甘い恋物語は、さいかいの痛みに耐えてから
武 頼庵(藤谷 K介)様の『さいかい物語企画』参加作品です。
あと一年早く生まれていれば……
俺は最下位からのスタートだった。
13歳という弱小でテストに受かり騎士団に入団。ひょろひょろの身体と、体力の無さをからかわれながら見習いとして精進していた。
いよいよ来年で20歳の成人。
正式に採用されるはずだった。
しかし、それが無くなった。
我が国が、ずっと小競り合いを続けていた隣国と正式に和解したのだ。
それに伴い、騎士団も縮小することになった。いまいる騎士を退団させるには差しさわりがあるとして、新たな入団者の受け入れを無くす方向になった。
長年、見習いとして訓練していた俺も同様だった。
みな、同情してくれたが国の方針には逆らえない。
退団日に皆に見送られ、実家行きの馬車へ乗った。不思議と悔しさは無かった。初恋の彼女に、気持ちを伝えられなかったのだけが心残りだった。
団長の秘書官をしていたリアさん。
ひっつめ髪で眼鏡をかけていたため、とっつきにくそうだと団員はみな遠巻きにしていた。
俺も最初は敬遠していた。
しかし、彼女が書類を運んでいる時に手伝ったら凄い嬉しそうな声でお礼を言ってくれた。
焦った俺は『いえ、最下位の俺にはこれぐらいしか出来ないから』と言った。
彼女は怒ってくれた。
『アレンさんは、最下位では無いです! いつも朝一番に来て訓練所を掃除しているし、報告書も丁寧に作成してあります。きっと立派な騎士になります! 』
鈴の音のような綺麗な声で怒るので、全然怖くなかった。
頑張っていることを、見ててくれる人がいることが嬉しかった。そうして恋に落ちた。
騎士になったら、正式に交際を申し込むつもりだった。
しかし彼女も、結婚のために一年ほど前に職を辞していた。
騎士団に未練が無いのも、それが関係しているかもしれない。
思い出に浸りながら、乗合馬車を降りて自宅の屋敷へ向かい歩く。
じくじくと痛む胸を抱え、涙をぼたぼたと零しながら。
久しぶりの実家。
当主である、ギルバード兄さんが出迎えてくれた。
ちなみに両親は兄が5年前に成人した途端に家督を譲った。そして現在は、ゆうゆう国中を夫婦で漫遊している。いくらギルバード兄さんが優秀だからって、いい加減すぎる!
「アレン、大変だったな」
ギルバード兄さんが、労りの言葉をくれた。
感謝すべきなんだろうが、出来ない。
なぜなら椅子に座った兄は、膝の上に金髪緑眼の美少女? を乗せているから。
傷心の身には、目の毒である。
ただ、兄の名誉のために説明するがこれは犯罪ではない。
どうみても13,14歳に見えない彼女、シャロン義姉さんは実年齢22歳であり、2年前に兄と結婚している。
5歳差である兄と義姉は、幼いころから婚約をしていた。今のシャロン義姉さんの姿は想定外である。だから兄(の性癖)はセーフだ! ちなみに兄もプラチナブロンドの髪に紫の瞳をした美形であるので、お似合いではある。
ちなみの俺は、茶色の髪と瞳と地味な色合いである。
いや、よく見て貰えば顔立ちは兄と似ているんだ。ちょっと騎士団で鍛えたのと日焼けしすぎているから、王子様とは程遠くなってしまったけど……
「それで、アレンはこの先に予定はあるか? 」
ギルバード兄さんの問いかけに詰まる。
実は何にも当てがない。13歳から騎士団に入っていたから戦い以外に出来る事が思い浮かばない。
どうしようかと、途方にくれていたところだ。
「もし、困っているならシャロンが紹介したい人がいるそうだけど」
「シャロン義姉さんが!? 」
ちょっと怖い。俺はシャロン義姉さんに苦手意識がある。彼女は見た目は可憐だけど、実際は苛烈だ。
ギルバード兄さんいわく、少女のような見た目で侮ってきた相手が多いので、自己防衛の為らしいが……
元からの性格のような気もするけど……
子どもの頃、子分扱いされ虫取りや木登りなどを強要された過去を思い出す。
まあ、お陰で身体を動かすことが好きになって騎士団の入団試験に最年少で合格出来たからいいんだけど……
いや、良くない。
俺は退団になったんだった。それで身の振りに困っていたんだ。
シャロン義姉さんが口を開く。
「私の18歳の従妹が、3年前に婚約を解消しているの」
3年前といえば、15歳だ。
「従妹は伯爵家の一人娘で、侯爵家の三男を婿に取るはずだったの。だけど解消したはいいけど次の相手が中々決まらなくて」
それはそうだろう。婚約は通常、幼少期に決まる。
俺のような出来の悪い次男ならともかく、跡取り娘の婿君に相応しいようなのが残っている訳がない。
「それで、あんたが騎士団を退団になったって聞いてちょうどいいと思って。という訳で婿入りしなさい! 」
「はっ!? 」
俺の返答を聞き、シャロン姉さんの表情が険しくなった。
「何よ! 私の従妹の婿になれるのに不満でもあるの!? 」
「いえ! ありません! 」
条件反射で答える。シャロン義姉さんの怖さは、子どもの頃から叩き込まれ骨身にしみている。
本当に人は見た目はわからない。
夫のギルバード兄さんも、王子様みたいな外見だけど実際は……
やめよう。シャロン義姉さんに手を出そうとして、社交界からいつの間にかいなくなった奴の末路を思い出すのは……
そんな兄が声をかけてきた。
「ちょうどいいじゃないか。秘書官の女の子には、告白出来なかったんだろう」
ギクッ! ギルバード兄さんが、どうしてそれを……
動揺する俺の顔をニヤニヤ見ている。
傷心の弟を気遣うデリカシーは無いのか!
団長もそうだった。
彼女が退団した翌日の言葉を思い出す。
『すまんな。告白ぐらいさせてやりたかったんだが。彼女も色々大変みたいで。ほら、女性は結婚に準備が必要みたいでな』
謝罪に似つかない、陽気な声だった。
秘書官のリアさんは団長の親戚だそうだ。身内のめでたい話に浮かれるのはわかるが、失恋した部下の気持ちも汲んで欲しい。
団長に恋心を悟られていたことに挙動不審になっていたら、団の皆が飲み屋に連れてってくれた。
どうやら、俺がリアさんに惚れていたのは、全員察していたらしい。
『今日は呑め! 』
と俺の前に置かれたグラスの中身はリンゴジュース。未成年だったから仕方ない。けれど、割と本気で泣いた。
シャロン義姉さんの声で我に返る。
「ちょっと思い込みが激しいけど、可愛くて良い子だから安心しなさい」
ぼーっと考え事をしていたら、いつの間にか婿入りが決定したみたいだ。
まあ、いいや。どうせ当てもなかったし。
ギルバード兄さんとシャロン義姉さんの決定に逆らえるわけないし。
シャロン義姉さんからの申し出に頷いた翌週、俺は婿入り予定の伯爵家の応接室にいた。相手と交流を深めるために、結婚まで滞在させてもらう事になったらしい。
展開が早くないか!?
シャロン義姉さんを疑う訳ではないけど、話が上手すぎる。裏があるのではと警戒心がわく。
伯爵家では、当主夫妻がにこやかに迎えてくれた。
夫人の方はシャロン義姉そっくり。少女のような姿は、とても1児の母には見えない。確かシャロン義姉さんの実の叔母にあたるはずだ。
そして伯爵は、長身で体格がとても良かった。そして黒髪黒目で年相応な外見をしていた。
兄夫婦以上の犯罪者カップルだ。
聞いてみたら兄とシャロン義姉さんと同じで、幼いころから婚約していたそうだ。良かった。義理の父となる人(の性癖)もセーフだ。
そこへ、侍女頭に案内された御令嬢が入ってきた。俺の妻になる人。扉から入ってきた彼女を見て驚いた。
長い黒髪の美女。
伏し目がちで切れ長の黒い瞳は濃いまつげで縁どられていた。左の目元にほくろ。鼻筋が通り、厚ぼったい唇。
腰はキュッとしまっているにもかかわらず、出るところは出ているスタイル。
とても18歳には見えない色香。
シャロン義姉さんと全く似ていない! 多分、父親似なんだろうなあ。
思わず、ぼーっと見惚れてしまった。
「ユリアと申します。よろしくお願いします」
少し低めのハスキーな声。
相手の挨拶を聞き、我に返る。彼女は硬い表情だった。じろじろ見てしまったから、心証を悪くしたのかもしれない。
「あっわたくしはアレンと申します」
慌ててあいさつした。
「アレン様の事はよく知っております。かしこまらなくて大丈夫です」
シャロン義姉さんから、既に情報は伝わっているらしい。
「アレン様、お部屋に案内します」
自ら案内してくれるらしい。
「あっありがとうございます。ユリアさん」
焦ってどもった俺に、彼女は言った。
「ユリアで結構です。アレン様は未来の夫ですから」
緊張しながらもついていく。
「このお部屋になります」
とても広い部屋だった。内装や置かれている家具は華美ではないが、質の良いものだとわかる。
部屋の中央には、大きな寝台が置かれていた。
さきほどのユリアの言葉が頭に浮かぶ。
『アレン様は未来の夫ですから』
つい、顔が赤くなる。
そんな俺の下心を見透かしたようにユリアが告げた。
「わたくしども、これから結婚するわけです。しかし式はあげませんし、夫婦の営みもする必要はありません」
えっ?
「わたくしは3年前に婚約破棄をされました。そのため、アレン様に無理を言って婿にきて頂くことになりました。心を通わせる婚約期間もありませんでした」
それは、これから交流を積み重ねわかり歩み寄っていけば……
「ですので、無理にわたくしに愛情を感じる必要はありません。アレン様は、別に恋人を探し愛を育んで貰って結構です。もし子どもが出来たら、その子を跡取りとして引き取ります」
「そんなムチャクチャだ!」
思わず声を上げる。
ユリアは俺の叫びを無視し、俺に背を向け…
ゴン!
大きな音とともにうずくまる彼女。
どうやら扉に頭を思い切りぶつけたらしい。
慌てて駆け寄る。
俺が差し伸べた手を握り、立ち上がろうとして……
ずしゃッ
今度は足がもつれたのか、俺に倒れかかってきた。
「すっすみません! 」
焦った彼女は体勢を直し、扉を開けて出て行った。耳まで真っ赤にして……
可愛かった……
彼女を支えた自分の右手を見る。
まだ柔らかかった感触を思い出す。
『可愛くて良い子だから安心しなさい』
シャロン姉さんにかけられた言葉を思い出す。
自分の顔が赤くなったのがわかった。
これが恋かはわからない。でも俺はユリアと、白い結婚になるのは嫌だと思った。
騎士になれなかったのは、俺にはどうしようもなかった。
リアさんへの初恋は、何もできずに終わった。
でも、今回は足掻いてみたい。そう決意した。
とりあえず、認めて貰うために領地運営に関して学ぶことにした。
驚いたことにユリアは18歳にもかかわらず、既に責任ある仕事を任されていた。
少しでも彼女に追いつきたい。
俺は13歳から騎士団に所属していて、学校には行かなかった。自分に出来るか最初は不安だった。
しかし、川や山地の地形の特徴を覚える事、土地の風土を学ぶこと、気象学、数学、どれも兵法として学んで来たことが役に立った。
俺は退団したとき、戦えない自分には価値が無いと思っていた。しかし違った。
早朝の鍛錬も再び始めた。
戦わなくても、身体を鍛えておいて損はない。
毎朝、庭で素振りをしていると、使用人たちから自分にも教えて欲しいと言ってくる者が出てきた。
『護身術として』 『強くなって女の子にモテたい』 『健康に良さそうだから』
理由は様々だが、己が人を喜ばせられることに嬉しくなる。
今まで頑張ってきたことは無駄じゃ無かった。それを知れただけでも、再開して良かった。
伯爵家に居候してから2週間。
いつものように義父の書類仕事を手伝おうと執務室に向かう廊下で、侍女頭に出くわした。彼女はテーブルを一人で運んでいた。母と同世代の彼女が重そうにしているのを見かね、代わりに運ぶと申し出た。
頼まれた物置部屋の扉を開けようとしたら、中から声が聞こえてきた。
そっと扉を開けてみる。ユリアだ! 泣いていた。
いけないと思いつつ、もう少しだけ扉を開け盗み見る。
彼女の顔は陰になり見えなかった。しかし、白いドレスと手にしているのがわかった。初めて見るそれは、まだ新しかった。
「……結婚式したかった……このウエディングドレスを着て、彼に綺麗だと言って欲しかった……望んではいけないとわかっているけど……」
やっぱり好きな人がいたんだ。前の婚約者だろうか……
身体から力が抜けたとたん、ドアノブを放してしまった。
ガタンっ
物音に気が付き彼女が振り返る。彼女は焦った声で謝罪を繰り返した。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 」
いいよ、わかっていたから……
そう、言おうとした。しかし、彼女の顔を見て驚いてしまいそれ以上何も言えなくなってしまった。
彼女は眼鏡をかけていた。
「アレン様を伴侶と出来ただけで幸運なのに、それ以上を望んでごめんなさい! 」
いつものユリアと違う、けれど見知った眼鏡の顔は……
「もしかして、リアさん……騎士団の団長の秘書官の……? 」
「覚えていて下さったんですか? 」
初恋だったという言葉は飲み込む。
「でも、声が……」
リアさんは、少し高くて通る声だった。
ユリアのハスキーな声とは違う。
「そっそれは……声変わりをしました」
声変わり!?
俺も成長期の頃にかん高かった声が低くなったけど、あれは男だけじゃ!?
俺の心を読んだかのように、ユリアが説明してくれた。
「少し喉がかすれて、お医者様に相談したところ声変わりだと言われました。女の子にもたまにある事だから、心配ないと」
はい、専門家が言うなら確かですね。
思い返すと退団の頃のリアさん、喋るのが少し辛そうだったな。
じゃあ、本当にリアさんとユリアは同一人物!?
思わぬ再会に茫然としていると、ユリアが事情を説明してくれた。
「私は3年前の15歳の時に、婚約破棄となりました。元婚約者はハンバート侯爵の三男でした」
ハンバート侯爵の三男?
どこかで、聞いた覚えがあるような。社交界の事を何にも知らない俺がどうして知ってるんだろう。
「彼は10歳以上年上でしたが、地味な私にも親切でした」
地味……
人目を引く美女の彼女が何でと思ったけど、髪や瞳は黒一色だ。今のようにグラマーな体形ならともかく、少女の頃なら金髪緑瞳のシャロン姉さんと比べれば地味と考えるかもしれない。
「けれど私が13歳ごろになり、身長が伸び始めると『どうして君はシャロン嬢と違うんだ』と陰で度々言われるようになりました。それを母が知り、私たちは縁が無かったと婚約を破棄することになりました」
……思い出した……ハンバート侯爵の三男……
シャロン義姉さんに手を出そうとして、ギルバード兄さんが手を回し社交界から追放したんだ。
幼女しか愛せない性癖の持ち主だったらしい……
被害者はいなかったみたいだけど、その手の絵画を買いあさっていた事で発覚したんだ。
婚約破棄になった理由は簡単に想像つく。
お義母さんも、あの容姿で苦労しただろうし。
『なんでシャロン義姉さん、いつもみたいに直接反撃しなかったんだろう』と当時は不思議だったけど……可愛い妹分が、そんな事を婚約者に言われていたら、ぶん殴るだけじゃ生ぬるいと激怒したんだ。相手を社会的に抹殺にしなければ、気が済まなかったから……それでギルバード兄さんに頼んだんだ……
「落ち込む私を皆が必死に慰めてくれました。特に母とシャロン義姉さんは『あなたの成長を喜べないような奴の事は、考えなくていい! 』と強く言ってくれました……」
うん、心からの言葉だと伝わってくる……
「けれどシャロン義姉さんのように可憐でない私に、この先結婚は望めないと思ったのです」
なんで、そんな事を思っちゃったんだよ~! いっちゃあ何だけど、幼女体型が好きって人の方が稀なんじゃ……
あっそうか、ユリアは母も幼女体型だ。
身内がそれなら、社交界にデビュー前の幼子は勘違いするかもしれない。
『ちょっと思い込みが激しいけど』
シャロン姉さんに、かけられた言葉を思い出す。
俺の戸惑いに気がつかないのか、ユリアは話を続けた。
「新たな縁談を探すのをためらう私に、従兄のお兄様が『男なんて幾らでもいるぞ。俺が団長をしている騎士団で働けばいい』と秘書官の仕事に誘ってくれたのです」
繋がった~! それでユリアは騎士団で秘書官をしていたんだ。そういえば、リアさんは団長の親戚の娘だった! じゃあ、本当に同一人物!?
「そこでアレン様に恋をして……休暇中に夫婦で会いに来てくれたシャロン義姉様に、気持ちを零してしまいました。わたくし、シャロン姉様の夫がアレン様のお兄様とは気が付かなくて……」
ギルバード兄さんとは似てないから、気が付かなくても無理はない。
……えっ、俺に恋!?
「そうしたら、シャロン義姉様が『アレンならチョロいから大丈夫よ』と、話がドンドン進んでしまって」
あ~シャロン義姉さんの言いようが目に見える。
「従兄のお兄様も『アレンはおススメですよ。要領は悪いですが、クソ真面目ですから』と仰ったので、お父様も乗り気になって」
団長、推薦してくれたのは嬉しいですが言葉を選んでください!
「お母様だけは、最後まで渋ってらっしゃいましたが。もう少し、慎重に考えたほうがよいと」
そりゃ、最初の婚約者が幼女趣味なら慎重にもなるよな。
「それで一年ほど身辺調査をすることになって……あの……アレン様のお兄様の発案で……それで、何も問題が無いってことになって、今回の婚約に……」
リアさんが団を辞したのは去年。一年と言うのは結婚準備ではなく、俺の身辺調査の期間だったのか。
居たたまれなさそうなユリア。
気遣いは嬉しいけど、兄に売られるのは慣れているから大丈夫です。
落ち込むユリアに声をかけようとすると、彼女は俯いてしまった。
「アレン様には本当に申し訳なく……わたくしのような、みっともない女の婿にならなければいけないなんて……」
えーっと、妖艶な色香を漂わせている美女が世迷言を言っている。
「ユリアはとても綺麗だと思うけど」
「いえ! シャロン義姉様と似ても似つかない、だらしのない身体をしたわたくしなど、アレン様の好みとかけ離れています! 」
俺は一般的な感性の持ち主だから、ユリアの豊かな胸が気になって仕方ないけど。
「なぜ、俺がシャロン義姉さんみたいな体型が好みだと考えたの? 」
また、団長あたりが適当な事を言ったんじゃ……
ユリアは思いつめた顔で言った。
「胸が大きくなり始めたころ、思い切ってアレン様に聞いたんです。『オッパイの大きい女の人は好きですか? 』って。そうしたら小さい方が良いと力説されていたので……私、聞き違えたのでしょうか? 」
……はい、思い出しました~! 言いました~! 犯人は俺でした~!!
当時、気になってたリアさんに聞かれて焦って答えました。
てっきりリアさんが、自分のスレンダー体型を気にしていると思って。思いっきり主張しました。
思い返してみると、あの頃のリアさんはブカブカした服を着ていた。あれは成長期により変化し始めていた体型を隠していたんだ。
リアさんなら、どんな姿でも素敵ですと答えておけば良かった……
小さな胸が好きなんて、バカな事は言わずに……
過去の己の所業を嘆いていると、ユリアが話を続けた。
「それで、アレン様との結婚は形だけにしようと……」
「イヤだ~!! 」
思わず叫ぶ。なんで両想いの女の子と、白い結婚なんてしなきゃいけないんだ!
「俺はユリアが好きです! そしてユリアの大きな胸も大好きです! だから本当の夫婦になりたいです! 」
……また、決定的に言い間違えたような……
だが、ユリアは一瞬驚いた後、満面の笑みを浮かべてくれた。嬉しいと喜んでくれた。
良かった……気持ちが通じ合ったことに安堵していると扉が開く音がした。
「アレンの声がしたとおもったら、ユリアと一緒だったのね」
シャロン義姉さんとギルバード兄さん、そして何故か騎士団長まで入ってきた。
「えっえっ……?」
戸惑う俺をよそに、シャロン義姉さんはユリアに話しかける。
「その様子だと、もう大丈夫なようね」
顔を赤らめ頷くユリア。可愛い
「だから心配ないって言ったでしょ。アレンは可愛い子なら誰でもいいんだから」
ちょっとシャロン義姉さん!? その言い方だと、人聞きが! 俺は性格が可愛い子なら外見は気に気にしないってだけで!
あと、何でなぜ団長がシャロン義姉たちと一緒に?
ユリアが嬉しそうに団長に駆け寄り話しかける。
「アーサー兄様も来てくださったんですか?」
戸惑う俺にギルバード兄さんが説明してくれた。
「アーサーさんはユリアさんの従兄で、シャロンの実の兄だぞ」
はっ? 団長がシャロン義姉さんの兄!? にっ似てない!
団長がぼやく。
「何故、驚いているんだ? シャロンの結婚式の時に、親族席に俺もいただろう」
ギルバード兄さんの結婚式……祝いの席という事で初めて酒を飲み、酔っぱらってしまい、記憶がほぼ無い。
「……ははは……」
曖昧に笑い、誤魔化す。
ギルバード兄さんが、俺の騎士団の様子を知っていた理由が今さら分かった。団長から聞いていたんだ。
「それで、誤解は解けたのよね」
「ええ! アレン様は、私のオッパイも好きだと仰ってくださいました! 」
あっ、まずい!!
一気に室内が氷点下に下がる。団長が顔を両手で覆い、天井を仰いだ。
ギルバード兄さんは、俺と目を合わせないように下を向く。
ユリアだけは雰囲気が一変したのに気が付かないのか、ニコニコとしていた。
シャロン義姉さんの声が、静かに響き渡る。
「ユリア……喉が乾いたの……応接室にお茶の用意をお願いできるかしら……」
戸惑うユリアを、団長が扉の外へ促した。
慌てて2人の後に続こうとした。しかしシャロン義姉さんの意図を汲み取ったギルバード兄さんに、背中から羽交い絞めにされた。
もがいても振りほどけない!
どうして、騎士でもない兄さんがこんなこと出来るんだよ!
「諦めろ。とりあえず殴られとけ」
兄は弟を見捨てた!!
シャロン義姉さんに視線を向けると、平手ではなく握りこぶしだった。
「さー、いっかいめ~!! 」
シャロン義姉さんの気が済むまで、俺はボコボコに殴られた
腫れあがった俺の顔を、ユリアがオロオロしながら優しく手当をしてくれた。
だから悔いはない。
甘い恋物語は、さいかいの痛みに耐えてから 完
筆者がダジャレ好きなため、こんなオチになりました。
創作していて、とても楽しかったです。
企画してくださった、武 頼庵(藤谷 K介)様ありがとうございます。
以下、登場人物の設定です。
主人公 アレン
茶髪で茶目の短髪。野性味があるイケメン。笑うと愛嬌がある。筋肉質。
単純、大雑把、ヘタレ。諦めが良いようで粘るときは粘る。 素直。ブラコン気味。
19歳。
ヒロイン ユリア=ハリス
黒髪で黒目の、長身の大人っぽい美女。スレンダーにもかかわらず、腰と胸はある。
目元のほくろがチャームポイント。
性格は、思い込みが激しく単純。頭はいいけど子どもっぽい。すぐテンパる。
18歳。 いとこの強いお姉さんであるシャロンを崇拝している。
兄。ギルバード=ブロンテ
銀髪で紫の目の王子様の外見。頭もよく、なんでもそつなくこなす。婚約者の事になると感情的になる。基本的に良いお兄ちゃん。弟が可愛い。
25歳。
兄嫁 シャロン
金髪、緑の目の可憐な美少女。見た目14歳ぐらい。
但し外見だけ。中身は苛烈で皮肉屋。自分を外見だけで侮ってきた大人たちに囲まれてきたので辛辣。頭もよくなんでもそつなくこなす。優秀。ユリアが可愛い。
22歳。
団長 アーサー
面倒見の良い長男気質。部下たちからの信頼も厚い中間管理職。アレンは優しすぎるから騎士には向かないと心配していたので、国の政策変更にほっとしていた。
シャロンとギルバードに護身術を教えた。よくギルバードと二人で飲みに行き、アレンを話題に盛り上がっている。アレン、ユリア、ギルバード、シャロンが可愛い。
32歳