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世界救えって、私たちが!?  作者: 隙間影
異世界って、俺たちが!?
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7.期待されちゃってる二人(前)

 ……なんだ、ただの夢か。

 窓の外の日差しに起こされて、操作感が最悪のホラゲをやらされた悪夢から引きずり出された。

 

 花香と同じ毛布に包まれているこの状況も、夢ならよかったのに。

 こいつにとやかく言われる前に、早くここから逃げ出さないと。


「まあ私、もう起きてるんですけどね」

「……あの後何があったか説明してもらおうか」

「言われなくても。それより、まずは可愛い同級生の女の子と添い寝しているこの事実を受け入れて楽しみませんか?」

「先に説明してくれ」

「しょうがないですね。でもそうは言っても私もあの後寝てしまったのでわからないんですよ」

「え? じゃあ一体誰が」


 俺がそう言いかけた瞬間、突然窓に人影が現れた。

 逆光で顔が見えないが、それが誰かが何とはなしに判別できる。

 俺は布団から抜け出し、窓を開けた。


「ベッドを貸してくれたことについては感謝するが、覗きは褒められたものではないな」

「宥二さんまでそういうことを言うのですか? ミリアが二人に増えた気分です」

「ミリアが怒らないように俺があらかじめ叱ってやってるんだよ」


 シスカは口を尖らせながらゆっくりと下がっていった。

 風を発生させて浮かんでいたらしい。

 いくら魔王とはいえ、魔法をこの程度の事に使わないでほしい。


「そういえば、俺たちをここまで運んでくれたのってお前なのか?」

「「いいえ、シャドウさんが運んでくれていましたよ。後で感謝してくださいね!」」

「同時に言うな、ややこしくなる」


 あー、まああいつに下心はないはず……花香と違って。

 決して俺たちをくっつかせようと意図して運んだわけではないはず。


「宥二さん、私は下心ではなく愛情ですよ。誤解されると困ります」

「そんなの大差ないだろ」

「そう言う宥二さんには下心はないんですか。健全な男子高校生たる者、本心ではそういうことを考えているんじゃないんですか?」

「全員が全員そうだと思うな」


 花香の独特な思想に惑わされながら、扉を開けようとした。

 扉を開けようとした。

 しかし何も起こらなかった。


「花香?」

「え~? 本当に開かないんですか~? 宥二さんったら、弱すぎますよ~」


 今日もうざったるい花香がドアを開けようとした。

 ドアを開けようとした。

 しかし何も起こらなかった。


「宥二さん……っ!?」

「あたかも俺がやったみたいな感じで見るな。本当に開かなかっただろ?」

「仕方ないですね。じゃあ、します?」

「何を?」


 花香はベッドにすたすた歩いて座った。

 そして横をぽんぽんと叩いた。

 可愛らしい仕草に比べて目は本気だった。

 俺の周りに怖い奴が多すぎる件。


「さあ、どうぞ?」

「は、はい」

「そういえば宥二さん、家族以外の誰かとスキンシップをとったことはあります?」

「え? 友達と手を繋いだことはあるかもしれないけど、それも数回だけだし、それ以上は経験ないな」

「なるほど。つまり私は宥二さんの初めてを頂いたことになるわけですね」

「初めて俺につきまとってきた人間だし、初めて俺と異世界に飛ばされた人間でもあるな。で、他には?」

「宥二さんに初めてハグできた人間でもあります!」


 嬉々として語る花香。

 そして何もかもを奪われていてもおかしくなかったと考えると背筋が凍る思いの俺。

 改めてこいつの危険性を理解した。


「光栄なのか?」

「もちろんです!」

「なぜその程度のことでそう思えるか、不思議だな」

「今はわからなくても、あなたもすぐに理解できるようになりますよ。私には見えてるんです」


 はっきり言って、気味が悪かった。

 その目は真っすぐ俺を見据えていた。

 まるで自分は間違っていないかのように。

 まるで俺の運命を見透かしているように。


「それで、どうやってここから出るつもりなんだ? 扉も開かないし、窓から飛び降りるのも危険だし」

「え、宥二さんがあの剣で何とかしてくれるんじゃないんですか?」

「あの剣でどうしろって言うんだよ」


 コンコンコン。

 扉が三度叩かれ、その向こうから話し声が聞こえてくる。


『う~ん、いつの間にかこんなことになってしまったのですね』

『申し訳ございません、シスカ様。今すぐこれを直しておきます』

『早く二人を出してあげないと。少し離れていて下さい』


 メキメキ、ガタン。

 ギイィ……。


「おはよう。昨夜はよく眠れたかな?」

「眠れはしたけどその触手とあいつのせいで目覚めは最悪だよ」

「すみません、前々からこの棚が壊れかけていて、修理できる方もいなくて」


 どうやら丁度扉の前に棚が倒れてきて塞がれてしまっていたらしい。

 わざとではないと思いたいが、正直やりかねないと思うと……。


「もしかして、このまま閉じ込めておいた方が展開的に美味しいことに」

「なんでお前は俺たちをくっつかせようとするんだよ」

「「「…………」」」


 なぜ何も言わない?

 なんでシャドウもミリアも何も言わないんだ?

 そもそもこの状況で何もしない俺が間違ってたのか?

 と、一人ずつ弁明を始めた。


「正直お似合いだと思いました」

「皆さんがあまりにもそう仰るので」

「周りが皆そうだから」

「つまり私と宥二さんが付き合うことはほぼ確実……ということですね!」


 と、いうことらしい。

 納得いかないが、この状況で自分の意思を貫き通すことは難しい。

 大人しく付き合うことにするしかないのか?


「でも、一番重要なのは宥二さんの意向です。最終的に付き合うかこのままかは、宥二さんが決めなくてはなりません」

「そうですね。強引に付き合っても好きじゃないなら何の意味もありませんし、それに、愛されたいですし……」


 そこまで言って愛されたいという部分だけ尻すぼみになるのは何だろう。

 彼女の中で恥ずかしいところとそうでないところの線引きがあるのだろうか。

 そんなことより。

 ぐうぅ……。


「お腹空いたのご飯を食べたいです」

「ですね」




「宥二さん、あーん!」

「あ、あーん」

「えへへ、宥二さんったら、突然そんなにデレちゃうだなんて」


 直接的に言ってくるのはあまり気分のいいものではない。

 でも、ほんの少しだけ嬉しいような。

 その様子をそばで見ていた三人。


「何でこんなに仲が良いのに恋仲にならないのでしょう……」

「何か人に言えないような理由があるのだろうか……」

「それとも本当に気付いていないのか? いや、そんなに鈍感なはずは……」


 俺たちの関係について誰かがここまで真剣に考えてくれたのは初めてだよ。

 だけど食事の手を止めるほど真剣にならなくていい。

 あとこっちを凝視し続けるのもやめてほしい。

 花香と俺含む周りの方々がドン引きしてることに気づいてほしい。


「あの、そんなに私たちのこと見つめなくても」

「「「…………」」」

「花香、これ何とかしないと一日中このままかもしれないな」

「じゃあ、付き合ってくれるんですか?」

「そうしないとあいつらはもう駄目かもしれないな。で、でも、本当にお前はそれでいいんだな? 俺はそれでもいいと思うけど」

「わかりました。もちろん私も賛成です。では今週、それか今日一日、最悪外が明るい間だけでもいいので付き合ってみませんか?」

「そ、そんな軽い気持ちで付き合うものなのか?」

「大丈夫です。遊びで付き合うってやつです。いつでも本気になってもいいですが。それ以前に私は本気ですけどね」


 恋愛初心者の俺としては、遊びで付き合う感覚が全くわからないのだが。

 ひとまず今だけは花香の言う通りにしよう。


「じゃあ、これからよろしくな」

「はい、よろしくお願いします」

「あ、ごちそうさまでした」

「私もごちそうさまでした」

「「「…………」」」




 翌朝。

「宥二さん、シャドウさんに変化はありました?」

「残念だが。その表情を見る限り、そっちも駄目だったみたいだな」

「これは私の憶測というか嫌な妄想かもしれないんですけど……魔法か何かで操られているというのは?」

「あの仮にでも魔王であるシスカがか?」

「威厳はないけど実力はあるらしいシスカさんがです」


 魔力はあっても行動が伴っていないあのシスカが、本当に洗脳されるとは思えない。

 というか逆にシスカがミリアやシャドウに催眠をかけている気しかしない。

 うん絶対そうだ。


「やってることがこの程度だからまだマシですけど、邪智暴虐ですよ」

「いつか独裁政治を始めるかもしれないな」

「まあでも私たちは別にこの国の国民ってわけでもないので」

「さっきから好き勝手仰っていますけど、私のことをなんだと思っているのですか?」

「今言った通りだけど、何か間違ってたか?」

「うぐぐ……」


 自覚はあるらしい。


「でも、洗脳魔法なんて誰も使えないはずですし、そもそも極刑並みの犯罪ですよ!? 魔王たる私がそんなことするはずがないでしょう!?」

「魔王だからこそするんじゃないのか」

「そういう話もよく聞きますけどね。魔王は悪逆非道で、全世界を支配下に置こうとしていて、人類を滅ぼそうとしているというのが定説ですが」

「なっ……何なんですかその魔王! そんなの王ではなく独裁者ですよ! 同じ魔王として許せません!」

「シスカさんは心優しい魔王で凄いですね~。よしよし~」

「子ども扱いしないで下さい! あなた達よりは年上ですし、胸だって」

「シスカ、それ以上言うと消されるぞ」


 シスカの頭を撫でていた花香の右手が刹那の間握られていた。

 奴は胸を侮辱されれば、同級生だろうが恋人だろうが首を締め上げる女だ。

 ちなみに俺も二度半殺しにされたことがある。


「じゃあシャドウもミリアも、自ら俺たちが付き合うことを望んでいるのか」

「そうそう、そうなんです。そういうことで、遊びとはいえ付き合ってくれたことは凄く嬉しいです。でも本当の事を言うならお二人が心から愛し合うような関係になってくれると、とても美味しいではなく興奮でもなく、救われる気がするので!」


 本性丸出し涎だらだらで、もはや隠す気もない。

 美味しいって何だよ、食う気なのかよ、どういう意味で食べる気なんだよ。

 そんなところで、早起きしていたらしいミリアが前に立った。


「おはようございます。今日は合同演習があるため、早めに準備を終えて下さい」


 と言った。

 確かにそう言った。

 今まで一言も耳にしたことがなかったことを言った気がしたが確実にそう言った。


「「「えええええええええええええ!?」」」

「シスカ様には前から言っておいたはずですが、お忘れになっていたのですか?」

「いいいいいえいえまさか魔王たる私がそのような初歩的ミスを犯すとおおおおお思いですか!?」

「シスカ様だからこそあり得る話です。とはいえ本日は小規模なものですし、準備にもさほど手間はかかりません。急げば今からでも十分間に合いますよ」

「私たちはどうすればいいんですか? そもそも何をするんですか?」

「あなた達三人は、まだ戦闘に慣れていないと思うので、今日は参加しません。ですが、訓練を見たいというのなら、私達と同行しなくてはいけません。どうしますか?」


 訓練自体は日頃から参加させられているし、実戦に出る気なんてない。

 横を向くとシャドウと目が合った。

 間に挟まれた花香が交互に目を合わせてくる。

 すると、シャドウが口を開いた。


「僕は是非同行したいと思います」

「俺は、今回は遠慮しておきます」

「宥二さんが残るなら私も残ります」

「では、決まりですね。そうと決まれば、早く準備しませんと!」


 シスカは急いで朝食を平らげると、二階へと駆け上がっていった。

 どこからどう見ても小学生です。




「では、何事も無いとは思いますが、この屋敷をよろしくお願いします」

「はい! いってらっしゃ~い!」


 大きな荷物を持って、シスカ一行は森の中を通る道を行進していった。

 花香と俺はそれを、手を振りながら見送っていた。

 最後尾のシャドウが見えなくなったところで、屋敷の方に振り向く。

 がらんとしていて、物音一つもせず、普段より広く見える。


「誰もいないな」

「みんな行っちゃいましたからね」

「普通は居候に別荘まるごと任せっきりにするなんてありえないだろ……」

「私たちが信頼されている証拠ですよ。そして今宥二さんは、私が裏で手を回したんだろうと推測していますね? 残念ながらそんなことではありませんし、私だってこんな状況になるなんて予想できませんでした。とはいえ二人きりになれたのは事実、私との距離感をぐっと縮めるチャンスです! どうですか宥二さん、成功率は98%ですよ! 更に今ならその他のイベントで好感度が上がる確率が高く……」


 数日振りに二人だけになれたからか暴走し始める花香を横目に、この建物を観察してみた。

 誰もいないからか、いつもより壮大に見える、気がする。


「なるほど、私のことは無視と」

「あ、ごめん。今日の晩飯をどうするかって話だよな」

「違います、今のうちに恋人(仮)から更にお近づきになりましょうって話です。その目を見る限り、全っ然興味なさそうですけどね」

「……いや、別にそういうわけじゃないぞ。今この状況で、お前がどんな行動をするか興味深い」

「私を実験動物か何かと思ってます?」


 ……で、どうしようこれ。

 何か仕事があるわけでもないが、時間はあり余っている。

 今まで課題と授業に追われて息をつく暇もなかったから、ありがたいとは思う。


「でも動物は大切にしないといけないと思うんですよね! だから私のことも当然~?」

「何をお望みで?」

「そんなの言わなくてもおわかりですよね?」

「全然わからないから聞いてるんだよ早く何してほしいか言え」

「あ、じゃあまず頭を撫でてくれますか? 入学式から今までずっとアプローチしてきた私を労ってください」


 ストーカーごときの願いを聞くのか、と脳内で制止がかかった。

 でも頭を撫でるだけで落ち着いてくれるのなら、と好奇心が芽生えた。

 逆効果かもしれない、今まで頑張ってたのは確かにすごい、調子に乗らせていいのか、正直頭を撫でてあげたい。

 こんなに悩むくらいなら……撫でてあげるべき。


「わかった」

「……えっ、いいんですか? 本当にしてくれるんですか!?」

「あの、一旦中に入ってからで」


 誰もいなくても、屋外でこういう事をするのは恥ずかしい。

 玄関に入ってすぐ、意を決した俺は、早速手を伸ばしていった。

 それよりも速く彼女の頭が近づいてきた。

 そして、ついに触れ合った。


「ど、どうですか! さらさらしてて撫で心地がいいでしょう!」

「う、うん。気持ちいいというか、その」

「にへへ、この瞬間を待ち望んでたんです。一目見たときからあなたにこうされるのをずっと考えてました! もちろんその先のことも、もっともっと先のことも……ぐへへ……」


 やっぱりこいつの頭の中は理解できなさそうだ。

 ところでなんか花香の目線が妙にアツいというか熱視線というか目がハートになってるというか。

 待て待て近づいてくるなまだそういうのはちょっと早いというか心の準備もできていないというかそもそもする気はないというかおい腕を掴むんじゃないこいつ意外に力強いぞ待って待ってそれ以上は駄目――


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