終わり、そして開幕
初投稿そして初執筆です。大目に見てください。
そこそこ暑い日差しの差し込める5月の昼下がり、飯を食い終わった俺は、外でいつも通り道具の点検をしていた。
俺は林業の仕事をしていてこれから山に入って木を切りに行くのだ、そのための点検をしている。
するとそのに1人の中年の男が少し離れたところから声をかけてきた。
「おーい渚く〜ん、道具の点検するのはいいけど日陰でしないのかい?」
声をかけてきたのは今年で林業歴20年越えのベテラン林業従事者の大橋 静雄さん、通称おはしさんだ。
「でもおはしさん、これくらいの暑さ耐えれないとあの山での作業きついですよ。」
そんな事を言いながらしれっと道具を片付けておはしさんの居る日陰へ移動する。
そういえば名乗り忘れていたな、俺の名前は若海 渚、まだ入って2年目の林業従事者だ。
「そうは言ってもそれで体調でも崩したら本末転倒じゃないか。」
「いや〜ごもっともで。」
和気あいあいと話しながら点検を終わらせる。この職場の良いところだ。
そんなこんなで時間は過ぎ、山に入り作業を開始した。
【ピーッ!】
笛の音とともに離れたところの木が倒れる。この職場では木を倒す時に笛を鳴らして近くに人が来ない様にするのだ。
もし倒れてくる木に潰されたりしたら、それはもう高速道路で大型トラックに跳ねられるよりも悲惨なことになる。
そんな事のないように笛を鳴らすのだ。
「オーイこっち、誰か手伝ってくれ。」
「ハーイ今向かいます。」
誰かが手伝いを要請したようだ、おそらく切り倒しにくい所に生えている木を倒すのだろう。
倒しにくい木はロープを使って倒すのだ。
まず木の上の方に長いロープを結び、倒したい方向の近くにある木を行く。
そして倒したい方向の木に滑車を着けてさっきロープを滑車にかける。そしてそのロープを引っ張りながら切りたい木の根元を切ると
【ベキベキ…ドーン】
という感じで倒したい方向に倒せるのだ
「渚くんちょっときてくれない?」
おはしさんが俺を呼んできた。ちなみにこの職場で俺を渚呼びするのはおはしさんだけである。
「なんですか?おはしさん、また前みたいに美味しい飲み屋さん教えてくれとでも言いますか?」
「いや流石に仕事中は聞かないよ。」
軽く話しながらおはしさんの方へ向かう、というか仕事中じゃなかったら聞くのね。
近くに着いた時、おはしさんは指をさしながら言った。
「それよりあれ、見てみな。」
おはしさんが指さしたところには樹齢が300年以上は余裕で過ぎてるであろう樹木が…ではなく、そこから少し離れた下にあるそこそこの大きさの杉の木を指さした。
「あの木がどうしたんですか?」
「いや〜あの木を切らなきゃ行けないんだけどロープかけてきてくれないかい?」
おはしさんはそう言って俺にロープと一本梯子を渡してきた。
「了解しました、端っこ持っててくださいよ。」
そう言いながら俺は梯子を立てて登っていく。
ロープは上の方で結ぶ方が良いとおはしさんに教えてもらったため、なるべく上の方で結び始める。
ある程度結び終わった瞬間
【ビュウッ!!】
と突風が吹き始めた、ここはどうしても偏西風がぶつかるかなりの大きさの山なので、よく風が吹く、本来これくらいの突風なら問題なかった。
問題無いはずだった。
「渚くんッ!!」
突然おはしさんが今まで聞いたこともない様な周りの小動物が逃げる様な大きな声で名前を呼んできた。
何事かと突風のなか後ろを振り向くと先程見た巨大な樹木がこっちに傾いていた。
【バキバキバキバキバキッ!!!】
そんな音とともに巨木が倒れてきた。
人の配置はしっかり覚えている、上には誰も居なかったはずだ…
あの大きさの木がそう簡単に倒れてくるはずがない
周囲の安全確認はしたはずだッ
誰かが間違えて切ったなんてことは無いはずだッ
だって他のメンバーがこんな初歩的なミスをするわけがないッ!!
様々なことが考えつくがそこに答えはない、運命には抗えない。
時間がゆっくりに感じ、過去の記憶が脳内を駆け巡る
(これが…走馬灯ってやつなのか…)
目の前に迫る巨木、もう既に太陽は見えなくなっていた。
(父さん、母さんごめん…おはしさん…ありがとうございました…)
迫る巨木を前に目を閉じる、目の前の"死"に覚悟を決める。
目を閉じる前に見えたのは青ざめて必死の顔をしてこっちに向かうおはしさんの顔だった。
そして巨木が俺に当たる瞬間、こんな山の中、絶対に聞くことの無い、絶対に聞こえないはずの音が俺の耳に聞こえてきた。
【チリン…】
その鈴の音を聞いたあとすぐ、俺は巨木に潰され、意識は永遠の闇の中に消滅したのだった。
to be continued……