身分証名証
「艦長、横須賀まであと500㎞です。」
「うむ、分かった。」
そう言うと本山は、持ち場を離れ艦長室に向かった。
「タニ、操舵は任せた。ちょっとやる事がある。」
「おう。任せておけ。」
すると、本山は艦長室に潜り込み、ある書類を書き始めた。その書類とは、伊400号潜水艦クルー全員の身元を保証する英文の証明書であった。
コンコン モト?
「夕食ここに置いとくからしっかり食ってあんま無理をするなよ?」
「ありがとう。もうすぐ終わる。」
「タニさん?艦長何してたんすか?」
「さぁな。でも何か書いてたぞ。さしずめクルーの命を保証する書類でも書いてるんだろ?俺達が日本に着く頃には、戦後の混乱も少しはマシになっているだろ?」
「え、戦争終わったんすか?」
「お前それ時代遅れの質問だぜ?日本は負けたんだ。これからどうなるかは、誰にも分からない。大日本帝国は崩壊する。あくまでも推測の話だがな。」
「マジですか?海軍で飯食ってたのに、これからの食い扶持はどうしたら良いんですか?」
「まぁ、落ち着け。俺が言ったのは極論だ。どうなるかは分からないけど、常に最悪を想定するのが、リスクマネジメントの基本だからな。それに俺達には優秀な伊400号潜水艦の乗組員と言う箔がついてる。何せあの最強戦艦アイオワ擁する米国第5艦隊を殲滅させたじゃないか。米国海軍が今更伊400号潜水艦を殲滅する道理はない。」
「タニ、ありがとう。米軍に提出する書類の作成は終わった。」
「おう、お疲れ様でした。」
確かに冷静に考えて、伊400号潜水艦は接収されるのは間違い無い。総員の命と伊400号潜水艦を天秤にかけたらどちらのウェイトがあるのかは言うまでもないが、総員の命を保証する為の作業を本山は行っていた。流石にそこまで愚かではない。皆よりもこんな化け物submarine大事なんてどうかしてる。命は一度切り。潜水艦は何度でも作れる。