男臭くてむさ苦しい場所
「おい、モト?これが潜水艦ってやつか?」
「そうみたいだな。にしてもこんな狭くてむさ苦しい所に、野郎だけの生活とは、士気が下がるな。潜水艦乗りを目指すなんてクレイジーだ。」
本山五十八は、海軍兵学校を卒業して、親友谷山正男と共に、広島県呉市にある潜水艦基地に赴任した。乗り組む潜水艦は伊号潜水艦である。
「お前、何で潜水艦乗りなんか目指してるんだ?」
上官の宮下大尉は本山にそう聞いた。
「他に興味を持てる科が無かったので。」
「風呂も満足に入れんぞ?飯も不味い。まぁ、俸給は他の科より多少は多いがな。」
こうして本山は海軍少尉として潜水艦乗りとしての生活をスタートさせる事になった。
「おい、タニこれを見てみろ!」
本山はおもむろに指を指し示した。
「なんじゃ、こりゃあ??狭いししかも二段ベッドかよ。」
「不満なら陸勤務にしてやろうか?」
そこに現れたのは、艦長の永山道大佐であった。
「い、いえそんなつもりは…。」
「士気の乱れは艦にいる全員の命に関わる大きな問題だ。潜水艦乗りはそんなに甘くは無いぞ?俺達サブマリナーはタフな隊員しか必要としていない。」
「海軍に入って潜水艦乗りを目指したのは、大佐の様な懐の大きな艦長の元で人間力を高めたいと思ったからであります!」
と、谷山はそう答えている。ここは本山もゴマを摩っておけと言わんばかりに、「右に同じであります!」と答えた。すると永山大佐はポンポンと二人の肩を叩きこう言った。
「うむ。良い心がけだ。これから帝国海軍の一員として、しっかりと任務に励んでくれ。」
「はい!」
「なぁ、モト?さっきのあの台詞なんだよ。右に同じって思ってもいないくせに。」
「ゴマを摩っておかないと、これからの生活色々と、やりづらいだろ?上位下達の中で、この狭苦しい潜水艦で、目をつけられちゃ敵わないからな。タニが良い事言ってくれたから便乗したまでさ。」
「そう言う事ね。まぁ、その件は良しとして、モト艦内見学行こうぜ!」
「そうだな。それは悪くない。行こうぜ!」
常に非日常に身を置かなくてはならない潜水艦乗りにとっては、身勝手な行動は死に直結する事になりかねない。大切な家族や友人を陸に残している人間が多いはず。そんな生活に本山は入ろうとしていた。