Fire
「で、後釜は見つかったのか?」
「思う所はあるが、それは海幕が決める事だ。」
「おいおい、それじゃあ誰がなっても同じだっていう風に聞こえるせ?」
「どうせ辞めてく奴の話なんかまともに聞くか?」
「まぁ、司令官はコロコロかわるもんじゃね?」
「だから気にすんなってか?」
「心配してくれてありがたいが、俺は未練は無いぞ。後任の人事はなるように収まるさ。」
「10年潜水艦隊の司令官だったんだ。無理もない。潮時って奴だ。」
海幕も、本山五十八海将の後任の人事には頭を悩ませていた。悩み抜いた末に結局、ハーバード大学卒のエリートで日系二世のマサオ・バージル中将を潜水艦隊司令官に任命した。
戦後の海上自衛隊には、人が思うように集まらず日本海軍出身の士官が溢れていた。GHQのウォーギルトプログラムの成果もあり、自衛隊の存在そのものを否定する人間も少なくなかった。
そんな世相を反映し、これを見かねた米軍が、太平洋戦争で活躍した日系二世を、自衛隊の幹部に抜擢した。マサオ・バージル中将もそんな一人であった。
旧帝国海軍軍人の手により作られた海上自衛隊が、今立ち上げに関わっていない人事がまかり通れば、伝統が風化してしまう可能性があった。そんな中、引き継ぎの準備をしていた本山は、大量の機密文書を燃やしていた。
「what are you doing?」
バージルが本山に声をかけた。バージルの言ってる事は分かったが、無視して燃やす作業を続けた。引き継ぎ等無用。と言わんばかりの行動にバージルがキレた。
「私の仕事を邪魔する行為は止めろ。」
今度は流暢な日本語で言ってきた。
「要らねぇ書類を燃やしてるだけだ。10年も司令官をやってりゃあ不要な試料も、溜まるさ。安心しろ。貴様の業務に必要な書類は燃やしていない。そこのファイルだ。」
「ありがとうございます。」
「潜水艦隊司令官はそんなに楽じゃないぞ?」
「分かっています。でも、米国でのヘイトクライムに比べれば何て事はありません。日本人は日系人を差別しないので安心して仕事が出来ます。」
「差別と区別は違うぞ。俺が貴様の事を信用しようとしまいが、後任は貴様なんだよ。だから俺は見られたくないものを燃やしてるだけだ。」