やりたい放題
本山は伊200号の艦長になると同時に、中佐に昇進して、副長には谷山少佐が就く事になった。一方で、永山元艦長は少将に昇進し、戦艦長門専任参謀になっていた。
「なぁ、タニ?急に艦長になった俺はどうすれば良いんだ?」
「引き継ぎも何も無かったもんな。そこは同情の余地はあるが、俺だって急に副長だぜ?そこも察してくれよ。」
「悪い。」
「別に謝る必要はないよ。」
「つーか大本営は何考えてんだ?本当信じられん。」
とにもかくにも、乗員60人の伊200号潜水艦の艦長は正式な手筈をすっ飛ばして本山になった。一心同体59人が本山を全力でサポート出来れば永山元艦長の運用していた頃よりも良い潜水艦には成るだろう。
と、思いたい所だが、在任期間3年の永山元艦長の影響力は、とてつもないものがあった。
「なぁ、モト?何で永山元艦長は、戦艦長門に左遷されたんだ?」
「バーカ左遷じゃなくて栄転だろ?タニ、お前戦艦長門見た事ないのかよ?」
「そんなにすげぇ戦艦なのか?」
「天下の連合艦隊旗艦だぞ。」
「まぁ、潜水艦畑の永山少将が連合艦隊旗艦で役に立つのかは疑問符だがな。」
「永山少将に何かあったとか?」
「その線は否定出来ないな。」
「現場の意見もろくに聞かず、相変わらず大本営はやりたい放題だな。まぁ、逆らえないのがたまに傷なんだがな。」
そして数日後、嬉しいニュースが本山艦長の元にもたらされる。第1子となる長男をひとみが無事に出産したのだ。
「貴方、私頑張ったよ‼」
「おお、ひとみ良く頑張ったな。お疲れ様。」
長男に本山が会えたのは、誕生後一週間した夏の日であった。
「名前どうしよっか?」
「貴方が決めて。」
「ケイジってのはどうだろう?」
「良い名前ね。それにしよう。」
本山ケイジと名付けられた本山五十八の長男は元気にスクスクと成長する事になる。
「おい!モト!当直の時間だぞ。」
「艦長は当直無いんじゃないの?」
「永山少将の時代は艦長でも当直してたらしいぞ?お前は役職を後ろ楯にして、熟睡するのか?」
「現在の状況は?」
「特に異常はない。」
「何かあれば逐次報告する様に。」
こうして本山は浅い眠りについた。