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世界救えって、私たちが!?  作者: 隙間影
異世界って、俺たちが!?
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16.お辛い天使さん(救済はここに)

「只今から取り調べを行う。質問には全て正直に答えるように」

「あああのその、も、もし嘘を言ったらっ、こっ、こここ殺されますよねっ!?」

「殺しなんて野暮なことしませんよ。ですからそんなに怯えないでください」

「ごごごごごごめんなさいっ!」


 あの後天使から銃を奪い返したシャドウは、その先端を彼女の後頭部に押し付けながら城まで連行した。

 その間も彼女の身震いが止まることはなく、声をかける度に「ひいっ!?」や「ひうっ!?」と変な声を漏らした。

 また、城の雑草は庭師たちがすっかり刈り取っていた。

 毎朝しないと草で覆われてしまうのだろう、この城は。

 会議室の中央の椅子に座らせているので、四方八方から鋭い視線が突き刺さる。


「まず、あなたは誰ですか?」

「えええええっと、私はっ、ててててて天使ですっ! 正真正銘天使です!」

「手に持っているのも天使の輪ということですか?」

「はははいっ! そそそその通りですっ! 私元々は天界の方にいて天使だったんですけど、というか今も天使なんですけど、実地訓練って言うんですかね、突然辞令で地上に行けって言われて、それで一応は町の教会に下りてみたんですけど、私こんな性格なので全然教徒さん達と話せなくて、だから森に隠れてひっそりと暮らしてたんですけど、日に日にこのままじゃ駄目だって思ってきて、だから勇気を出してこの大きな街に来てみたらこの二人が銃を持ってて、普通この世界にこんな物が在るなんてあり得ないので、これを天界に持って帰って高度知的生命体総合管理局技術科学部と世界管理局異世界転移部に報告して少しでも手柄を立てようと思ってたんですけど、奪って早く天界に帰ろうとしたらすぐに追ってきて、都合良くあった廃屋に隠れてもうどうせならこれを使って殺すまではしなくてもちょっとは怪我させたりして追い払えないかなと思ってたんですけど、その人に全部弾が当たったのに全然怯まなくて、それで……はい……」


 ごめん、早口すぎて全然聞こえなかった。


「えー、つまり貴方は、自分の手柄の為にこれを盗んだという事ですね」

「はい……」


 言える事を全てさらけ出したからか、それとも高速でまくし立てたからか、先程までとは打って変わって大人しくなってしまった。

 あと、彼女の言葉の節々に随分現代社会にあるようなものが聞こえたような気がする。

 天使や神様も楽じゃないんだろうな、天界に労基とかってあるのかな。


「その天使の輪、今は灰色になっているんですけど、元々は白だったんですか?」

「はい、そうでした。まだ新米でしたからどの部署にも配属されていなくて。早く帰らないと、清掃員とか、最悪天使にすらなれないのかも……はあ……」

「やっぱり帰らないといけないんですね」

「はい。まあ私なんて(ろく)に善い事も出来ないから同期の中で一番落ちこぼれなんでしょうけど……」


 あまりにも世知辛く自責的な呟きが、次から次へと溢れ出す。

 そういう話は人間だけで十分だ。


「君が何をしようとしたかったのかは分からないが、これは僕達が保管しておく。二度と触れるなよ」

「は、はい……」

「まあこの件は良いとして、これから天使さんはどうするんですか? もし行く当てがないのであれば、このままお城にいてもいいですよ」

「い、いいえ! 天使ならばどこでも生きていけます! 他人に施すどころか施されるなんて千年の恥です!」

「でも翼がこんなに汚れてしまっていますよ。それに天使だからって何でもしてあげなきゃいけないなんてことはありません。存分に甘えて下さい!」


 シスカがそう言った途端、天使は啜り泣きしだして、彼女の脚に抱きついた。

 天使とはいえ見た目は俺たちより年上に見えるから、大人が泣いているように見えてちょっといたたまれない気分になる。

 これが……天使の姿なのか……。


「ミリア、私二人でお風呂に入ってきます。良いですよね?」

「え、ええ、どうぞ。衣類も準備しておきますね」


 シスカは天使と寄り添いながら、よたよたと会議室から出ていった。

 せめてここにいる間だけでも羽を休めて欲しい。

 天使だけに。


「……というわけで、銃も取り戻せましたし、一件落着ですね!」

「僕は痛くなかったとはいえ、随分酷い目に遭ったけどね」

「おかげで大変なことにならなさそうで良かったよ。結果的に天使一人救えたし」

「では私は二人のお世話をしてきます。皆さん、今回はありがとうございました」


 そう言ってミリアも離席したので、兵士たちもぞろぞろと出ていった。


「あ、じゃあ僕も」

「いやお前さっき様子おかしかっただろ。色々と話を聞かせてもらうからな」

「いや、本当に些細な事で……えっと、弁明しない方がいいのかな」

「じゃあ私たちはお先に。お疲れさまでした~」


 目を泳がせている少年に対して、容赦ない尋問が始まった。




「おっ、終わったみたいですね。何かあったんですか?」

「さっき犯人捜しのときにいなくなろうとしてたから怪しかったのに、ただサボりたかっただけらしい」

「その顔を見ると、結構退屈だったみたいだね」


 あの天使について何か知ってそうだと思ってたが全くそんなことはなく、本当にただ犯人捜しをサボろうとしてただけだったようだ。

 正直に言うと期待外れだ。

 実は裏切り者だったとか、はたまた彼自身が真犯人だったとか、そういう展開になって欲しかったというのに。

 サボりたい気持ちはわからなくもないが、次同じことを繰り返すようならミリアに報告するとだけ伝えておいた。

 そう言っただけで彼をも青ざめさせるほど、彼女の評判は広まっているようだ。


「もう君達は帰るのかい?」

「う~ん……せっかくこの世界に来てるんですし、どうせならこの世界でデートなんてのもいいんじゃないですかね? 最初のデートが異世界だなんて新鮮でいいじゃないですか!」

「宥二はそれでいいのかい?」

「花香がそれが良いって言うなら、俺もそれがいいかな。そもそもデートなんて初めてだし」

「私も初めてです」

「僕はそもそもデートというものが何なのかが分からない」


 ここにいる三人全員恋愛未経験。

 そもそもシャドウは普通の生活をしたことがあるかどうかすらも怪しいが。


「じゃあじゃあ、三人で街を散歩してみるのはどうですか? まだまだこの街や世界について知らないことはたくさんありますし、探検気分で街を見回ってみるのも楽しいと思いますよ!」


 三人で、かあ……。

 君がそう言うのも納得だけど、せっかくのデートだしこういうのは二人きりで行うのが普通で、三人目がいるというのはシャドウとはいえ許しがたいが……。

 二人きりでデートに行くのはまた今度にしよう。そして、次こそは俺から誘ってみよう、よし。

 シャドウと目を合わせて頷いた。


「そうと決まれば、早速行きましょう!」


 花香にがしっと手を掴まれて、俺たちは階段を駆け下りていった。

 こんな彼女となら、異世界だろうとどこに行っても大丈夫な気がする。

ご覧いただきありがとうございました!


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