定年退職の日
「モト、今日で定年だな。お疲れさま。」
「帝国海軍時代から数えて40年。よく生き残れたって感じだったな。」
「定年後の計画は?」
「んー、ひとみと相談して旅にでも出るかな。」
「ケイジ君は?」
「勿論、ずっと一緒だ。」
「大体、ケイジもひとみも、俺が口挟まなくてもテメェの事はテメェで決めるさ。」
「タニ、テメェこそもうすぐ定年じゃねぇか?」
「バレてたか。」
「定年後どうするんだ?」
「建設業に携わろうと思っている。」
「ゼネコン?自衛隊が斡旋してくれたのか?」
「ああ、4月1日から出勤だ。モト?お前は働かなくて良いのか?」
「これからは家族の為に時間を費やすって決めたんだ。」
「家の嫁はひとみさんとは違って不出来な嫁だ。夫婦仲は最悪。家にいるだけで邪魔扱いだ。だったら、働いてた方が良いと思ってな。」
「ゼネコンの幹部職は潜水艦よりきついかもよ?」
「おあいにく様、体力には自信がある。定年が無ければ、あと10年は自衛隊にいる自信がある。」
「それに俺には子供がいない。だから家族サービスの必要が無い。一度きりの人生俺は死ぬまで自分の人生を謳歌するまでだ。」
「いつ死ぬか分からない海兵人生も終わりだ。思えば海軍兵学校時代から、俺達は一般のエリートよりもハードで過酷なsubmarineを任されて来た。」
「生きて帰ってくるも、海の藻屑となろうとも、俺達の活動は公になる事はなかった。でも、今思えばそれで良かった。特攻で無駄死にする事も無ければ、空母同士戦艦同士の海戦にしゃしゃり出る事も無かった。少なくともそれは事実だ。」
「同感だな。海の忍者は死ぬまで任務概要を話してはならない。そう言う特殊な任務に就いてる事が俺達の誇りだった。」
「今日はセレモニーがある。」
「どこで?」
「横須賀基地だよ。ほら、主賓がボケっとしてないで。」
「え?俺?つーかこの格好で良いのか?」
「大丈夫、大丈夫。今日は御愛敬だ。行くぞ。」