大本営の悲願
その日は遂に訪れた。
「これが伊400号だ。」
細山はそう言うと、呉海軍工厰で完成した伊400号を本山と谷山に見せた。
「これが伊400号ですか?」
そのあまりのスケールに本山は驚きを隠せなかった。
「この潜水艦があれば、米国に勝つ事が出来るだろう。まぁ、その成果は本山中佐と谷山少佐の双肩にかかっている。頼んだぞ。」
細山はそう告げると、一枚の紙を本山に渡し、本山はその紙を見た。
「大本営からだ。」
その紙には本山を大佐に昇進させる旨と伊400号の艦長への就任要請の内容が記されていた。
「細山さん、この伊400号への移艦はいつ頃からでしょうか?」
「本日から順次行ってもらう。」
「分かりました。伊200号乗組員にもある程度情報共有したいのですが?」
「情報共有は最小限にとどめる様に。」
細山の言う最小限の情報にとどめる様にと、言う表現にこの伊400号が日本海軍のトップシークレットである事を肌で感じていた。
1943年3月、日本政府胆入りの伊400号が進水した。本山等が乗っていた伊200号は人員を総入れ換えし、遂に伊400号が正式に日本海軍に配備される事になった。日本軍の劣勢が伝えられ始めた昨今。大本営は起死回生の切り札として、潜水空母(伊400号)を保有するに至った。
進水直後から、晴風型3機の伊400号への着艦訓練が始まり、本山は艦長として部下と共に潜水訓練に明け暮れた。訓練は比較的順調に行われ、その訓練の様子は、逐次大本営に報告され、進水から3ヶ月経過する頃には、実戦配備可能なレベルに達した。
伊400号の航続距離は一度の補給で、約7万㎞と言う日本海軍史上最長の距離を行く事が出来た。この潜水艦を持ってすれば、米国本土攻撃と言う大本営の悲願とも言える作戦を展開する事が計算上は可能となった。これから伊400号がどの様に戦争に巻き込まれて行くのか、本山は知る由も無かった。