13.異世界と異世界(そしてやべーやつら)
「へー、ここが例のハルイオスって所か。綺麗な街だな」
「あっちの世界とは大違いね。ギャップが大きすぎて眩暈がしそう」
「ガチでモンスターしかいねえな。どんな身体してんだろ」
「……中々興味深い。僕だけこの世界に永住してもいいかな」
「参ったな、ここでは充電出来ないかも。魔力で代用出来ればいいんだけどねえ」
「あの、宥二さん? 生きてますかー?」
「さっさと降りろ! いてててて、背中が……」
今回はハルイオスの中、それも魔王城の前に出現することができた。
完全にランダムなのか何か法則があるのか。
花香が俺を下敷きにしていたのは故意なのか。
すると、委員長は何の前触れもなくこう言い放った。
「そうそう、言ってなかったが俺達はこの世界について調べてる。だから、そっちは魔王様に謁見していてくれ」
「えっ、委員長!? 皆!? えっ……本当に皆行っちゃった」
そしてこの場に取り残される俺と花香と安威と真希。
友達だからってこんな頭のおかしいやつらとの組み合わせは勘弁してほしかった。
「露骨に嫌そうな顔したな? 俺達のどこが嫌だってんだよ!」
「全部だよ! お前らみたいな皮かぶった危険分子がこの世界にいるだけで何が起こるか」
「私は五十歩百歩譲って別ですよね? まさかあなたの彼女であり婚約者であり女神様である私は違いますよね?」
「俺なんてこの中じゃ一番良識的だろ」
「二人とも今までの人生全部振り返ってから言ってみろ」
「私こそが世界最強文武両道天地明察馬耳東風合縁奇縁!」
「それっぽい事言えばいいとでも思ってるのか。むしろお前こそが一番ヤバい奴だぞ」
なんであいつらは二人を置いて行ったんだ。
なんで花香と付き合って初日なのにこんな仕打ちを受けなくてはいけないんだ。
「考え事は魔王様に会ってからにしましょう? デートなんて後で何回でも何時間でもやればいいじゃないですか!」
「そう言ってくれてありが――待て、それだと俺がデートに行きたいみたいなことに」
「じゃあ早速行きましょう行きましょう!」
コンコンコン。
「失礼します」
「どうぞ! ……おや、誰かと思ったらあなた達でしたか。昨日振りですね!」
「シスカさ~ん! お久し振りです~! むぎゅ~っ!」
「突然抱きしめないで下さいよっ、えへ、えへへへ」
執務室らしき部屋の中央、大きな椅子にちょこんと座っていたシスカを抱擁する花香。
一瞬止めようとしたが、彼女の満更でもない様子を見て微笑みを浮かべるミリア。
見ているだけで癒される光景がここにある……あの武装した奴らさえ目に入らなければ。
「宥二さん、花香さん。この方々は誰なのでしょうか」
「ところでそちらの、見たことのない物を着ている方々は?」
「初めまして、魔王シスカ様。私は蒼空真希と申します。貴女様にお会い出来て誠に光栄で御座います。そして、隣の小汚く不格好な男は佐久間安威です」
「ご紹介に与りました、佐久間安威です。彼女の吐く文言は十中八九虚言であるので、あまり耳を貸さない方が良いと思います」
「二人は俺たちの友達だよ。『性格はともかく』いい奴だから、信用してもいいよ」
「一言余計だな?」
シスカは未知の装備に興味津々だが、俺としては銃が暴発したり何かか化学反応が起こったりしたらと杞憂している。
そもそもこの世界は安全なんだから持ってくるなよ。
「シスカ様、不用意に近づいてはいけませんよ。危険な物かもしれません」
「察しがいいね半透明軟体生物ちゃん! これは人類の科学力の結晶! その名もHG-42P!」
「かっこい~!!」
シスカは彼女の見た目がSF感満載ハンドガンに心を奪われてしまった。
持たせたら不思議な力で暴走して事故が起きて死人が出る、絶対に。
それに加えて、よくある強大な魔王なら銃弾は効かないかもしれないが、シスカなら掠っただけで死んでしまうかもしれない。
絶対に見守っていなくては。
「41回同じのが作られてこちらは42回目のプロトタイプという意味です。科学力が高すぎてもはや魔法と大差無いレベルまで達しました」
「ならば、魔法を用いた方がいいのではないでしょうか?」
「だから私達はこの世界に来たの! 科学と魔法どっちが強いのか証明してみせる!」
心意気はいいが机に足を乗せるな、やる気は伝わるが声が大きすぎる。
あとさっきから頭頂部のアホ毛が高速回転してるのが更に気になる。
もうそっちが魔法でいいよ。
「まあ、よろしいでしょう。丁度訓練もあることですし。ですが、見張りは付けさせて頂きますよ」
「心配だから俺と花香もお願い」
「と、友達なのに信頼してないの!?」
「友達でいられることに感謝してほしいくらい信じられない」
「宥二さん、そこまで言わなくても……私もそう思いますけど」
「こいつは何するか分からない狂人だ。彼氏である俺が言うから間違い無い」
と言いつつ真希の頭を小突き、そのまま取っ組み合いになる二人。
喧嘩するほど仲がいいんですねーお幸せにー。
あとどうして花香さんはぴったりくっついて頬を膨らませてるんですか。
甘い匂いとか上目遣いにさらされて可愛い上に心地よくて最高ですもっとくっついてください。
「四人とも仲がよろしいようで。早く訓練場に向かいますよ」
「あっはい、わかりました」
今になって恥ずかしくなってきた。
広大な城の中を歩き回り、ようやくたどり着いた訓練場は、学校のグラウンド以上に広く、どれだけ花香が魔法で暴れ回っても大丈夫なくらいだ。
そんなことはしないと信じてるけど、万が一のことも考えてね。
「これだけのスペースがあれば何やってもよさそうだね!」
「こんな場所、あっちの世界には無かったからな」
と思ってたら安威と真希がしでかしそうだ。
暴走し始めた暁にはこの世界を見捨てる他ならないだろう。
ありがとう異世界、ありがとうみんな。
「早速試し打ちと行こうじゃない……ぐへへ」
「銃を撫で回すな、手付きが見てて気持ちわりい」
「的はあの案山子でいいかな? じゃあ早速、行くよー!」
真希はどこからか取り出した銃を構えて、何のためらいもなく発砲した。
弾丸は標的の頭部、胸部、四肢を一瞬にして破壊し、地に倒した。
銃が強いとかじゃない、どこで撃ち方を知ったんだ。
得意げな顔してるところ悪いんだけど、将来危ない職業に就いたりとかしないよね?
「これが銃の威力っ! どうです魔王様?」
「確かにこの威力は素晴らしいですね! でも、花香さんはもっと凄いですよ!」
「ふふん。所詮銃なんてものは防がれたら終わりでしょう? そういう防壁ごと吹き飛ばせばいいんです! マジカルラブミサーイル!!」
魔法陣から飛び出した物騒な代物は、煙で放物線を描いて対象を粉塵に帰した。
衝撃波で彼女の髪が揺れて、日の光に当てられきらきらと輝いて見えた。
って、なんで見惚れてるんだよ俺。
そんな場合じゃないだろ。
「どうですか? 魔法というのはこういうことなんですよ」
「……安威ちゃん、私この世界じゃ生きていけなさそう。何であんな可愛いのに恐ろしいんだろう……」
「ファンタジーって怖えんだな。ところで、魔法ってのは限界はないのか? マジックポイントみたいに、スタミナが無いと使えないんじゃねえのか?」
「ええ。魔法は自身の体力がある限り詠唱出来ますが、使いすぎると動けないほどに疲れてしまう事もあります」
なるほど、あんなに魔法を使えるのは花香が体力バカだからか、納得。
……ただならぬ殺気を感じる。
これも彼女には禁句らしい。
「ねえねえ花香ちゃん。魔法は本当に強いんだっていうのは分かったけど、どこで教わったの?」
「それはですね、えーと、このステッキ、じゃなくて杖を手にした瞬間ひらめいたんです! 天啓とでも言うべきでしょうかね?」
「あれ、お前の魔法って全部ニチアサのむぎゅ」
余計な事は言うな喉掻っ切ってやるぞ、と目線で語っていた。
すみませんでした、あなたが魔法を某アニメで覚えたことは秘密にしておきます。
笑ってくれてますけど怒気は消せてませんよ。
「じゃあ私にも天啓が舞い降りるのかも!? お願いします貸してください!」
「お前は世界を滅ぼしかねないから絶対にやめろよ」
「別にいいじゃん! 安威ちゃんと色々したいだけなのに!」
「「「それが駄目なんだよ(ですよ)!」」」
眉毛が垂れてすっかりやる気が枯れてしまった真希を見て、とっさにフォローする花香。
これが友情かあ。
「大丈夫大丈夫! 私も宥二さんの裸を見ようとして色々試してるところですから、ねっ!」
「そうなの? じ、じゃあ私にも教えてくれる?」
どことなく不安そうな目線を向けてくる安威。
これが花香のアイデンティティであり必要不可欠なものなんだ、諦めて受け入れてくれ。
「ミリア、そんな魔法が存在するのですか!?」
「まさか存在する訳……私達が知らないだけで本当に在るのかもしれませんね……」
シスカとミリア二人とも本気で考えてるようだけど可能であれば未来永劫発見されないでほしい。
あと他に性的な目的で悪用されそうな魔法も消されてほしい。
こいつらの目に留まる前に。
「で、この後お前らはどうする予定なんだ? とは言っても、まず委員長たちがどこで何してるかわからないしなあ」
「さっきは図書館に行くって言ってたみたいですけど、まだ調べ物中ですかね?」
「ひまひまひまー! 私これしかやりたい事無かったからひまー!」
真希が皆の目の前で駄々をこね始め、安威が握り拳を作ったその時、突如一体のモンスターが訓練場に駆け込んできた。
「失礼しますシスカ様! 先程図書館で禁書保蔵室に侵入しようとした、謎の装備を着た人間がいたと、通報がありました!」
「……今すぐ追いかけてあの馬鹿共を取り押さえろ!!」
怒り心頭の安威が真希を引っ張って走り出した。
花香と顔を見合わせると、何故かくすりと笑えてきた。
「お前らも来い! この世界がどうなってもいいのか!」
「「すみません直ちに同行させていただきます!」」
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