気まぐれエッセイ[心模様]
置き去りにされた 風景は
作詞:たけぼんだぬき
三毛猫の毛を 休日の風は
弄ぶ 日のあたる 縁側に
寝そべって 夢を見る
おばあの声が聞こえる
でこまわさんでか
こんにゃくと 小芋と 堅豆腐
でこに味噌付け 火鉢に立てる
香ばしい匂いが 鼻をくすぐる
おやつの時間 時々はでこまわし
くるくると火にあぶる
でこが舞う
あつあつのでこを食う
口の中にいっぱいに
よだれが広がる
猫は何処吹く風と眠る
俺はちょっかいを出しに行く
お腹をくすぐる
指先でくちゅくちゅと
猫は 腹を上に向け
四本の足を短く縮めて
じゃれつく
なのに 目を開けない
じっとして 俺のちょっかいを
楽しんでやがる
一番嫌いな事をしてやろうと
前足の ぷよぷよを
いじりだす。
昔足を怪我してから
触られるのを嫌う
痛いのかも知れない
触っている足の爪が
ぴゅっと俺の指に当たる
いたっと言うと
甘えた声で にゃーという
このにゃーが聞きたくて
いじわるをするのだ
でこをまた食べたくなって
おばあの所へ走ってゆく
おばあのごわごわの手から
一本もらって 頬張る
不思議に美味しいだけじゃなく
幸せな気分に浸れる
おばあの優しい匂いが
大好きだったんだ
味噌の焦げる においは
春の昼下がりの時の
頬を撫でる風のように
優しくゆったりと
包んでくれるから
あの味は 真似しようと
しても 出来なかった
酒のつまみにあうと思うのだが
熱燗の湯気にでこが舞えば
楽しいだろうに・・・
でこまわし 食いたくなる
冬の昼下がり
おばあの味で・・・
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休日のひと時
作詞:たけぼんだぬき
カラーン カラーン
遠くに饅頭売りの
鐘の音 毎日同じコースを
売り歩く 早く行かないと
あっという間にいなくなる
窓の外に 枯れて寂しそうな
植木が覗く 君が座る
コタツの上 みかんと 紙袋
今入れた 熱いお茶から
湯気が立つ
玄関に使い古した サンダルと
かかとの減った 俺の靴
寂しげな玄関に 君は
サンダルをひっかけ
駆け出してゆく
あんたは 何個いる?
幾つでもいいよ欲しいだけ
買ってきなよ
俺の財布を君に 放り投げる
うまく受け取る 君
にこりと笑って 飛び出してゆく
残されたコタツの上には
さっき買ってきたたい焼きが
袋に入ってのっかっている
アパートの前まで来た
饅頭売り 君の声が聞こえてる
いつものね といい
ありがとうございます
おばあちゃんの声がする
話し出すと長いのだ
寒くなった時期だというに
カーデガンだけで 風邪引くぞ
そんな事を考えながら
君とおばあちゃんの会話を聞く
全く下らない話ばかり
よく飽きないものだと
思いながら 窓の外にいる
小鳥を見つめてる
空はちょっと曇り空
雨でも降るのかなと
思いながら 休日の昼下がり
ボオォッとするのが 楽しみなのだ
元気な君の声が玄関から聞こえる
買ったらすぐに帰ってこいよ
文句を言う俺
君は ピンクの 舌を
ペロンと出して微笑んでる
全く女と言うものは・・・
独り言をいう俺に
女だから何よ と歯向かって来る
ごめんごめんと謝る俺
情けないよなあ・・・
心の呟きを見透かすような
眼差しを俺に向けてくる
どうせ可愛げのない女だと
思っているんでしょ
いやあ 俺の心を見透かす君
いつも喧嘩しても
勝ったためしがないよな
またも独り言・・・・
いつもの静寂が部屋に戻る
タバコくゆらす俺
お饅頭は食後のデザートねという君
きたねえ と思う俺 おばあちゃんと
話しながら一個もらって 食ってたじゃん
まあいいか そう思いながら
口には出さぬ
君は袋に 手を差し入れて
一個の たい焼きをつまんで
まだ湯気が残るたい焼きを とっても
素敵な笑顔して頬張ってる
まだあどけない子供のようだよ
ふともらした言葉に 可愛く返事の笑顔
つい抱きしめて おきたいと
強い衝動に 照れ笑いの俺は
顔が熱くなる
そんな俺を見て コロコロ笑い出す君
何考えてるの?
そう言いながらも たい焼きを食べている
暑いだけだと誤魔化す俺
君がもう一個摘んで出す
俺に無造作に差し出すたい焼き
窓の外は少し夕闇が広がってきた
もうすぐ飯だろ という俺に
鯛は別腹よと平気で言う君
お茶だけでいいという俺
それより財布返せよ
え! 覚えてた?
もう 君と言う人類は・・・
こんな会話が 休みの日の会話
もうちょっと ロマンチックな
話はないのか そういう自分も
君との会話を楽しむ事を
忘れていたのだね
詰まらない休日 たい焼きと
饅頭で終るのか・・・
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勘定場のおばあとおじいと俺と
作詞:たけぼんだぬき
どてらを着込み
火鉢にごわごわの
手をあぶり 店先を
通り過ぎる人に
声を掛ける
どこ いっきょんな
へえ そこまで
さむいぞな
ほうぞなあ
これで話が終る
おばあは徳島出
ちょっと方言が
讃岐弁と違ってる
おばあの真似を
しようとするが
全然アクセントが
つかめない
徳島出身の 人が
多い町だったから
方言は 主に徳島弁
店先の開け放った
小さな道には 沢山の人が
通り過ぎる そのたんびに
呼び止める おばあ
暇な時は 一日そうしてた
一時間おきに 鳴り響く
大黒柱に 掛けられた
大きな 柱時計
振り子が 右に左に
揺れている
流れる時間は その時計が
支配する 子供の俺には
あまりに大きなゼンマイ巻き
蝶の形の それは 銅色に
渋く光ってた
触れるのは うちの おじいだけ
時間を合わすのもおじい
電話を掛けて 時計を合わす
時計屋さんに 電話を
しているのものだと思ってた
秒針が一マスごとに刻む音
静かな店先に カチコチと
夜中でも 鳴っていた
真っ暗な店先は分厚いカーテンの
中で 漆黒の闇が包み込む
ただ柱時計の刻む音が
真夜中の間 刻んでた
夜中でもボーンボーンと
時刻を知らせる音が鳴る
子供ながらに 不思議だった
まるで全てを支配する
王様のように 俺には
思えたものだ
今の時間と刻む一秒は
同じはずなのに
眠るとすぐ朝が来る
叱られて押入れに入れられ
閉じ込められる 時間は
異常に長く感じてた
あの柱時計が支配する時間に
俺も おばあも おじいも
存在していた
今でも 時々あの柱時計の
時を知らせる音が聞こえる
そんな気がする
ゆったりとした
店先の風景と共に
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道路と 氷と 俺と
作詞:たけぼんだぬき
虚無と現実と 絶望と夢と
哀愁と 残酷と 慈しみと愛と
道路を走り抜ける 無情な風は
容赦なく 身を責め立てる
罪なき我が身 いずくに罪ありやと
一杯のカップラーメン すすり
今日のいのちをつないでも
明日の光りは 来るのだろうか
手は悴み 身はすくみ
道路にしゃがみ ただどろどろの
コートに身を置けば
これでも明日は来るのだろう
財布の中身は 1765円
ネットカフェで眠ろうか
道路にダンボールを引いて
眠ろうか・・・
虚と実と 飢えと 震えと
絶望と 希望と 夢と
静かに眠れれば 幸せという
布団が俺を包み込む事だろう
眠れぬ夜を こうして過ごし
太陽を背に のた打ち回るのか
人生の太陽は遠くにいった
寂しさも 切なさも
どこかに忘れてきてしまった
明日の朝と 財布の中身と
空腹と 望みなき日々を
引き摺って
虚無の俺は生きてゆく
ただ息をし 何も望まず
叩きのめされた 現実に
耐えながら 生きてゆく
犬の遠吠えが 恐怖を煽り
月の光りが 霞の中に
消え去ってゆく
アスファルトの 色が
白く 氷のように
身に迫り来る
小石の痛さに 苛立つ
座る場所すら ないのか
何が 虚で 何が実で
何が 明日で 何が今日で
それすら見えぬ 暗黒の闇
背中に走る 悪寒の震えが
今この時と ただ 思いながら
遠のく 意識の彼方
春の 草むら 陽気な太陽
囀る 小鳥の鳴き声
駆けてじゃれる 子犬の姿
草は 我が身を優しく包む
大地に寝そべり ひと時を
快楽の夢へ 誘う
大空に漂う 白き雲
ただのんびりと過ぎ去る時
眠りの闇に 見えたもの
希望なき明日に 見えるもの
叩きのめされた ぼろぼろの服
雨風凌ぐ軒先は まさに天国
寒雨の中に身を晒し
凍えながら 眠れば
ただ静かな 闇が
俺を包み込む ただ静かに
アンニュイな 気分なまま
ここにいる 俺は・・・
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エッセイ[若き日の 一こま]
作詞:たけぼんだぬき
4畳半のアパート
冬は部屋寒く
夏は線路の跳ね返しで
蒸し風呂以上の 暑さ
働きに行きだして
一番に買ったものは
窓に取り付ける クーラー
窓の一部を改良して扉も
寸法に合わせ 改良
かかった費用で その月は
生活が苦しかった。
大家に承諾を得るのに
時間がかかり 結局
出て行くときは 置いておく
と言う条件で 折り合う
敷金からその分査定してくれる
との事だった。
こんな小さなアパートでも
結局住んだのは6年間だけ
色んな思い出が詰まっていた
浜の 港が見える10階建て
マンションに移り 夏でも
クーラーは不要となり
造りが頑丈なのか
冬も部屋にいると
ちっちゃな ヒーターで
十分な所へ引っ越した
家賃は ボロアパートと比べて
5倍ほどになったが
仕事で稼いでいた金も
ぐんと増えていたから
苦痛じゃなかった
夜に ステレオをかけて
港の灯りを見るのが
楽しみだった
酒と 音楽にかけた
金は 相当な金額になった
一つの時代が そんな俺を
作り上げ 実家に帰るのも
年に一度あればいい方
全く自由奔放に 生きていた
一番大切にしていた女性と
死に別れて 俺は荒れ狂った
喧嘩もしたし 酒に溺れて
だらしない生活を送ってた
金だけが頼りになると信じていた
知らぬ間に
月々の出費は増えた
あっという間に
返済できなくなるまで
落ちぶれた
どん底も味わった
結局そのマンションも
手放した
落胆の中で 故郷へ戻った
時代は バブル崩壊の後
仕事もなかなか決まらず
生活を苦しめた
人生って一度踏み外すと
面白いように 転がり落ちる
それがまた 人生なのかも知れない
もう過ぎ去った過去の事だが
大切な教訓の一ページとなっている
真っ直ぐ幸せに辿り着ける人は
本当に稀だと思う
紆余曲折の中に その人の
深さがあると言った友がいたが
出来うるなら そんな苦しみは
味あわぬが 良い
いい時代の思い出は 一瞬で
脳裏から離れる
辛い事は忘れようとする
楽しい事を思い浮かべて
生きてゆく
希望という 明日に向かって
ただ真剣に 生きてゆく
今この歳になって
やっと気づく簡単な理屈
それが大切なのだと思う
きっと輝く明日が来ると
信じて 自分に素直に
謙虚に 誠実に
ただそれだけで
いいんだと・・・
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エッセイ[老い猫眠る 昼]
作詞:たけぼんだぬき
もう17歳だそうだ
人間で言えば100は超える
まだまだ生きそうな毛並み
生徒の愛猫 いつも同じ場所で
眠っているそうだ
人間を観察してきた 猫の目
どんな風に見えているのだろう
我が家にも 愛猫がいた
交通事故で死んでしまい
それ以来飼わなくなったけれど
時々猫を飼いたくなる
アパート暮らしだから
飼えないことはないらしい
でも亡くなる時を思えば
なかなか飼う勇気が起きぬ
どんな小さくてもいのちは
いのちだから・・・
失う悲しみは 身に沁みている
優しさと 慈しみが
施せる 愛は素晴らしい
きっと心を慰めてくれる
そう思うが・・・
飼いたいという猫と出会わない
きっとこの世には 愛すべきものが
いる事で 勇気をもらったり
慰められたり 愛おしいと
思ったりそんな心が
育てられるのだろうと
思うのだけれど
そう 飼うと言えば
小学生の頃 ひよこを
飼って育てた事がある
俺と友人とどちらが最後まで
面倒を見られるか 親に許しを
得てちっちゃなひよこを
ダンボールの箱を改造して
飼っていた
次第に大きく育ち 友達と
見せ合いっこして可愛くて
育てていた
大きくなると 朝早くに
朝一声っというのか
大きな声で啼く
そのおかげで早起きできるが
母は大変だったようだ
キャベツ等の野菜を刻む時
餌用にとって置いてくれて
俺を起こして餌を与えるのを
俺にさせるのだった
刻んでくれただけでも
有難かったのだが・・・
ある日 学校から帰ると
飼っていた鶏がいなくなった
泣きながら探していた俺に
父は優しく 宥めた
きっと蛇にでも
食べられたのだろうと
いう。
悲しくて その日は
泣きながら 鶏なべを
食べた。
とっても美味しくて
ご飯をお代わりするほど
食べた。
後で自分が食べた鶏肉が
飼っていた鳥だと知った
父が処分したのだと言う
父の言い分は これ以上は
老いて美味しくなくなる
という。
一番美味しい時に食べてやるのが
成仏するのだというのだった
父を恨んだが 自分も食べていたから
何も言えなくて 黙っていた
動物は 本当に覚悟がないと
飼えないものだと思った
ただ可愛いからだけでは
そのいのちに 対面して
自分も 動物も
成長しないといけないのだ
と知ったのだった
人はややもすれば自分勝手に
動物を虐待する事もある
いつもいのちと向き合う
姿勢が 大切なのだと
俺の教訓になっている
腹に収まった鶏は
きっとすぐに俺の血となり
肉となったのだと思った
ごちそうさまの意味を
知ったのだった
2010年1月15日よりスタートしました