踏み出す1歩
目が見えるようになってから3年ほどたった。
正直な話だが飛躍しすぎなような気がするがこの3年間の中で得たものはある。
まずは押し寄せてくる強烈な眠気、これは周囲が冷え込み昼の時間が短い時に感じ、気づくと周囲は暖かく小動物や鹿?の様な生き物の親子が歩いていたのが見えた。
そして眠る前に雪が見えたりした事から、これはおそらく木の休眠期なのだろうと私は考えた。まあ木なんだから休眠期ぐらいあるよな、なんなら木の実が生えてきたりしたし。
あと聴力が復活して音が聞こえるようになった。感動こそしたが目が見えるようになったのとは違いそこまで、いやかなり感動はしたが目程ではなかった。
木になったと理解してからここら辺の感情がいまいち分からなくなってる気がする……
そんな事はさておき、次に気づいた事は私の幹についているこれ、この●についてだ。
外見は白っぽく半透明で、しっかりとした綺麗な丸が描かれている、そんな感じの外見だ。
そして1番大事なのはここからだ、このマークに意識を向けて色々考えてると頭?の葉が揺れ、落ちていく葉の軌道を変えれたのだ!!
……はい…それだけでした。いや最初は驚いたよ、まぐれかな〜って思いながらもう1回試したらできてさ。
落ちてくる葉の軌道を変えて私の周りをぐるぐるさせたり、少しだけ落ちてくる葉を上昇させたりとかちょっと葉を動かせるだけ、色々試したけど本当にそれだけだった。
せっかく私にも超能力が!!ってできると思ってたのにちょっとガッカリだ……
あとは足元?にある鎧、見た感じ中世の騎士が着てるようなプレートアーマーを少し軽装にしてちょっとだけ装飾の着いた鎧。
気づいた時は心の中の男の子がウッキウキになったけど、手足がないから触れる事も前に回って鎧を正面から見ることも出来ないと理解してからはなんとも寂しい気持ちになった。
まあこの3年間でわかった大きな事はこんな感じだ、それにしてもと私は周りを見渡し、
『本当に何も無いな、この場所』
と軽く心の中で思った。
私の体を中心に周りには軽い草原が広がっている。少し離れたところには木が乱立しているのが見えるし、きっと森の中ではあるのだろう。それはそうとして寂しいけどね。
そんな風に考えていると辺りが暗くなってくる、さらに寂しい夜がやってくる。動物達は寝静まり、空を飛ぶ鳥?のような動物が頭に止まり鳴く。
その時足元の鎧の方から何か光るものが見たえ気がするがもう周りも暗くなってきてるからよく見えない、仕方ない明日確認するか。
そう考えながら私は意識を遠退け、目を閉じる。瞼がないから目を閉じるというのが正しいのか分からないが意識すると周りを見ないように出来るのだ。
聴覚も同じように遮断する。この体は眠ることは休眠期以外ほとんど出来ないが、人間としての感性が抜けきらないため必死に丸々1年使って擬似的に睡眠を取れるように努力したのだ。
きっとそれはこの状態を夢だと思いたい、目が覚めたら元の世界に戻っている、そんな存在するのかも分からない希望を無意識に求めて覚えたのだろう。
意識が落ちていく、明日足元の光ってた物探さなきゃなぁ、起きたら何か大きく変わってくれないかなぁ、とぼんやりと考えながら私は眠りに落ちるのだった。
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渚が寝静まったあと、暗闇の中冷たい風が森の中を駆け回る。
風により樹にある葉が何枚も落ちる。
途端に幹にあるマークが鈍く光り始める、まるで長きに渡り誰にも使われなかった剣が初めて使われるように。
この時を待っていたようにマークが光り、樹が変化していく。
落ちる葉は周りを踊り、伸びる枝はその身を揺らす、幹はうねりその身を創る。
新たな体を創り出し、1歩踏み出す足を創る。
その時、森の方から【ガサリ】という音と共に何時かの人ならざる者が現れ見守るようにその場に佇む。
そして樹に止まっていた鳥は飛び立ち、周りを飛び始め、やがて地面に降り渚の方をじっと眺める。
樹のうねる音と共に形が変わり、森の宴かのように美しく、そして神秘的に変化していく。
森の宴は続きその姿を現し、やがて樹は動きを止めた。
樹にはまるで玉座の様な窪みができ、その窪みの中に1人の人型の姿があった。
男性とも女性とも受け取れる体つき、樹皮の様な模様が入った木人形の様な美しい肌、眠っているように閉じられた瞼に少し尖った耳、樹の葉を宿したような深緑の髪。
全ての工程を終了したのかマークは光を収め、樹は沈黙する。そして人ならざる者も森の中に消えていく。
舞っていた木の葉が落ちる中鎧が【カシャン】と音を立てて、支えを失ったように項垂れる。
全てが終わり森にまた静寂が訪れる中、太陽が上り始める。
暗闇を乗り越え未来へ踏み出す1歩目、その始まり。
鳥は飛び立ち太陽を背に姿を変える。
祝うように、呪うように、夜明けの如し姿の鳥は空を舞う。
苦痛や悲しみを背負った世界への第1歩、それを照らす太陽と鳥の姿。
これは絶望を含んだ夜明けなのだ。
to be continued…