はやる気持ちを抑えて
1942年3月ついに伊400号潜水艦の建造が、呉海軍工厰で始った。
「なぁ、モト?このドデカイ潜水艦が例の特潜型か?」
「ああ、そうだ。が、にしても、米側にばれてないかが心配だな。」
「そこは心配だな。海軍のトップシークレットとは言え。」
「タニ、貴様誰かに話したか?」
「バカ言え。言ってないよ。当たり前だろ?」
「お前を信じてやった俺の面子ってものもあるからな。」
「分かっているよ。」
「それはさておき、日本海軍史上最大の潜水艦が出来るぞ?」
「あーあ早く乗りていぜ。」
「まぁ、そう慌てるな。伊200号潜水艦での生活はまだ当分続くぞ?」
幸いにして、現状日本海沖での米国海軍の潜水艦は進出しておらず、伊200号潜水艦を中心とした潜水艦隊の哨戒している日本海は比較的安全であった。大本営発表に寄れば、日本陸海軍の活躍だけが、日本国民には知らされていた。
この頃の日本軍は、快進撃を続け、米国より戦況は良かった。
「なぁ、モト?いつまで内地にいるんだ?」
「伊400号が進水するまでは辛抱してくれ。」
「楽しみだな?」
「そうでもないぞ。」
「伊400号潜水艦クラスのスペックからすれば、外洋に進出するのは容易だ。だから、困難なミッションを押し付けられる可能性も、必然的に高くなる。」
「死ぬのが怖いか?」
「妻子ある身とすれば、死ぬわけにはいかない。だが、軍人本山五十八としては、大日本帝国の為に命をかける覚悟でいる。」
「そりゃあ、正論だな。」
「200人の部下の前では、そんな事は口が裂けても言えないがな。」
「モト、貴様の覚悟は分かった。俺も貴様と思いは一緒だ。」
「我が身は部下と一心同体。常にな。」
「なぁ、モト?俺は現状退屈だと思っている自分がいる。」
「ああ、俺も退屈だ。」
「人の気持ちは以心伝心するもんなんだな。早く伊400号潜水艦に、乗ってみたい。」
谷山と本山は、はやる気持ちを必死に抑え、伊400号の完成を待っていた。