プロポーズ失敗
「ゴメンゴメン遅くなって。待った?」
「私も今さっききたところよ。」
この日は本山とひとみの初デートの日であった。
「お腹すいてない?」
「今日は朝から何も食べてなくてお腹ペコペコ(笑)。」
「そんな事もあろうかと思って、今日は牛鍋屋を予約しておいたんだ。」
「牛鍋?高級料理じゃない?」
「金の心配はすんなって。さ、ここだよ。」
「どう?美味しい?」
「うん、超幸せ!美味しいわ。」
「海軍は俸給だけは良いんだ。お金の心配はいらないよ。さ、どんどん食べて。」
「本当?じゃあおかわりしちゃおうかな。」
秘密作戦はデマゴーグだったらしく、結局2週間で日本本土に帰還した本山が、仕事終わりのひとみを食事に誘っていたのであった。
「それにしても、海軍の士官ともなると羽振りが良いのね?」
「それはそうなんだけど、俺達潜水艦乗りは、海中や海上で過ごす事が、ほとんどなんだ。だからお金は使わないから、どんどん貯まるのさ。ところで、ひとみさんは彼氏とかおらんの?」
「いないわ。でも親が早く結婚させ様として見合い話を持ち掛けて来るわ。」
「好い人はいないの?」
「今のところ…わね。」
「だったら俺の嫁さんになってくれよ!」
「え?いきなり何よ。ビックリさせないでよ。」
「俺は本気だからね。」
「私の事愛してる?」
「ああ、勿論さ。でも一つ気がかりがある。戦争が起きたら命の保証は出来ないって事さ。」
「だから焦ってるの?」
「軍人と結婚するのは嫌?」
「もう少し考えさせて。」
「前向きにヨロシク!」
「てゆーか、まだ知り合って2ヶ月よ?親とも相談しなくちゃならないし…。」
「ああ。そうだな。」
初デートでいきなりプロポーズを仕掛けた本山であったが、この日は玉砕した。
「私、貴方の事好きよ。」
その言葉が無ければ本山のプロポーズは空振りになる。
「また2週間後に本土に戻る予定だ。その時にプロポーズの答え聞かせてくれないか?」
「うん、分かった。その時も牛鍋屋でヨロシクね!」
ひとみは相当牛鍋が気に入った様であった。
「やべえ。もうすぐ帰隊時刻だ。」
「じゃあまた!」
「うん、バイバイ。」
そうして本山は呉の港に戻って行ったのである。