プロローグ
友達と遊んだ帰り道、上村稲音は巷で噂される【濃い霧】に遭遇する。
様々な曰くが飛び交う濃い霧、そんなの気にせず進むが抜け出た先は【我が家】では無かった。
稲音「助けてくれたら、と、とと、とびきり美味しいのを食べさせてあげる!!」
私は目の前に居る強そうな猫に向かい、必死にそう叫んだ。
◆
時は少々遡る…。
◇
私は上村稲音、飲食店パートをやっている30歳の独身。
この日は仕事がお休みで、友達と日が暮れるまで遊んでいたんだ。
その帰りにコンビニでミルクプリンと愛猫の大好物のぢゅ〜るを買って愛車で家に向かっていたんだけど。
道中、急に真っ白な霧に包まれて。
あっと言う間に四方八方真っ白けっけ。
こうなったら仕方ない。
こんな機会は滅多に無いし!堪能しながら進んじゃお!
なんて思ったけど、流石に壁や人などにぶつかるのも嫌だから、灯りをつけながらゆっくり走ったよ。
それにしても本当に濃い霧だ、まさかうちでも発生するなんてね…
あー実はさ?濃い霧が各地で発生している!ってテレビのニュースで連日放送していたんだよね。
1年以上続く上に予想以上に濃い霧みたいで、皆怖がっちゃってさ、色んな噂が流れたよ。
中には【これは宇宙人の仕業か!】なんて言って真相を解明しようと動くVチューバーが出てきたり、バラエティ番組では【神隠しの霧】なんて言って特集が組まれたりして結構な盛り上がりを見せている。
挙げ句【異世界への誘いではないか?】とか痛いセリフを言う人も出始めたり、いやいやそれはありえないって。
そりゃ私だって若い頃はそんな事を夢見たよ?
異世界いいなぁ!スローライフしたーい!なんてさー。
けどね〜、月日が経つに連れやっぱり付き纏うんだよ【現実】ってやつは…。
【現実】はね、生真面目だからハッキリ言うんだよ?
異世界に行った所でそこら辺にいるごくごく普通の人となんにも変わらんってね。
うー、なんだか虚しくなってきたからやめやめ。
お!なんか目の前の霧が薄くなってきた。
稲音「良かった、やっと出れる」
安心からか声が出ちゃった。
うん、考えるのは止めよう!
それこそ現実に戻らなきゃ!
ここを抜ければすぐに我が家だ、まだ時間は7時ぐらいだしお風呂に入って母さん達に友達の話を聞かせてあげないと。
自転車のスピードを少し上げる。
光が差す出口に突っ込み飛び出した瞬間。
目の前に人……
…が?
いるぅぅぅぅ!?
咄嗟に両サイドのブレーキレバーを握り締めた。
キィィィ!と耳障りな音と共に停車、逆ウィリー【通称・ジャックナイフ】になって、その後どしん!と戻った反動で腰が痛い、怖かった〜〜〜(泣)
いやいや、それより!
稲音「ごめんね君、大丈、夫…?」
へたりと座り込んでいる目つきの悪…、ではなく!目つきが鋭い三つ編み金髪の少年にそう訊ねる。
後半ぎこちなくなったのは彼の格好が中世ヨーロッパ貴族のような風貌だったから、ちょっと笑いそうになったんだ。
も、勿論堪えたよ!?
彼は最初、ヒクヒクと引き攣っていたけど、段々と落ち着いて来たのか、次第にその眉間にシワが寄り嫌悪な顔に変わっていく。
ああ、コレは怒号が出るパターンかな?
わざとでは無いが怖い思いをさせてしまった事には変わらないので覚悟を決めて身構えていると、その口から出たのは…
?「ハズレだ」
ハズレ、ん?ハズレ??
ハズレと言う言葉に首を傾げていると、左右に逃げていた残り2人の少年が金髪少年に近づく。
?「グレット大丈夫か?」
グレット「ああ、それより見てみろよマーン、ロルブ、ラスト召喚はまさかの大ハズレだぜ」
マーン「え、…ああ、うん、確かにハズレだ、めっちゃ地味だなこりゃ」
グレット「くっそー!1ヶ月前は大アタリが4人も来たから今回も期待してたのにスカかよ!?しかも1人!コレが最後の召喚だったのにぃぃ!」
マーン「まぁこれランダム召喚だし、そんなもんじゃね?てか、もう出来ないの召喚?」
グレット「ああ、お祖父様にバレた、だからせめて最後にって思って見張りを掻い潜って来たのに、来たのに〜!うがー!!」
マーン「気持ちはわかるぜ…、これじゃあなぁ?」
ロルブ「2人共酷すぎー、ここはよくある言葉、ごくごく普通って言わないとー」
グレットと呼ばれた金髪少年は頭を抱え地団駄を踏んで心底悔しがり、マーンと呼ばれたモジャ髪のキツネ目少年はガラクタを見るような目で私を見て、ロルブと呼ばれたベリーショートのでっぷり肥えてる少年はフォローと言う名の嫌味を言ってきた。
うぐぐ、初めて会った人に向かい散々だなこいつ等?!
ハズレとかアタリとか人をガチャの景品みたいに失礼な!?
私がもう少し若かったら乱闘してる所だ。
しかし正直、大人になってからは守りに徹している為、面倒事は避けたいのが本音。
よって!私は関わらない事を選択する。
一旦自転車から降り彼等を横切ると再び跨り、目の前に広がる草原に胸を躍らせながらペダルを漕ぐ。
後ろから『おい待て!』とか定番なセリフが聞こえるけど無視無視!
あっと言う間に少年たちを引き離し私は近くの森に入った。
◇
◆
木漏れ日を浴びながら私は色々考えていた。
特にあの不良達が言っていた『召喚』って言葉、つまりは私は召喚されたって事、まさか本当に異世界に??
稲音「あの場所にもう一度行けばもしかしたら帰れるかも知れないけど、まだ居るよね流石に…」
停車して後ろを振り返り恨めしげにあの不良達がいる方向を睨んでやった。
稲音「はぁ…、これからどうしよ…」
もし本当に此処が異世界なら、最悪な結果、野垂れ死にしてしまう…!?
だって私は…。
①虫が嫌いで野宿出来ない。
②サバイバルのノウハウも知らない。
③護身術も覚えてない。
④ご飯はカレーしか作れない。
⑤そもそもこの世界のお金を持ってない。
あるとしたらリュックの中にあるミルクプリンと猫用おやつのみ。
稲音「あー!!無い無い尽くしの雑魚キャラ以下だよ〜〜!!」
頭を抱えて空に向かって叫んだ、その時。
ガキン!
ガガ!!
シュシュ!キーン!
金属の弾ける音、空気を裂く音、地面を抉る音。
騒がしい音が森中に響き、驚いた鳥たちが騒ぎながら空へ飛び出していく。
稲音「なんだろ」
胸騒ぎがする…、怖い…、けど…、でもっ!
私は急いで音の方へ向かう。
その後ろから一匹の猫がついてくるのは気が付かなかった。