火加減は抑えめに?
何でかな。……夏樹ちゃんといると、わたしっぽくないとこは出てくるけど、それにしたっておかしい。キッチンのお砂糖とお塩を、いつの間に入れ替えられたみたいだ。あの時……夏樹ちゃんの恋人のふりをするってなったときに。
なんともないはずなのに、何か違う。違和感の正体は、つかめそうにないや。
「自分で言っててなんだけど、恋人っぽいことってどこからだろうね」
「あぁ~……、そもそもだけど、毎日一緒にご飯食べてるって時点であれだよね……」
そういえば、仲良くなってからすぐ、二人で一緒にお昼食べるようになったよね。夏樹ちゃんのお弁当、毎回何かのステーキが入ってるし、それを見せたくなかったのは今では分かる。
「それも入るのかな……、でももうみんな知ってるよね」
「そっか……、そうだよね……」
もうご飯を食べ終わって、リアクションもオーバーになってる。机に突っ伏してよわよわしい声でぼやいてるとこ、他の人が見たらどう思っちゃうんだろう。
「じゃあ、手つなぐとか、一緒にお出かけするとか……、かな?」
「でも、それも確かしたよね……、この前、一緒に買い物したとき」
「えー……?じゃあ、もうホントに恋人同士じゃないとできないことしか思いつかないよ……っ」
「……ちゅー、する、とか?」
顔、真っ赤になっちゃってる。たぶん、私も。……誰かと、ちゅーするとか、本当にするどころか、想像したこともないのに。
「もー、そういうの言わなくていいから……っ」
「ごめんって、……さすがに、いくら何でも、これは友達同士じゃね……」
そういうのは、本当の恋人とするものだし、人前でするのなんて恥ずかしいし、……何より、こういう風にするものじゃないと思うし。……ほっぺにとかだったら、まだともかく。
熱くなった顔、冷まそうとお茶を飲んでも、まだ熱い。
「うん……、今更だけどごめんね、こんなのに巻き込んじゃって」
「いいよ、もう、私も告白されるときはあるもん、夏樹ちゃんほどじゃないにしてもさ」
「美咲は優しすぎなくらい優しいもんね、断るの私より大変そう」
「そうなんだよ……、だから、私も助かるよ、ちゃんとごめんって言える理由ができて」
お互い、恋なんてしたことないのに、……なんとなく、お似合いだって思われてるのも分かってるけど。いくら「ふり」って言ったって、『恋人』って関係になっちゃって。
「そういうとこ、やっぱ優しいよね、……恋人なんて、すぐできると思うんだけどな、美咲は」
「もう、そういうのあんまり考えられないの分かってるでしょ?」
「さっきのお返し、ちょっとくらいしてもいいでしょ?」
「夏樹ちゃんもいじわるだよね、そういうとこ」
夏樹ちゃんのほっぺ、まだ赤いまま。でも、なんとなく、今までと同じに戻れたかな。……なんて、無理か。……私も、ほっぺ熱いよ、きっと、鏡見たら、おんなじくらい真っ赤になっちゃってる。




