命がけの晴風
伊400号は日本海軍にとって、切り札と言える存在であった。多数ある日本海軍の潜水艦の中でも郡を抜いた大きさとスペックを持ち合わせていたからである。
本山はそれを肌で感じていた。米国本土攻撃と言う旧来の海軍艦艇や空母機動部隊では不可能なミッションを達成しようとしているが、伊400号を持ってすれば決して無理な作戦ではない。乗組員の練度も日増しに向上して来ている。
谷山少佐はもし晴風を発進させた時、どこで回収すれば良いか、地図とにらめっこしていた。
「失礼します。」
とそこに、晴風一号機のパイロットで機長の長友周平少尉が谷山の元を訪ねて来た。
「どうした長友?」
「自分は何時でも出撃可能である次第です。今日はそれを谷山少佐にお伝えに参りました。」
「順調そうだな?」
谷山は、もしや晴風を水上に不時着させねばならない作戦に従事させるかもしれないとは、口が裂けても言えなかった。
「離着艦も完璧です。」
「それは心強いな。」
齢25の若者を死なせる訳にはいかない。谷山は地図に穴があくくらい、地図とにらめっこを再開した。
「ここだ!」
「モト、見てくれ。このポイントで晴風3機を離艦させ、この場所で晴風パイロットをピックアップする。晴風の航続距離を考えれば、偵察用の3機はこの場所以上のベストポジションはない。」
「晴風は偵察用で3機とも同じ場所に不時着させるんだな?」
「嗚呼。」
作戦決行日は1943年12月8日である。奇しくも2年前にパールハーバー攻撃を行った日と同じ日付であった。
しかし、本山には一つ不安な事があった。それは晴風パイロットの収容をする前に晴風が撃墜されないかあるいは、米国海軍艦艇と伊400号が交戦しないかと言う一抹の不安があったのは確かである。伊400号に護衛は無い。手持ちの魚雷をどうやって使って行くかが、大きな鍵を握る。激戦が予想される米国本土攻撃の日は刻一刻と迫っていた。