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第九話  私は現地妻

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 カーテンの隙間から差し込む太陽の光は、何故、狙ったように目元を照射するのだろうか・・起きたくない・・ああ・・起きたくない・・本当の本当に起きたくない・・


 フローチェは現実から逃避し続けたかった。

 それだけ、今の現実がフローチェにはキツすぎた。


 とにもかくにも、新しく住む家を早急に探さなければならない。

 今住んでいるフローチェの家には、大家さんの娘さんが夫と共に暮らす予定で居るので、明後日までには出て行かないと迷惑をかけることになるのだ。


 そして、早急に新しい職場も探さなければならない。

 今まで勤めていた会計事務所に事情を話せば戻ることも出来るだろうけれど、あの職場には悪の根源であるマリータが勤めているのだ。絶対にマリータとは顔を合わせたくない。だからこそ、元の職場に戻ることは絶対にない。


「ティルブルグを出て、他の街に移動するしかないのかな・・」


 そもそも、新しい家を借りるのにも、新しい職場に勤めるのにも、身元保証人が必要になってくる。フローチェの場合、両親が亡くなっていて天涯孤独の身となっているため、親に身元を保証してもらうということが出来ない。


 知り合いの誰かに保証人になってもらうにしても、どうして保証人になって貰わなくてはいけないのかという説明から入らなければならないわけだ。

 無理、嫌だ、今は何の説明もしたくない・・


「フローチェ、目が覚めた?そろそろお昼になるけど、ご飯食べられそう?」


 ミランダでもなく、大家さんでもない。元恋人のダミアンでもなく所長でもない男性の声に名前を呼ばれたフローチェは、ベッドから飛び跳ねるようにして起き上がると、シーツが捲れ上がって豊かな胸が露わとなる。


「・・・!」


 フローチェが慌ててシーツを引っ張り上げると、ベッドに腰をかけた色男が、フローチェの頬にキスを落としながら言い出した。


「二日酔いでも食べられるようにスープを作ったんだよ」

「あなたは・・バルトさん!」


 近所のバル(飲み屋)で会ったバルトルトさん。酔って潰れて彼の家に運ばれて、美味しく召し上がられてしまった記憶が、走馬灯のようにぐるぐるとフローチェの頭の中を回り出す。


「これが噂の朝チュン」

「朝というより昼だけどね」


 確かに、スズメが外でチュンチュン鳴いているけれど、時計の針は正午を差していた。


 酔いどれフローチェの為に、午前中は休みにしてくれたバルトルトは、それでも午後には職場に顔を出さなければならないのだと言い出した。


「君の家の荷物を早急に運び出さなくちゃいけないんだよね?そうしたら、今日のうちに運送屋に依頼を出しておくから、フローチェの住所を教えてくれる?」

「じゅ・・じゅ・・住所ですか・・」


 それは極めつけの個人情報になるのではないだろうかと思いながらも、荷物を早々に運び出さなければならないのもまた事実。


「で・・で・・ですが・・新しい家がまだ見つけられてなくて・・」

「ここに住めばいいじゃない」

「はい?ここに?」

「昨日、言ったと思うんだけどな・・」


 目の前のバルトルトは、背が高く必要な筋肉がギシッと付いた逞しい体つきをしており、さすが都会からやって来たという感じで、漆黒の髪にアクアマリンの瞳を持つ、精悍な顔立ちをした男前なのだ。


 その男前は形の良い眉をハの字に広げると、

「君の了承も取ったはずなのに・・」

と、悲しそうな表情を浮かべた。


 ちなみにフローチェは昨日、しこたま飲んだ為に、所々記憶があやふやなところがある。そのあやふやな所で、この家に住むような話を進めていたのだろうか?


「えーっと、私はもしかして、家事の腕を見込まれて、この家に住み込み家政婦として働くことが決定したとか、そういうことですかね?」


 飲み屋では確かに、無職の上に家無しとなったのだから、何処かの(老人の)家で、住み込み家政婦として働いたらいいんじゃないかとか、そんなことを考えていたような気がする。


「住み込み家政婦・・」


 ベッドの上で全裸にシーツを巻きつけただけのフローチェは、到底、住み込み家政婦のようには見えないのだが、そんなフローチェはパニック状態で、

「そういうことじゃないんですか?ええ?」

と、言い出した。


「とりあえず僕は、君のことを妻にしようと考えているんだけど、その辺りについては帰って来てからにしよう」

「つ・ま?」


 何の冗談だろうか?昨日出会ったばかりで、ちょっと勢いで、失恋を上書きするのは新しい男が一番とか良く言うし、こんな私に手を出してくれてありがとう!くらいな感じだったというのに!


「聞き間違いじゃないよ?帰ったらちゃんと話し合おうね」


 バルトルトはそう言って色気たっぷりの笑みを浮かべると、シーツを巻きつけたままのフローチェにメモ紙とペンを差し出したのだった。


 フローチェが寝ている間に出かける準備は終了していたようで、凛々しい軍服姿のバルトルトは、

「僕はね、バルトルト・ハールマン、ティルブルグ国境軍の総司令官として任命されてティルブルグの街にやってきたんだよ」


 そう言ってフローチェの頬にキスを落とすと、

「身元も確かだし、不審者じゃないから安心してね」

 と言って、家の中のものを一通り説明すると、職場へ出かけて行ってしまったのだった。


 職場へ向かうバルトルトを見送ったフローチェは、

「たしかに、司令官が王都から派遣されて来るって聞いていたわ」

と、独り言を漏らした。



 国境の街ティルブルクには国防の要とも言われる場所だけに、王都から身分の高い将校が一定期間、箔付の意味で回されてくる。彼らは王都に妻や子供、婚約者などを置いてやって来るのだが、そんな彼らがティルブルクで見つけるのが『現地妻』だ。


 普通は、女性が接待する夜のお店などで、気に入った娘を見繕って金額の交渉をすることになる。もちろん、誰かの紹介で軍の将校の『現地妻』になる場合もあるらしいけれど、ほとんどの場合は、お店でお手軽に見つけるのだと話に聞いた。


 今回、彼の場合、手近なバルに飛び込んで来た失恋女(フローチェ)の、家事が得意、会計事務所に勤めていたから計算が強くて堅実。職なし、家なしという条件を聞いて、自分の都合に合うと考えたのかもしれない。


「妻は妻でも本当の妻じゃない!」


 また勘違いしそうになったフローチェは、二日酔いの頭を水を浴びた犬のように、ブルンッブルンッと激しく振った。


「妻は妻でも現地妻!」


 戸籍にも何にも残らない『現地妻』とは、そのまんま、現地の妻ということ、本物の妻や婚約者、恋人は王都に置いてきているので、現地で賄う都合の良い妻のことである。


 お店などでは、同棲にするか半同棲にするか、通いにするかで金額の設定が変わるという話を聞いたことがある。フローチェの場合は、家の荷物一式をこちらに持ち込むということで『同棲』扱いとなるのだろう。



 もう二度と、誤解や勘違いで苦しい思いはしたくないと心に決めているフローチェは、昨日会ったばかりの男の家のリビングで、ぐるぐる歩き回りながら独り言を呟き続けていた。

 

「信じられない!この私が!王都から派遣されてきた将校様の『現地妻』になるだなんて!」


 今まで真面目に堅実に生きてきたフローチェにとって、一番遠い職業だと思っていた『現地妻』。どんなに歳をとったおじいさま将校でも、若いお姉さんと同棲してキャッハうふふを楽しむことが出来るんだという話は聞いたことがある。


 普通、おじさま将校の場合は、貴族身分の方も多いので、家令や執事、お手伝いさんなんかもついて来ることが多いので、若い『現地妻』はただただ、お手当を貰って寵愛を受けることになるらしい。


 フローチェの場合は二十歳を過ぎている段階で『若い娘』括りには当てはまらない。そもそもこの家には家令とか執事とか、お手伝いさんなどもいないようなので、家事に対してのサポートも望まれた『現地妻』になるのだろう。


 あっという間に職なし、家無しとなったフローチェの目の前に現れた職業『現地妻』、それは、フローチェが憧れてやまない『夫婦』で『家族』が疑似体験出来る職業に違いない!


「こうしちゃいられないわ!」


 二日酔いなんて言っていられない。期間限定イベントが突如として到来したのだから、お金も貰って、とことん楽しまなければ損ではないか!

 こうして、思ってもみない方向に吹っ切れたフローチェは、バルトルト相手に『現地妻』をとことんまで楽しむことにしたのだった。


 ちなみに初日には、

「お帰りなさい!お仕事お疲れ様でした!先にお風呂にする?それともお食事にする?それともわ・た・し?」

 を強行し、バルトルトに大いに喜ばれたのは内緒の話でもある。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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