ケイジの勝手
俺の妻は良く出来た妻である。妻に出会っていなければ、俺はもっと独り善がりのとんがった司令官になっていたに違いない。
日本海軍の大佐だった頃はほとんど家を空けていた。家に帰れるのは年に一、二度。それも不定期であった。それは妻もよく理解してくれての結婚であったから、妻は不満を絶対口にしなかった。さぞや不安にもさせた。
それでも、日本が戦争に負けてからは、家にいる事が多くなった。海上自衛隊の潜水艦隊司令官になっても、丘勤務の為毎日家にいた。
「今日の卵焼き、滅茶苦茶旨いな。」
「いつもの味付けだけど?」
「米も旨い。」
「潜水艦での食事はそんなに不味いの?」
「潜水艦の食事はハイカロリーなんだ。肉中心で味付けも濃い。しかも毎日4食。とにかく胃に優しくないんだ。だから、ひとみの飯は旨いんだよ。」
「行ってきまーす‼」
「あ、ケイジ?お弁当。」
「母さん。俺今日から中学生になるの忘れてたのかよ?俺の中学は給食制。だからわざわさ近くの中学じゃなくてチャリで通う中学にしたんじゃないか?」
「そうだったわね。ごめん、行ってらっしゃい。」
「父上、行って参ります。帰ったら潜水艦の話たっぷりと聞かせてね?」
「おう。この弁当は俺が持っていくぞ?」
「あ、うん。助かるわ。」
「あれ?ケイジって20歳位じゃないっけ?」
「戦争で中学に行けなかったのよ。そう言う人がたくさんいて、中卒の資格を得て海上自衛隊に入るのが夢なんだって。」
「ケイジが自衛官?あまり進めたくはないが。」
「私はもっと安全な仕事を薦めたのですが…。」
「背に腹は変えられんな。」
「ケイジの奴、中卒だと二等兵からスタートするって事分かってるのか?」
「それに、慣れない寮暮らし…。」
「やる事は軍事訓練だぞ?言っておくが、きついぞ?」
「それはケイジに言ってやって下さい。」
「ケイジには刑事の方が向いてると思うが。」
「どの世界に行くのもケイジの勝手だが、命だけは大切にして欲しいな。」
って事をケイジには知っておいて貰いたいと言う、親の願いがケイジに届くと良いのだが…。