おいしい恋の作り方は?
「美咲ぃ……っ」
「もう……、相変わらず夏樹ちゃんは大袈裟だなぁ」
次の日、お昼にいつもの場所で会うと、いきなり抱きつかれる。お弁当箱を置いて、髪を軽く撫でてあげる。……何か、力の入れ方が分かんない。そんなにしないことなのもあるけど、今日は何か頭に引っ掛かってる。理由は、一つしか思いあたらない。……私たちは、恋人同士のふりするようになったってこと。でも、今は二人きりだから、関係ないはずなのにね。いつも通りでいればいいのに。
「大袈裟じゃないよ、もう……、放課後に答えるって約束しちゃったし、答え聞いてもらわなきゃな」
「そっか、頑張ってね、……傍で見守ってあげよっか?夏樹ちゃん、優しいから断るのいつも大変そうだし」
「さすがにそれはいいよ、結構告白はされてるしごめんって言ってるし。こういうふうにちゃんと断りにいくのは始めてだけどさ」
「ならいいけど……」
したたかでかっこいいとこも知ってるけど、不安になる。その内側にある弱いとこも、知っちゃってる。今みたいに……頭、撫でられたまま、困ったような笑顔を見せてくれるとことか。恋人って建前とか関係なく、一緒にいた時間は長いから。
「もう、私だってそんなに子供じゃないんだから」
「ごめん、そうだよね、ご飯食べよっか」
向かいあって座って、お弁当を開ける。相変わらずだな、夏樹ちゃんは。男の子みたいな中身のお弁当を、女の子らしい満面の笑みで頬張ってる。私も、そんなとこを見てると、自然に箸が進む。
「相変わらずすごい食べっぷりだよね、それでスタイルいいの羨ましいよ」
「そう?少しずつ、体動かしてみる?いっぱい動いた後のご飯、すっごくおいしいんだよっ」
「あはは……最初はお散歩くらいからにしよっかな、あんまり動くの得意じゃないし」
「まあ、無理して痩せようとしなくてもいいと思うけどね、無理しても辛いだけだし」
そういうとこも、ずるいな、動くのに苦労しないとことか。球技大会とか、運動部の子に混じって結構動けるし。似てるとこは多いのに、……もしかしたら、そうだからこそ、違うとこに憧れちゃうのかな。夏樹ちゃんも、私にそういうこと、思ったことあるのかな。
「そうだけどね、憧れるとこだっていっぱいあるんだよ?スポーツ得意なことだってそうだし、夏樹ちゃんモテモテでしょ?」
「私だって、美咲みたいにお姉ちゃんみたいって思われたほうが気楽だよ……、本当にオーラからそうだもん」
「そういうとこあるけどさ……、あんまり恋とかできなくなっちゃうよ?甘えるってどうすればいいか分かんなくなっちゃったり」
「出来なくていいよ、……真っ直ぐだから、その気持ちに応えられないのってしんどいし」
……お肉をいっぱい食べるとこも、好きになってくれるかわからないから、恋が苦手って夏樹ちゃんは言ってるけど、……じゃあ、そういうとこももう知ってる私が相手になら、どうなっちゃうんだろう。悪戯心に似た疑問に、頭の中の夏樹ちゃんに訊いてみても、私のほうが何か動揺してる。