息の根
「お前がサラリーマン?」
「日本海軍の大佐が言う事じゃねーな。」
海軍きっての水雷屋として名を馳せた本山五十八大佐が予備役になる事などまだ先の事であった。
「沖縄に敵の機動部隊が来るのか?」
谷山は不安を感じていた。
「日本海軍の行動は筒抜けだからなぁ。」
「ま、いようがいまいが、目の前の米国軍を撃退するだけだ。」
本山は淡々としていた。
「米国の事だ。近くに機動部隊を忍ばせているつもりだろう。そこが狙い目だ。」
すると、谷山は笑顔を見せた。
「モト、絶対に戦艦大和を守り抜こう。」
「ああ。」
本山の読みは当たっていた。敵の空母機動部隊は、沖縄周辺海域に雁首揃えて待ち構えている。
「大和は沈まない。だからこそ米国海軍は空母機動部隊を持ちいて、大和を仕留め日本海軍の息の根を止めにかかるだろう。この戦は九分九厘日本海軍は劣勢にある。だが、伊400号は最後の一兵になっても死なずに戦いを続ける。これは、日本海軍軍人の使命である。」
日本海軍は、既に緒戦で空母機動部隊を失っていた。熟練の搭乗員も今はいない。当時のエリートである大学生を神風アタックさせるのが、今の日本海軍のスタンダードであり、米国も神風アタックの対策には余念が無かった。
「おい、タニ!」
「どうした?モト。」
「出撃の日が決まったぞ。」
「桜咲く頃の出撃とは日本海軍の最後には相応しいな。」
「相手の事は良く分かっているつもりだが、敵の潜水艦には気を付けろ。」
「少なくとも空母の1隻、2隻は沈めたいな。」
「何を言っている。敵の機動部隊を全滅。これがマストだ。」
「大和の護衛も大事だな?」
「ああ、分かっている。航空機の援護が望めない今は、しっかり魚雷をぶっ放す。」
「ニミッツに一泡吹かせてやろうじゃないか?」
「ああ、米国軍がびっくりする様な戦果を上げてやろうじゃないか。」
こうして、佐世保に移動した伊400号は、いよいよ出撃の時が近付いていた。