仲間で友達
彼がフリーズしてから30分くらいたったかな?時計がないからいまいちよく分からないけど。あ、風雅のシャツからちらっとタバコが見えた。
まあそんな事はどうでも良くてそろそろ暗くなり始めていた。
夜の森を行動するのは圧倒的自殺行為なため彼がフリーズしてる間に私はそこらに落ちている枝を集めて焚き火の準備を始めていた。あと石も少々。
集めたそれらをいい感じに組み上げて焚き火の台を作っていく、意外と難しいな?焚き火組むの。
それからしばらく試行錯誤しながらついに完成した。
「我ながらいい出来栄えじゃない?」
無意識のうちに口からそんな言葉が出てくる中、やっと風雅が現実を受け止めたのか現実に戻ってきた。
「お見苦しいものをすみません……」
開口一番謝罪の言葉が風雅の口から出てくる。
「普通自分の体が突然変わってたらそうもなりますよ、それと敬語は無しで構いませんよ」
「そうです…そうかありがとう、ナギサさんも敬語は無しでいいですよ」
微妙に敬語が残ってる様な気がするけどいっか。
「なら私も敬語は外すよ、それよりどうだい焚き火の準備をしていたのさ!」
ほんのり自慢するように焚き火を見せる、まだ火は着いてないし周りも暗くなってきて見にくいしで、ちょっと閉まらないがいいだろう。
「おぉ〜準備してくれたのはありがたい、でも火はどうするんだ?」
当然の質問である、焚き火の台があっても火がなければどうしようもない。
だが私の直感はこう告げていたため台を作ったのだ。
「風雅さん貴方ライター持ってません?」
「…なんで持ってると思うんだよ、いや持ってるけどさ……」
予想的中!やっぱりライターを持っていた。
「いや〜さっきポケットの中にタバコが見えたから持ってるかな〜と思って」
「……よく…見てるな……」
なんか引かれた気がするけど私は気にしない!だって多分5年ぶりくらいの人との会話だもんテンション上がっちゃうよ。
それはそれとして風雅からライターを少し借りる、普通に枝に火をつけようとしても火はつかない、そのためひと工夫する。
まず枝を1本剣で薄く細長い形に削る、この時そのまま削りきらず枝にくっついてる状態にする。
それを何度も繰り返して水筒を洗うボトルブラシの様にワシャワシャにする、言い忘れていたが枝が杉だったらちょっと嬉しい。
そしてその枝にライターの火を近ずけると
「おぉ火が着いた」
風雅リアクションありがとう、こうやって火をつける方法、通称フェザースティックという着火方法だ。
あとさっき杉だったら嬉しいといった理由は、杉とかの針葉樹は油分を多く含んでいるため着火剤として優秀なのだ。その分燃焼時間は短いため使い分けが大事だぞ。
「とりあえず火も着いたし少し休もうか」
「そうだな、俺もそこの鹿?と戦ったせいで疲れた」
私がそう言うと風雅はそう返した、そういえばこの鹿?と戦ってたところに私が来たんだよな。
そんな風に思い出していると風雅が鹿?の方をじっと見ながら口を開いた
「……こいつ食えるか?」
え、食うの?こんな得体の知れない鹿モドキを?
「いやまあ食べれなくはないんじゃないかな?」
「ふーむ、ナギサさんちょっと剣貸してくれません?捌いてみます」
「鹿の捌き方知ってるの?」
「いや全然知りません、でもずっと動かないって事は俺が仕留めた鹿なんだ、日本人として狩ったものをそのまま放置するのはなんか嫌なんですよ」
その気持ちは私も一緒だ、食への探求が強い日本人だからこそ食事を大切にし、命を頂く事に感謝を込める、そんな日本人としての心がそのまま放置する事を拒否する。
「……よし!私も手伝おう!!これでも仕事で地方に行った時に人生の先達から色々と教えてもらったからきっとなんとかなるはずだ!!」
私も決意を固め、2人で鹿を解体し始める。
近くに生えていたツタを何本か束ねてロープの様にする、そして後ろ足に括り付けて木から吊り下ろす。
剣で首辺りを切って血を放血させる。
正直見ていて辛かった、普段だったら絶対に見ないであろう量の血が流れ出ている様子。吐きそうになったが体が木になっているため吐き出す物もなくなんとか耐え忍ぶ。
風雅もきついのか途中からずっと下唇を噛んだまま作業をしていた。
そして血抜きの工程が終わり肉を切り出すのだがなかなか上手くいかずあまり多くは取れなかった。
そして全ての作業が終わり切り出した肉を串がわりの枝に突き刺して焼く。
「……」
「……」
喋る気力がない、あまりにも平和ボケした狩猟も屠殺もした事の無い日本人にはあの光景はきついものだ。
それからしばらくして肉が焼けたため串を持つ、さっき解体した光景が脳裏にちらつくが勇気をだして食べる。
「…美味いな」
「…うん…美味しいな」
初めて自分の手で捌いた肉は格別に美味かった。
いや市販で売ってる豚や鳥などと比べると天と地ほどの差があるけど今の私達にはこの肉が果てしなく美味かったのだ。
肉を食べ終えた辺りで火が少しづつ小さくなり始めた。
そんな中、風雅が少し眠そうにしつつも話しかけてきた。
「まさかこんな体験をするとはな、鹿と戦いそして捌く」
「なんなら自分の見た目も変わっちゃったりもしたけどね」
そんな風に話を続ける、さっきまでの少し沈んだ空気が晴れるような気がした。
「そういえば俺は若返った姿だけどナギサさんはどうなんだ?若返った姿なのか?」
そう風雅が話しかけてきた、そういえば話してなかったような気がするな。
「いいや私はこんな顔じゃなかったよ、向こうで仕事中にやらかして気がついたら木になってたの、そこから何年かたって今日、起きたら人型になってたのさ」
そう話すと風雅は目を見開いてこっちを見てしばらくしてからため息をついた。
「はぁ…転生して木になったと思ったら気がついたら人型になっていたねぇ……もう俺色々とあり過ぎてため息しか出ねぇよ……」
まあそらそうよ、気がついたら森の中に居て鹿に襲われ解体し、目の前の人は人じゃなかった。
ため息も出るわ、私が同じ立場ならため息どころか色々とほっぽり出しちゃいそう。
そう考えているうちに風雅が言葉の続きを言い出した。
「まぁナギサさんが木だろうがどうでもいいさ、それはそれでこれはこれだし」
「とりあえずなんと言うか……よろしくなナギサ」
「……こっちもよろしく、風雅」
きっと私の顔は口角が上がって無意識の笑顔を作っているだろう、まあそれでも一緒の仲間ができたのならそれでいいか。
焚き火の木がパチパチと音を鳴らす中、私達は本当の友達になれた、そんな気がしたのだった。
to be continued……




