この世界について
お久しぶりです。
「ただ歓迎すると言ってもこれでも村の長、面子のためもありますが条件をつけます」
「まずこちらからは最低限ではありますが衣食住の提供、そしてこの世界の常識と言語をお教えします」
「そちらからは労働力として働いて貰いたいのです、よろしいでしょうか?」
ブラインさんはジェロット側から提供出来る事とそれに対する対価の話をかけてきた。そりゃこちらが受ける側なので文句なんてあるわけない、ただ…
「ありがたいお言葉ですがよろしいのですか?この体では労働力としては力不足、それにこちらが受ける物に対して返せるものがあまりにも少なすぎるのではないでしょうか?」
受ける物に対して返す物が少なすぎる、対価として見合っていないのでは?と考えるのは当たり前のことである。
ブラインさんは私の疑問を聞いて少し頷いたあとほんのり笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「確かに村の長としては利益のほとんど発生しない取引です、ですか先程述べた様に利益のみで村を運営する器は持ち合わせていない、ならば長期的な目で見て利益が出ることにして損のない形にしているだけです。それに……いえなんでもありません」
本当に懐の広いお方だ、利益を鑑みずに見ず知らずの人に手を伸ばせる優しい長、本当にいい所に拾い上げて貰ったよ。
「では君たちの生活する部屋を紹介しよう、着いてきてくれ」
椅子から腰を上げたブラインさんは机に取り付けられた小さなボタンを3回叩いた後、私達に着いてくるように言って部屋から出ていく。
私は風雅にさっきの話をコンパクトに纏めて後を追った。
ブラインさんは役場の中を進んで行き、先程居た部屋から曲がり角を1つ曲がった廊下の奥の方にある1つの部屋の前で立ち止まって扉を開けた。
「一部屋しか無いのは申し訳ないが今はここしか空いていないからここを使って欲しい」
扉の奥にはそこまで大きくない窓と2段ベッドがポツンとある個室がそこにはあった。
「少し手狭だが我慢していただきたい、それとこれがこの部屋の鍵だ、持っておきなさい」
ブラインさんは鍵を私に手渡した後、ベストから羽根ペンも紙を取り出し何かを書き始めた。
「風雅くんには早速だがこれを渡して貰いたい、この紙を受付にいる帽子を被った女性に渡して、その後道具を渡されるからそれで掃除をしてもらいたいのだが頼めるかい?」
ブラインさんは紙を風雅に手渡してそう言った。私が通訳をすると風雅は頷き私に銛を渡してから受付の方に歩いていった。
「さてナギサくんはこの世界についてを知ってもらおうか、先程まで居た部屋で待っているからその剣と銛を置いたら来てくれ」
「はい、わかりました」
ブラインさんはそう言うとさっきまでいた応接室に戻って行った。私は持っていた剣と銛を部屋に置き早足で応接室に向かった。
――――――――――――――――――――――――――
コンコン「失礼しますナギサです」
「ナギサくんだね、入りなさい」
扉を叩き、応接室の中には椅子に座り、部屋を出る前には無かった書類を見比べたりサインを書いたりしているブラインさんが居た。私が荷物を置く少しの間にも仕事が入ってくるとは村長というのは忙しいものなのだな。
ブラインさんは書類を机の隅に寄せ、応接様の椅子に腰掛けてこちらを向いて話し始めた。
「まずはそこに座って、この世界について軽くではあるが教えて行こうと思うのだがナギサくんはこの世界についてどこまで知っているのかな?」
「この世界についてですか?正直ほとんど知りません。せいぜい私達の居た世界では見なかった動植物が繁殖していること、言語が違うことくらいしか知りません」
この世界のことは全く知らない、本当に微々たる事しか知らないのだ。
「そうですか、では私の種族は分かりますか?」
そう聞いてきたので改めてブラインさんの体を見ると明らかに違うところがある、そう耳である。そういえばチョッチルさんもブラインさんも、なんならここに来るまでにすれ違った人もほとんどの耳が尖っていた事を思い出した。
「耳が長い……エルフ?」
耳の特徴からエルフなのか?と思った私の回答を聞いたブラインさんは少し笑っていた。
「フフッ、異人種の方達は皆間違えるのですね、私の種族はエルフではなく長耳種です」
「長耳種?」
「ええ、この世界にエルフという種族は存在しません、このような長い耳を持ち遠方の音を聞くことが出来る種族を生体界 長耳種と言います」
「そういえば界の説明をしていませんでしたね、この世界では主に生体界、魂動界、半魂界の3種の界で生物は分けられています、先程から言っている異人種は半魂界に当てはまりますが、詳しく説明は後日改めて行いましょう」
長耳種、前の世界では聞いたこともない種族と界、正直よく分からないところが多いがそこは後日聞こう。
そして私はふと思った、さっきから出てきている異人種は風雅の様な者を言うのなら私は一体何なのだろう……。
そのように思考を巡らせているとブラインさんが立ち上がり、少し近づいて
「先程の知っていることを聞いた際には出てきませんでしたがナギサくん、このようなマークを知りませんか?」
軽く左腕の袖を捲り、前腕をこちらに見せた。
「!?、そのマークは!」
「やはり見た事があるのですね」
ブラインさんの前腕には、私の右目にある●のマークの様な■のマークが付いていた。
「この体に描かれている印は魂に刻まれた【マーク】と呼ばれる分かりやすく言えば能力保持者の証です」
「能力保持者の証……」
「はい、3人に1人は持っていると言われており【マーク】は大きく3種類に分けられています、まず私の腕にある■は主に他に何かを付与や、身体的特徴の拡張などの能力が主です、ちなみに私は付与の能力を持っています」
「そして●は主に発動系の能力や操作系の能力が主です、▼は物体の創造や何かの放出系の能力が主にあります、【マーク】の上も存在しますがこちらは後日資料を作りお渡ししましょう」
魂に刻まれた能力……正直よく分からないが何となくこれが魂の1部であることだけは何となくわかる。
「全くもって知らないことを今いっぺんに聞いたのだ混乱するでしょう、焦らずゆっくり覚えて行きましょう。今回はここまでです、また次回詳しく説明しましょう」
「ブラインさん、お時間ありがとうございます」
「いえいえ、今日は疲れたでありましょうし風雅くんをよんで部屋でゆっくり休んでください、食事の時にまた呼びに行きますので」
「何から何までありがとうございます、では失礼します」
私は応接室を出て風雅を呼びに行ったのだった。
――――――――――――――――――――――――――
side
「年齢の影響か語彙がまとまりきっていませんでしたが適応の早い子でした」
椅子に腰掛けたブラインが書類を読みながら独り言をこぼす。
「猶予は、あと3年、いや4年か……」
書類を読むのをやめて近くの本棚からとある日記を取り出し眺める、その日記には1枚の写真が挟まっている。
「あの子たちなら大丈夫だろう、そうだよな◻︎◻︎◻︎」
ブラインは日が傾き夕焼けの見える窓の外を見ながら呟いた。
写真の中には若い頃のブラインともう1人若い男性が映っていた。
to be continued……
前回第2公演から崩れる可能性があるといいましたが第1公演の時点で崩れそうです。
忘れていなければどこかで渡された資料という形で種族と能力の詳しく説明を投稿します。




