14.彼女におまかせ?(きっと大丈夫と信じたい)
「すみません、本当にすみませんでした! もう私が縛り付けておきました!」
「仲間に裏切られるとは、僕は悲しいよ」
「……これだから図書委員辞めたくなるんだよな」
図書館で謎の人間たちがやらかしたという通報を受けて、現場に来てみたらこの有様である。
床に正座する二人、それらを縛り上げた一人、その傍ら本に夢中になっている一人。
それを見て呆れ返る俺たち。
「具体的に、この二人は何をしようとしたんだ?」
「はい。所謂禁書などの本は図書館奥の封印内に保管されていますが、その話を聞いた途端暴れ出して」
「暴れてなんていないだろう、ただ本が見たかったから交渉してただけだ」
「あんたの言う交渉っていうのは暴力が必要なの?」
「ついでに猿ぐつわしとくか」
犯罪者共がむーむー言ってるが、彼らの耳には届かない。
この組織は案外薄情なようだ。
「ふむ。拘束されてる二人がちょっとえっちに見えるのは私だけ、と」
「付き合って早々だけど別れようかと思ったよ」
「もう~冗談でしょ~?」
こいつも縛り上げてくれないかな、って思ってたけど喜びそうだからやめておこう。
現に今花香の目が期待で満ちて、ぐへへと言わんばかりの表情だ。
いつか、そんな君も可愛いよって言ってあげられるようになるのかな。
今は絶対に言いたくない。
「今回、あなた達は別世界から来たという事でこのまま解放します。ですが、本来なら厳しく罰せられます。以後お気をつけて下さい」
おふざけも笑顔も一切ないシスカの鋭い目線が突き刺さる。
関係ないはずの俺の額に冷や汗が垂れる。
「「あーい」」
そんなミリアにも生返事の二人。
二度とこの世界に来させてはいけないと確信した。
「今回はもう帰るわよ。次はこの縄で首を吊るすからね」
「冗談通じないなあ、君もミリアも……おい待て待て君の筋力で俺を窒息させられるわけがないだろう冗談はよすんだ」
首をくくられた二人は、そのまま彼女に引きずられていった。
あーもう、俺たちの時間返せよ!
「皆さん帰っちゃうんですね。もう少しいてくれてもよかったんですけど」
「私もここに居たかったけど、奴らがねえ」
「……今日は仲間達が迷惑をかけてしまった事を謝罪する。次からは僕だけで来ることにするよ」
「次は色んな所案内してね~! また安威ちゃんと一緒に行くからね~! ばいば~い!」
ほんの数時間だけしかいなかったはずなのにここまで疲弊させてくるとは。
二回目は監視を強化しておいて、俺たちも武器を持っておかないと。
あとあの二人は出禁だ。
「安威、見張りは頼んだぞ」
「真希だけでも精一杯なんだが。ま、善処してやるよ」
「そういえば、どうやって帰るんですか?」
「それは大丈夫。禁書というのは世界ごとに存在していて俺達はその内の一つを――」
「長ったるい説明はいいから、早く帰る!」
図書委員は持参した禁書を通って、元の世界に戻っていった。
これにて一件落着……だよな。
すると、背後から声がした。
「おや、何か落ちているな。これは……まさか」
「どうしたんですかシャドウさ――シャドウさん!? いつの間にいたんですか!?」
「図書館で騒ぎがあったようだから、その時から話は聞いていた」
相変わらず心臓に悪いし、名前の割に影が薄い。
せめて図書館にいたなら声をかけてくれ。
「それで、これ真希の拳銃じゃないのか?」
「完全にそうですよね。私こんな危ないの持てませんよ! 宥二さんがどうぞ!」
「お前さっき城で使ってた魔法を忘れたか?」
ま、まあ引き金を引かなきゃ大丈夫だよな。
いくらSFチックな武器とはいえ、そんな暴走することはないよな。
もし暴発したら全部真希のせいにするから問題ないよな。
「もしよければ、これは僕が持っていてもいいかな?」
「変なことしないんだったら」
「その先っぽは私たちに向けないでくださいね! 冗談だとしても絶対駄目ですよ!」
彼は拳銃を手のひらに乗せて、まじまじと見つめていた。
あんな目をしているのは、昔黒い物体を見せてくれた時以来だ。
いつも濁っている眼は、今だけ鏡面のように輝いて反射している。
「一応お城に持って帰って、また来たときに返しますか。それまでは誰も触っちゃ駄目ですからね!」
「って言って無理やり奪おうとするな! 暴発したらどうす」
カチッ。
ガアンッ。
「……えーと、危険性はよく分かったよ。だから、今度撃つときは僕以外にはしないようにね」
「腹筋硬いんですねシャドウさん!」
「そんなこと言ってる場合か! あれだけ言ったのに暴発させるなよ! あとシャドウに向けて撃つなよ! あとなんでお前は無傷なんだよ!」
「ほら、僕の身体は普通じゃないから、銃弾が効かないのかもしれないよ」
「ああ確かに、お前は化け物だったな。だったら銃が効かないもの納得か」
シャドウが的代わりになることが判明したので、今度から訓練場に立ってもらうことにしよう。
それと銃弾が粉々になって、破片が紫色に輝いていたように見えたような。
昨晩久々にゲームしたから幻覚かな。
「花香、シャドウに渡しておけ。お前には物を壊す才能がある」
「はーい」
「ちゃんと保管できたらご褒美あるぞ」
「わっかりましたあ! こんな殺戮兵器には誰一人指一本触れさせません!」
手のひらがよく回る彼女だ。
意気揚々と電光石火で城に持っていったが、果たして本当に大丈夫だろうか?
あっ早い、予想の30倍早く帰ってきた。
肩で息をしながら、期待に胸を膨らませる彼女に両肩を掴まれる。
「ご褒美くださいご褒美ください! ご、ほ、う、び!!」
「肩が痛くなるから掴むな。で、本当に大丈夫なんだろうな?」
「はい! 別にご褒美が欲しいからミリアさんに渡してきただけとかそういうわけではありませんよ!」
ミリアなら安心できるから、大目に見て良しとしよう。
報酬については一切考えてなかったけど、ちゃんと考えないと花香に詰め寄られて言いなりにされてしまう。
「お願いは何にしましょうね~そうですね~。シャドウさん、ちょっとこっちに」
このように。
花香ならまさか常識外れの事は頼まないだろうから別にいいけど。
シャドウと密談しているけど、まさか彼をも利用しようとなんて思ってないだろう。
「というわけで、これからデートに行きましょう!」
「言うと思ってた」
「私の思考が読めていたのですか!? もう相思相愛どころか以心伝心ですね! ただ、私はそんな非常識でもないですし、シャドウさんを悪用する気もありません! まだまだですね」
「お前は俺に何を求めてるんだ。理想の彼氏像は能力者なのか?」
花香なら、「私の理想と宥二さんがほぼ一致してるんです!」と口走ってもおかしくない。
……何だそのニヤニヤ顔は。
「チッチッチ。正解は、『宥二さんこそが私の理想の彼氏であり夫であり人生の伴侶です!』でした!」
「勝手に結婚させるな規模を増大させるな。ところで、デートってどこに行くんだ?」
「それはですね……何も考えておりません! ああっ、ごめんなさい、私叩かれて興奮する変態じゃないです! あでも宥二さんになら叩かれても嬉しいかもです!」
ぺち。
そう言うんだったらお望み通りにと、右頬を軽くはたいた。
突然の痛みにぽかんとしている花香。
ふと気がついた途端、次は左の頬を向けてきたので、つねってみた。
ぷに。
もちもちの頬、とろとろの目、彼女の体温の暖かさ。
永遠に、ずっとずっと、時間も忘れて……はっ。
「えっ、もう終わりなんですか?」
「いや、その、今更なんだけど、視線が痛いというか、恥ずかしくなってきたというか」
「目線が気になるというのなら、今日は在宅交際、もといおうちデートにしましょう! 私の家でいいですよね! じゃあ早く帰ってた~くさんイチャイチャしましょう!」
「いきなり自分の部屋に連れてくとか何する気だよ。変なことするなよ?」
「宥二さんなら何をされても一向に構いません!」
どうせ口ではそう言ってるけど、実際にしようとしたら拒否してくるんだろうなあ。
というか、拒否してくれないと困る。
「そうと決まれば早速帰りましょう! ほら手繋いで! もちろん恋人繋ぎで!」
「歩きにくいから普通に手繋ぎた……野暮か」
今日は一体何が起こるのだろう。
どうせろくでもなくて奇想天外なハプニングが起こるんだろう。
なんて言いながら、結局また期待してしまうのだ。
「あれ、城の方に行くのか?」
「図書館に置いてある禁書は昨日のうちに模造品にしたらしいですよ。今日みたいなことになっても大丈夫なように」
「そうだったのか。なら安心だな」
「……あのさ」
「大体言いたいことはわかりますよ。『花香はちゃんと銃をミリアに渡して、ミリアもちゃんと保管したはずだよな』ですよね」
「その通りだし、確かにそうだったんだろう。それなのに今こんな事態になっているということは、冗談抜きで本当にまずいことになったんだ」
城では兵士たちも家臣たちも大騒ぎしていた。
ミリアに預けたはずの銃が消失したのだ。
彼女曰く、眼を離したのはほんの二、三分だけだったし、自分の部屋に置き鍵もかけていたから奪われるわけはないはず。
その間はシスカと会っていたため彼女も違うし、何ならその階には二人だけだったようだ。
「もしもこれが犯罪集団の手に渡っていたら、凶悪犯罪が起こるかもしれません! 一刻も早く回収しないと!」
前代未聞の事態に慌てふためくシスカ。
「どーせそんなの悪いやつらの仕業に違いありません! 私たちが犯人をとっ捕まえてやります! 宥二さんとのラブラブデートがなくなったこの怒りと悲しみと苦しみと怨念をわからせてやるんですよ! 宥二さんもそうですよね!?」
「うん。そこまで腹は立ってないし俺が直接手を下そうとも思ってないけど、大体そう」
逆にテーブルの上に足を乗っけて怒り心頭で舌が回る花香。
こうなってしまってはもう手が付けられない。
酔って暴れる居酒屋の迷惑客と大差ない。
「本当に大丈夫なんですか!?」
「もちろんです! 私の最強魔法があればもはや無敵ですよ! そうですよね?」
「あー……その目は期待してるな。わかった。俺も協力してあげるし、何でもしてあげる」
「つまり、私にご褒美をくれるという事ですね!?」
花香の目は期待で満ち輝いて、ぐへへと言わんばかりの表情だ。
勝手に言い出したくせに見返りを求めてくるなんて、がめついやつめ。
「……そんな君も可愛いよ」
「もちろんです。あなたの恋人ですから」
決意を固めた花香は、扉を背に立ってこう言い放った。
「国中の軍隊を動員してくださいっ! そしてシャドウさんも呼んできてください!」
他力本願だった。
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