両弦微速前進
「すまん、タニ。」
「どうした?急に?」
「晴風を神風にしちまった事だよ。」
「まぁ、そう落ち込むな。仕方無い、これがリアルな戦争って事だよ。」
「ふざけんなよ!」
ボコッと言う音がしたと思ったら、煙缶に大きな穴が開いていた。
「落ち着けモト。」
谷山は本山の苦しみをよーく分かっているつもりだった。
「晴風3機は無事ハルゼーの乗る戦艦アイオワに神風アタック出来たらしい。若井等6人の尊い命を失ったのは伊400号にとっては、不幸な事だったがな。」
「それは事実なのか?」
「ああ、直庵機に乗ってた佐々木一飛兵の報告だ。間違いない。」
「若井…すまん。」
「メソメソ泣いてる暇はないぜ。さぁ、涙ふいて先に進むぞ。」
すると、谷山は本山にハンカチを渡した。
「さーて、ここからは晴風の弔い合戦だ!」
「ウォーッ!!」
艦内の士気は俄然高まったが、残る魚雷は20発である。心許ない戦力だが、米第5艦隊に猪突猛進勝負を仕掛けた。
「両弦微速前進!」
本山は大きな声でクルーに米第5艦隊への攻撃を命令した。
「目標を探知!」
「魚雷発射用意。ッテー!!」
ホーミング機能を持つ最新鋭の酸素魚雷39式単装魚雷で、大破していた旗艦アイオワにまずとどめをさした。ズゴォーン。けたたましい雷撃音がした。アイオワはこれで終わりだ。
「晴風のパイロット達に良い報告が出来るな。」
「キルジャップス、キルモアジャップス。」
のハルゼー提督の言葉むなしく、アイオワと共に海の藻屑と消えて行った。魚雷残弾数18。日本まであと3万㎞。本山は日本に向かいつつ敵艦隊の主力駆逐艦などは相手にしなかった。
だが、本山達は米第5艦隊の主力艦隊の反撃にあう。そこで恐れていた雷撃戦になってしまう。ターゲットを絞りたいが、敵潜水艦の動きも気になる。本山は行くか引くかの判断を見誤らなかった。
「魚雷残弾数は?」
「残り6本です。」
「よし、日本に帰投しよう。」