晴風と神風
本山はハルゼー率いる米第5艦隊と相対しながら、米国本土を攻撃出来ないかと思案していた。手持ちの魚雷は晴風の3基と合わせても23基しかない。40口径14㎝単装砲で、米国西海岸を砲撃する。
その間に晴風を離陸させ、魚雷を抱かせた晴風を戦艦アイオワに体当たりさせる。これ以上の名案は思い付かない。晴風は神風となり特攻を仕掛ける。本山は覚悟を決めた。特攻やむ無し。谷山も同感していた。
よもや日本軍の敗色は濃厚であり、万が一にも勝てる可能性のあった、空母機動部隊を失った今となっては、劣勢を覆すのは不可能に近い。
だが、日本の勝利を信じてやまない日本国民の為にも、米国本土攻撃は、是が非でも成功させる必要はある。山本五十六連合艦隊司令長官亡き今、伊400号は大海原を自由に行く。ハルゼーが来ようが、キンメルが来ようが、ニミッツが来ようが関係無い。行く手を阻む者は全て排除する。とうとうそこまで、本山達は追い詰められていた。
いずれにしても、米国本土攻撃の為には米国海軍との交戦は避けられそうにない。
「大本営はなんて言ってるんだ?」
谷山は本山に訪ねた。
「大本営は日本本土防衛よりも、米国本土攻撃に重きを置いている様だ。」
「つまり、米国本土攻撃はモト?貴様の独断専行ではないんだな?」
「ああ、神に誓ってない。」
「大した兵器も無いのに大丈夫か?」
「なるようにしかならん。」
谷山の本山に対する疑念は徒労に終わる。いずれにしても、既に伊400号の存在は米国海軍には知られており、米国本土攻撃は特攻やむ無しの覚悟で臨む背水の陣であることに変わりはない。本山は特攻を否定的に捕らえているが、現場の晴風パイロットの意志は分からない。もしかすれば現場判断で晴風が神風になってしまうかもしれない。その可能性があることを本山は大変憂慮していた。