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世界救えって、私たちが!?  作者: 隙間影
異世界って、俺たちが!?
11/17

10.私たち暴走中!(リミッターなんてない)

「結論から言います。私、魔王シスカ様の休暇が終わりました。以上」


 顎の下で両手を組み、彼女はそう宣言した。

 その隣にはすまし顔のミリア、正面には俺たち三人。

 周りにはモンスターたちが荷物を運び出している。


「え、魔王なのに休んでここ来てたんですか」

「そうです、多分初めて会った時に言ってます」

「皆さんが忙しそうにしてるのも、そういう事なんですね」

「ここはもぬけの殻になってしまうので、あなた達はこのままだと住む所も食べ物も無くなってしまいます、そうですよね? そ、こ、で! もし、あなた達がこれからも私に協力してくれるのなら! その魔力や英知を私のために使ってくれるのなら! 私の国で暮らす権利を与えましょう!」

「おおー!」


 この魔王、誰にでも優しすぎる気がする。

 ちなみに俺たちは出会ってまだ六日である。

 花香が皆と仲良くしてくれたおかげと思っておこう。


「魔力や英知を、とは言っても具体的にどうすればいいのですか?」

「宥二さんと花香さんは、こことは違う世界からやってきたのですよね。ならば、その世界の技術や知識を知っているはず!」

「んー……花香、教科書とかって持ってるか?」


 と言った途端、彼女は椅子から立ち上がり、階段を駆け上がって、わずか数十秒で戻ってきた。

 手に提げているのは俺と花香のカバン。


「はあ、はあ、これが! 我々の知識の結晶です!」


 ドン、とテーブルに置かれたのは数学と化学・物理の教科書。

 そういや花香はリケジョだった気がする。

 ……死語か、これ。


「あと宥二さん。私たち、これの存在を忘れてましたよ」

「何そ……あっ」


 花香が取り出したのは、二枚の薄い板のようなもの。

 異世界ということで完全に意識の外だったが、まだ使えるはず。


「充電も結構残ってますよ。これは有効活用すべきではないですか?」

「あの、それは一体何ですか?」

「これはスマートフォンといいまして、まあ、なんか色々できるすげーやつです!」

「でもここ電波自体が存在してないんだが」

「あーーーー。なので、大して使い物になりません! 写真が撮れる程度です!」


 スマホってこういう時は役立たないな、と思った。

 こういう状況になること自体がありえないからだ、と納得した。

 それでも写真を撮れるのは便利だな。

 ん、写真?


「写真って、まさか自分の見たものが一枚の紙に印刷されるというあれか?」

「そうです! つまりこれを見れば私たちがもといた世界が」


 ばしっ、さささっ。

 花香の撮る写真ということは、つまり。


「おい、この写真はいつ撮った?」

「え、えーと。あ、このように、見たままの景色をそのまま保存することができるんです! 便利ですよね!」

「あとロック画面とホーム画面を俺の顔写真にしてんじゃねえよ」

「やめてください! プライバシーの侵害ですよ! 逆に何で宥二さんは私の顔写真にしてないんですか! ロック画面が時間割って、真面目高校生ですか!?」

「高校生だよ! ここに来るまで真面目に授業受けてたんだよ!」


 花香の手から自分のスマホを奪い取り、フォルダを見る。

 クラスメイトたちの集合写真や友達とふざけて撮った写真。

 まだ六日しか経っていない、しかしもう六日も経ってしまったとも言える。


「花香さん、皆で写真を撮りませんか?」

「いいですよ! じゃあまずはシスカさんを……はい! 次はミリアさんとシャドウさんを……」


 自分が初めてスマホを買った後、友達と遊んだときもこんな感じにしてたなあ。

 もう何もかもに対してノスタルジーに浸ってしまう。


「宥二さんも、笑って笑って~!」


 でも、花香がいるおかげで、ちょっとだけ笑えるな。


「どうですか? こんな感じで綺麗に撮れてるでしょう?」

「そういえば、奥の部屋にシスカの写真がむぐっ」


 俺がそう言いかけた瞬間、彼女に口を閉ざされた。

 涙目になって必死に首を横に振っている。

 お前の不注意で俺たちに見つかったのが悪い。


「でもこれくらいしかできませんね。正直、魔法の方が便利です」

「そうですね、あっちの世界に魔法があればよかったです」

「お前は魔法が使えるからまだいいだろ」

「それがですね、魔法少女って意外と暴力的なんですよ。回復魔法もその他も知らないんです」


 確かに言われてみればそんな気もする。

 本当のところはどうなのか、俺は見たことがないので何とも言えない。


「とにかく、自分たちはこの程度の知識しかないということです。それでもいいですか?」

「それでもいいですか、じゃなくて。俺たちも住む場所がないので、お願いします」

「全然大丈夫です! この本の中身も気になりますし、お二人をくっつかせたいですし、何より困っているなら助けてあげませんと! ね?」


 この魔王、やはり優しすぎる。

 今までゲームとかで散々倒されてきた最強最悪の魔王像は一体何だったのか。

 ……いや待て、俺たちをくっつかせたいってのは


「じゃあ、これからもよろしくお願いします!」

「はい! こちらこそよろしくお願いします!」


 と言って手を取り合い、挙句回りだす二人。

 仲は良いのはいいんだけどさ、あの、俺たちのことくっつかせたいって


「では、早く荷物を運び出してしまいましょう。あなた達も手伝って下さいね?」

「もちろんです! 宥二さん、さっさと終わらせますよ!」


 優しくはあるんだけど、そういうところがなあ……。




「ふー、これで全部ですね!」

「こうして見たら、あんまり多くはないのかな?」


 馬車三台分の荷物を積み終えて、一つ大きな息をついた。

 屋敷はあのまま放置するらしいが、次来たときにはところどころ崩壊してそうだ。


「宥二さん。これはあなたが持っていた方がいいと思います」


 ミリアに声をかけられ振り向くと、例の霊剣が。

 ギャグで言ったんじゃないです。


「まあそうだな。俺以外が持っていても扱えないだろうし」

「宥二さん! その剣があなたに何をしたか、ちゃんと自覚してるんですか!?」

「一応はな。というか、害を与える気はないって言ってるんだよ」

「誰がそう言ったんですか! きっと幻聴ですよ!」


 引き剥がそうとする花香をなんとか宥めて、久しぶりに彼と話す。


「すみませんね、彼女がうるさいもので」

『いやいや、我はやはり第三者には理解され難いものだ。彼女が難色を示すのも仕方のないだ』

「やっぱりおかしいですって! 何であんな剣を宥二さんに渡したんですか!」

「だって、残ってるのがあんなのしかなかったんですよ! 皆さんが気色悪がって誰も使わなかったのが悪いんです!」


 散々な言われようである。

 正直俺もこんな代物と知っていたら使わなかったかもしれない。

 今となっては、こいつは危険な奴ではないことが理解できる。

 剣だからその時点で危ない、というのはさておき。


「ただこの剣に憑依しただけなのにな」

「それで、花香さんにはこちらを持って頂こうと思います」

「宥二さんの呪われた剣より、こっちの方が全然良いですよ。宥二さんもこっちにすればよかったのに」

「魔法少女ならまだしも魔法少年ってどうなんだよ。そもそも少年少女って年齢じゃないだろ俺たち」

「まったく、夢がないんだから」


 花香といえばこの魔法のステッキ。

 高校生にもなって魔法少女とは。

 花香だから許されているんだろう、体形的にも幼く見え


「宥二さん?」


 すみませんでした。

 ちなみにシャドウの荷物は、初めて会った時に見せてくれた、黒色の正八面体だけだった。

 謎が深すぎる。


「では、そろそろ出発しましょうか」

「「おーっ!」」


 そう言って右手を上げる花香とシスカ。

 楽しそうで何よりです、という表情の俺とミリアとモンスターたち。

 そして無言で無表情のシャドウ。


「これから長い旅が始まるのかあ」

「そこまで距離があるわけではないさ。勾配も無いから楽だと思うよ」


 ずっと運動してないわけではないんだけど、いざ歩くと疲れるかもしれないなあ。

 それに道中で事故や敵襲がないとも言い切れないし。

 そんな事になったら真っ先に逃げ出すけど。


「ではでは、出発!」


 意気揚々と魔王一行は、長くも短くもない道を歩き始めた。




 どれくらい歩いたかわからないが、相変わらず森の中だ。

 途中で小さな沢があったり、ちょっとした獣が現れたりしたけど、特に問題や障害はなかった。

 そんな感じで、至って順調だったのだが。


「おっ、こんにちは! 皆さんの名前は何ですか? 私は如月花香、そしてこちらは私の花婿様の新山宥むぐぐぐぐ」

「すみません、初対面なのにこんなこと言って。本当にすみませんでした」


 突如現れた旅人一行にとっさに頭を下げた。

 ん、この人たち、服装が……あっ。


「後ろにいるのは、まさか、魔王シスカ!?」

「あなたはまさか、勇者カイルさん!?」

「「「えっ?」」」


 それっぽいと思ったが、やっぱり勇者だこの人。

 つまり後ろにいるのは魔法使いと戦士と僧侶。

 勇者の目的なんてたった一つ。


「「「魔王の討伐に来たというの(です)か!?」」」

「ち、違う! 私達はただ親善のために来ただけだ!」

「そんなに疑わないで下さい! カイルさんは本当にそんな人ではないのですよ!」

「じゃあその剣やら杖やらは何なんだよ!」

「あんたこそその剣は……あーっ!」


 突然、魔法使いが俺の剣を指さして叫んだ。

 花香に匹敵するくらいうるさい。

 聞き慣れてる分まだ花香の方がマシ。


「貴方のその剣……まさか、前回調査目的で貴国に贈呈した……」

「はい、そうですね」


 えっ、そうなの?


「まずそもそも、実際に使うためじゃなく、調査の一環として贈ったもののはずだが」

「とはいえ、別におかしな点はありませんでしたよ? 少し気味が悪くて、誰も触れようとしなかっただけです」


 それ自体が異常なことなんだと思うけど。


「じ、じゃあ君! 君はこの剣がおかしいって思ったりした?」

「それはもちろん――」

「おかしいも何も、宥二さんは洗脳されてるんですよ! 幻聴が聞こえるらしいんです!」

「それってもう手遅れじゃない!」

「……って言われてますよ」

『うっ、また彼女はそんな事を……』


 手遅れじゃないし洗脳されてもいないし、それに本人も辛くなってきてるよ。

 既に人ではなくなっているけど。


「こんな危ない剣はもう返します! シスカさんもいいですよね?」

「その剣は返してもらうわ! ノーランもそれでいいよね?」

「「……へ?」」


 何で戦士も魔王も、二人とも意味がわからないって顔してるんだよ!

 これじゃあ収拾がつかない、とにかくこの場をまとめないと。


「なんであんたは話を聞いてないのよ! 今すごく大切なことを言ってたのよ!?」

「シスカ様? まさか魔王たるお方が、話を聞いていないわけありませんよね?」

「えっと、剣がなんかー、取り返すんだっけ?」

「ももももももちろん聞いていましたよ! 宥二さんの剣は危ないから返そうって話でしたよね!」

「宥二さん、さっさとその剣を渡してください!」

「宥二君、その剣は僕達で預からせて頂くよ」


 状況が読めないというか、皆こんなこと言いつつ混乱してるんじゃないのか?

 少なくとも俺は混乱してるけど。

 シャドウも僧侶も慌ててる場合か……いや、まさかこいつら、気を失って……何でだよ!?

 すると、また脳内に彼の声が。


『仕方ない、我が直接話をしてやろう。身体を借りるぞ』

「おい、ちょっと待……」


 身体が動かない!

 まあ代わりに話してくれるのならいいけど。


「ほら、それを僕に」

「誰が渡すものか。この剣は我のもの。誰一人として触れさせはしない」

「でも、そのまま持っていると宥二さんが」

「勇者よ、貴様は我を知っているのか?」

「……まさか、これ本当に洗脳されてませんか!?」

「我は勇者に問うているのだ。それで、我を知っているか?」

「知っているも何も、当然でしょう」

「ならば、我は代々受け継がれてきた勇者の剣であるとも、知っているはずだ」


 あの、自称勇者の剣さん。

 俺その話初耳です。


「それが一体」

「我自身が……いや、我等自身がこの剣なのだ」


 もうちょっと詳しく説明してください。

 俺や勇者どころか全員唖然としてますけど。

 確かに場は静かになって落ち着いてるとは思いますけど。

 あれ、身体が動かせる。


『ふう。後は任せたぞ』


 それを聞いた途端、俺の中で何かが切れた、というか完全にキレた。


「言いたかったのはそれだけか?」

『ああ。まあ説明は後で……あ、主よ、一体何を』


 ぽい。

 俺は剣を荷台の中に放り投げた。


「宥二さん、ご無事でしたか?」

「少し操られていただけだ。それでは、出発しようか」

「いやあの、今何かとんでもないことを言った気がするんですけど」

「花香。これ以上俺に負担をかけさせないでくれ。負担にならないやつなら何やってもいいけど」

「負担にならなければ、ですね?」

「ああ」


 俺は自然に表れた笑顔で、そう言った。

 花香は最高の表情で頷いてくれた。


「えっ、と……出発しまーす!!」

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