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暗く深い井戸の底から世界を見下す。  作者: さんまぐ


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第12話 天音と崇。

実家に帰省して戻る度に永礼崇はボコボコの傷だらけになっていて皆が驚く。

運悪く大学の最寄駅には、かつて一年生の時につるんでいた狼達がたむろしていて、永礼崇に気が付くと、遠巻きにからかってきていた。


「お?崇じゃね?」

「何アイツ真面目ちゃんにもどったの?」

「クソ雑魚ムーブはやめたの?」


以前のイキがっていた永礼崇なら、舌打ちの一つもして何かしでかしそうな危険を感じさせる目を向けたが、今はおとなしく視線をずらす。


狼からすれば羊に戻った永礼崇は財布でしかないが、それを八幡天音が止めに入る。


最初は「先輩達もこんな奴に構ってもいい事ないっすよ。評価を落としますよ」と言って誤魔化していたが、八幡天音の事も馬鹿にした狼連中は口々に揶揄う。


「可愛い顔して物怖じしないのか?」

「泣かせちゃうか?」

「その後は優しくしてやるから俺たち全員の相手をしてもらおうぜ」


そう言って笑っていると、八幡天音は一瞬で豹変して、路地裏に1人連れ込んで殴り沈める。


その姿に驚いた狼の1人が変な顔をした瞬間を八幡天音は見逃さずに、胸ぐらを掴んで小さく言い放つ。


「お前、見覚えあんぞ?お前エンペラーの一員だよな?わかるんだろ?オーディンに刃向かうか?」


八幡天音はそう聞くと、狼の返答を待たずに放り投げて、「コイツにやらかす事は、主人のアタシにしてきたと同意と取るからな、わかったな」と言い放ち、永礼崇に「おい駄犬、行くぞ。飼い主様のこのアタシに感謝しろよ」と言い、主従関係を見せつけていた。



永礼崇は今の出来事が信じられなかった。

何かを聞きたい。

何を聞いたらいいかわからない。

その混乱が酷くなってきた頃に、八幡天音は「おい駄犬。夕飯を買って帰るぞ」と言うと、スーパーマーケットに寄って、火にかければ食べられる鍋物や惣菜と酒瓶を買って帰る。


「聞きたいんだろ?聞かせてやるよ」


そう言った八幡天音は、永礼崇の家に着くと「鍋をやる。盛り付けをやれ」と指示を出して永礼崇は素直に従った。


八幡天音が焼酎をコップに入れて「飲め」と持ってくると、永礼崇は「未成年」と呟いた。

だが八幡天音は「同い年だよ」と言って焼酎を飲んだ。



「まあよくある話だよ」


そう言った八幡天音は過去の話をした。

不良ばかりの街に生まれた八幡天音は漏れずに不良になる。


「まあ酒もタバコも男も早かったな。それくらいしてないとナメられる。あの街じゃナメられたらおしまいだったからな」


そんな時に父親が癌で亡くなり、母1人子1人の暮らしになり、朝から晩まで仕事をする母親に後ろめたさを覚えた時に、「不良を終えてまともになって」と言われた事を話す。


永礼崇は黙っていられずに「だから強いの?」と口を挟む。


「そうだよ。高校なんて入学式の後にクラスで1番強いやつを決めるトーナメントをやったりしたんだよ」


八幡天音はそう答えた後で、「悪い集まりってのはな、なるのは簡単で、辞めるのは凄い大変なんだよ。今日の奴らも辞める時には盛大な邪魔が入る。物理的に遠方に避難して、在籍だけして忘れられるまで近づかないで関係を断つしかない」と言った。


「大変だったの?」

「ああ、大変さ。さっきの連中の1人はジ・エンペラーってチームに居た奴で、まあ規模も違うが、アタシはオーディンってチームに居た。アタシは辞めるって言ったら同期のチームメンバー全員からボコられて、アレコレされて目覚めたら、病院のベッドの上で3ヶ月が経っていた。同期のチームメンバーは3ヶ月の間に、寒い部屋で宴会をして酔い潰れて凍死したり、凍った道で危険走行をして皆死んでたよ。それもあって当時のリーダーから辞めていいって言われて、私はチームを抜けられた。まあさっきみたいな時はナメられたらおしまいだから、名前を出していい事になってんだ」


永礼崇は八幡天音の凄惨な過去に言葉を失っていると、八幡天音は普通がいいんだと説明をした。


「な?普通がいいんだって。アタシは学校に通い直して勉強を頑張って、バカ学校で行ける奴がいなかったって事もあったが推薦取ってここに入学したんだよ」


その言葉には重みがあった。

その重みが永礼崇には届いていた。


「怪我とか…酷かったの?」

「スケベ、見たいのかよ?アタシはこんな身体だから結婚なんて無理だろうな」


八幡天音はそう言って最初に長い髪をまとめ上げると、耳の上に傷が見えた。


「ここは…角材だったか…?バットか?」


八幡天音はそのまま永礼崇の制止を遮って、上着を脱ぐと肩や背中、胸や腹に様々な傷が付いていた。


「な?酷え見た目だろ?お前の身体は綺麗なんだから、わざと悪くなんてなる必要は無いんだよ。アタシとお前は同い年だから酒を飲もうぜ。アタシの話を聞いたんだ。今晩は付き合えよ」


照れながら服を着る八幡天音は永礼崇を見た時に驚いてしまう。

永礼崇はしゃくりあげて号泣しながら震えていた。


「おい!?どうしたんだよ!?」

「ごめん。俺は幸せ者だ。家族に心配されて烈や菜央もいた。それなのに悪ぶった。それ以上に天音さんが助けてくれた。俺は幸せ者だ」


号泣する永礼崇に「恥ずかしいから泣くなよ」と言ったが、「恩返しをさせてほしい」と言って聞かないので、「ならキチンと勉強をして卒業していい会社に入れ。後はアタシを卒業させてくれ」と言うと、永礼崇は「勿論だよ天音さん。ありがとう。心を入れ替えるよ」と言った。


「今の話のどこにそんな感動する話があるんだ?真面目な奴の考える事はマジでワカンねぇ」


八幡天音は呆れながらつぶやいた後で、永礼崇から「どうしたら名前で呼んでもらえるかな?人間になれるかな?」と聞かれる。


「駄犬とかゴミカスとかミジンコを気にしてんのか?しなくていいよ。お前は人間だよ」

「なら名前で呼んでくれないかな?俺はそれでも俺の中の天音さんに認められるように頑張るよ!」


八幡天音は突然の永礼崇の言葉に赤くなりながら、「滅多に呼ばねえからな」と言ってから「崇」と呼ぶと永礼崇は「ありがとう!」と喜んでいた。

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