総入れ替え
次世代潜水艦そうりゅう型が就役したのは、ケイジが海曹長の時であった。米国海軍からの要請に伴いおやしお型潜水艦をベースに、研究開発した海上自衛隊の第2世代の潜水艦であった。
ケイジは、おやしおからそうりゅうへの配置がえを打診されたが、ケイジはこれを拒んだ。
「本山海曹長、一緒にそうりゅうに行きましょうよ?」
「いや、俺はおやしおに残る。」
「おやしおは練習潜水艦に格下げですよ?」
「例え練習潜水艦になったとしても、有事には最前線で戦う現役の潜水艦だ。俺は若くて強い本物のサブマリナーを育てたいんだ。そうりゅうは、お前らに任せた。」
「分かりました。」
先任の下士官や士官はこぞって新鋭艦そうりゅうに移った。防大卒業者の士官は特に多く移艦した。結局残ったのは、ケイジ以外は水野一尉と艦長の武蔵坊一佐だけだった。ケイジが気楽に話せるのは水野一尉位である。
「どうした本山曹長?冴えない顔して?」
「みーんなそうりゅうに行っちまいましたね。」
「まさかこんな事態になるとはな。」
「二人とも安心しろ。」
「武蔵坊一佐?」
「今期の幹部候補生と曹候補生と自衛官候補生合わせて147人入ってくる。嘆いている暇は無いぞ。」
「はい!」
「お前もそろそろ准海尉になれんじゃねーか?」
「水野一尉こそもうすぐ佐官じゃないすか?」
「まーな。お互いに。」
「最先任かぁ…。」
「まぁ、そう気負うな。」
「つーか、何でこんなロートル艦に残ったのか分かるか?本山?」
「分かりません。」
「楽だからだよ。」
「はぁ?楽したいが為におやしおに残ったんですか?」
「あ、あ。そうだ。」
「多くの士官はそうりゅうに移った。これは昇進するチャンスだと思ったんだ。」
「俺はな、本山曹長。二等海士からの叩き上げなんだ。きっと三佐になれないはず。」
「何故そう言いきるんですか?」
「定年だよ。」
「そう何ですか?」
「53歳だからな。」
「あと、二、三年じゃないすか?」
「どんな奴等が来ても構わねーが、定年は変えられない。」
「人事の妙ですね。」
「血気盛んな若者が来るんじゃねーか?」
「やっぱ、そうですか…。」