに付けている母親がくれた御守りを見た時に、干支の御守りだった事もあって、すぐに同い年だと気付いてきて「天音さん?」と声をかけられた。


「内緒で頼んます」


この言葉に、優しく微笑んで「うん」と言う三浦菜央は本当に菩薩のような人だと思った。


その三浦菜央を困らせた永礼崇は愚かな男だ。

なんでわざわざ悪い方に憧れなんて持つのだろうかと呆れてしまった。


「お前はアタシが真人間にしてやるんだから幸せになれよ」


今も眠る永礼崇に呟くように声をかけて、母親が子供にするように頭を撫でると、寝ぼけた永礼崇は「天音さん」と言いながら抱きついてくる。

起きているので腰に手を回す形で尻の辺りに顔を近付けてくる。


照れたが、寝ているのだから騒がずに許してやろうと思った八幡天音は、「んだよ、こんなアタシに惚れたか?」と呆れ顔で微笑むと、「…はい……、大好きです」と寝ぼけながら答える。


顔を真っ赤にした八幡天音は、好きだと言って腰に抱きついて頬擦りをしてくる永礼崇を「起きろ駄犬!」と叩き起こす。


「あ、おはようございます天音さん」

「テメェ!これはどういう事だ!?なんでアタシがお前の服を着て寝てんだよ!」

「ああ…昨日泥酔されたので、お風呂を用意したんですけど、寝ると言うので汗もかかれてましたから、シャツと短パンを渡したんです。けど短パンは嫌だと言うので、下着姿にシャツのみで寝てました。俺は床でいいと言ったんですけど、ベッドに来いと言って貰えたので、ご一緒しました。俺は風呂に入ったので綺麗ですよ。ご安心ください。あ、服は洗濯して干しましたからね」


聞いているとなんとなくうっすらと記憶が蘇ってくる。

2人で一瓶開けた所で、記憶が飛びかけた。


なんとなくだが楽しかった。それで大胆になっていた。

だがそれよりも気になったのは永礼崇の敬語だった。


「おい、なんで敬語なんだよ」

「天音さんは凄い方です!俺なんかが威張るなんて以ての外ですよ!」

「やめろ」

「は?」

「今すぐ敬語をやめろこの野郎!」


永礼崇は「よろしいのですか?」と聞き返した瞬間に殴られ、もう一度「やめろ」と言われて普通に話すことにする。


だがまあ一連の事が大失敗だった。

永礼崇は八幡天音の洋服を洗濯して干していた。

そう、干していた。

スーパーマーケットで買い物もしていた。


ベランダに干される洗濯物と、スーパーで仲睦まじく見えてしまった雰囲気。


大学で即座に噂になった。



真相を知りたくて殺到する連中に、猫を被って「誤解ですぅ」と言っていた八幡天音は、1ヶ月もすると「もうやだ。なんでお前と付き合ったとか聞かれまくらなきゃいけねーんだよ」とテーブルに突っ伏しながら愚痴り、その横で「俺は悪い気はしてないよ」なんて言ってニコニコする永礼崇。


「ばーろー、お前は真人間に戻って、女連中が『永礼さんって真面目にしてるといいよね』、『なんで似合わない悪ぶったファッションしてたのかな?』なんて言われてんだぞ?いい相手くらい作れるぞ?童貞卒業したいなら、欲張らずにソイツらと付き合えよ」


普段は忠犬な永礼崇だがこの時は「嫌だよ」と言う。


「はぁ?谷野綾子とか可愛いぞ?」

「天音さんより可愛い子はいないよ」


一瞬のラリー。

八幡天音は何を言われたのか理解できず、次の瞬間に顔を赤くして永礼崇を見ると、「噂にもなっているし、俺頑張って成績も上げるし、いい所に就職もするから付き合いましょう!」と言い出した。


「はぁ?お前、忘れたのか?アタシはナメられたらおしまいって世界で、彼氏なんていた事ないのに経験済みなんだぞ?それこそ八広綾とかなら未経験だし、未経験同士で仲良く乳繰りあってろよ」

「天音さんが良いんだよ!」

「駄犬の癖になんでそこだけ頑固なんだよ」

「本気だからだよ!」


八幡天音は面倒な事になったと思った。

まさか自分に好意を抱く奴が現れるなんて思いもよらなかった。


だが永礼父母が手配してくれた宅配弁当は捨てがたい。

美味いしカロリーも計算されていて健康的だ。


面倒だからと、ワインとフランスパンだけで過ごしたり、あたりめと日本酒だけで済ませた夜には戻りたくない。飲み会のつまみ達と大学の学食がカロリー源だった頃はもう沢山だ。


「アルバイトの日は帰りが遅いから、天音さんは先にご飯を食べててね」


そんな事を言われて渡された合鍵が忌々しい。

通い妻みたいになっている。


まあ実際には「天音さんに喜んで貰うぞ!」と息巻いて掃除をして家を綺麗にしているのは永礼崇だったりする。


雨の日なんかは「雨の中を帰ると風邪を引いちゃうから泊まっていってよ」と言われてしまうと泊まりたくなる。

服も洗濯をキチンとしてくれて、永礼崇がアイロンがけまでやってくれるので、何着かお気に入りが永礼家に来てしまっている。


「お前、アタシのパンツに頬擦りとかしてねえだろうな?1人ですんのに使うなよな」と言えば、「許しなくそんな真似はできないよ!」と返ってきて赤くなる。

八幡天音はそんな日々に頭を悩ませていた。

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