罪
「マサオ・バージル?聞いた事ないな。」
「いや、そりゃあそうだろ。同じ米国人でも、日系人は忠誠心が高く、死ぬ事もいとわない。そんな神風スピリットを持った日系二世の活躍で米国は、ナチスドイツに勝利したんだ。」
「上官が日系二世だと不満なのか?」
「不満が無いと言えば嘘になります。」
「馬鹿正直な日本人だな。おもしろい。言っとくが俺は日本国籍も持っている。同じ日本人同士仲良くやろうぜ。」
マサオ・バージルは潜水艦隊司令官に就くと即座に海将補に昇任した。
「マサオにとっては栄転かもな。」
「若い頃は、ノルマンディー上陸作戦とか、ヒトラーの最期にも参加した、生粋の米国海兵隊員だったらしい。」
「ま、経歴は抜群だな。」
「決めたのは海幕だ。文句なら海幕に言え。」
「どうせもうすぐ定年だ。退役とは言わないんだな自衛隊では。」
「俺達伊400号潜水艦シリーズに乗ってた人間は墓場まで持っていかねばならない秘密を知ってしまったんだ。」
「それでか。いろいろな書類にサインさせられたのは。」
「海軍大将すら知らない秘密が、伊400号潜水艦シリーズにはあったんだ。」
「パンドラの箱だな。伊400号潜水艦シリーズを核兵器搭載可能にしてみろ。立派な戦略潜水艦の誕生だ。」
「だが、もう手遅れだ。伊400号潜水艦の設計図を元に作った原子力潜水艦が就役間近だ。この戦略原潜一隻で日本は守られる。日本は米国と同盟を組んでるからな。」
「時間の問題だが、いずれ米軍は必ずや原子力潜水艦に搭載可能な小型核ミサイルを完成させるだろう。全ての罪は伊400号潜水艦シリーズを拿捕した私にある。」
「いいや、それは違う。この怪物submarineを画策した亡き山本五十六元帥の責任だろう。」
「馬鹿言え。山本長官に罪はねぇ。罪があるとすれば太平洋戦争をおっぱじめた事だ。陸軍や世論に負けてどういう訳か反戦の山本長官が絶望的な終わりの見えない戦争を始めたのは罪だが、山本長官は立派だった。最期まで講和の道を探られていたのだから。」