晴風は神風となりにけり
作戦の時は刻一刻と迫っていた。だが、本山はまだ悩んでいた。晴風を神風にしてしまって良いのかを。
「しっかりしろよ、モト?」
「分かってるよ、タニ。」
「ボケッとした顔してらしくねぇじゃないか?」
本山は憔悴した顔で谷山に答えた。
「晴風は神風になるかもしれない。」
「どういう事だ?ふざけんなよ!あんだけ考えたランデブーポイントだぞ?」
「作戦変更だ。」
本山の意志は固かった。
「死に方用意…。」
本山は伊400号の艦長として、200人の部下に命じた。それは晴風の特攻を意味するものでもあった。晴風1号機飛行隊長の若井重1等飛行兵曹ら晴風搭乗員等は腹をくくった。
「すまんな、若井。」
若井と本山は一航戦(第一航空戦隊)からの付き合いだ。
「今さら生き延びようなんて思うてませんがな。」
真珠湾攻撃の伊200号は、当時の世界最強"泣く子も黙る一航戦"の時から二人は顔見知りである。呉や横須賀では、顔さえあえば何度も飲みに行った仲である。
「もうあの頃には戻れないな…。」
「本山大佐!僕は家族には悪いですが、国の為に死にに行きます。」
「死にたくないなら無理強いはせんぞ?」
「広い太平洋です。伊400号のミッションを優先させて下さい。」
「生きろ!とは言えないんだ。死ねとも言えないが。」
「アイオワは頼んだぞ。」
「はっ。(敬礼)」
本山はこうして若井達晴風3機の離艦を承認した。しかし、奮戦むなしく米国海軍第5艦隊最強の戦艦アイオワは落とせなかった。
その頃、伊400号は米国西海岸に到達していた。自慢の40口径14㎝砲を米国西海岸に向け発射。見事に着弾した。被弾した米国側の反応は敏感で、米国国民が動揺しない様に伊400号による米国本土攻撃のニュースは発表しなかったが、米国西海岸の住民の間では日本軍の攻撃では?と言う噂が広まっていた。