愛情は溢れるほどに。
本当の恋人同士になって、たどたどしくなっちゃった二人きりのお昼。それも、ちょっとずつその前と同じようになってきた、かも。でも、向かい合うより、隣に座るようになったよね。
「ねえ、これ、どうかな?」
「はいはい、こっち、どう?」
いつも通り、一切れずつ交換っこ。夏樹ちゃんのって、相変わらず冷めててもわたしのよりおいしくて羨ましくなる。……毎日、いいものを作れるのも、努力のたまものなんだろうな。
「夏樹ちゃんのはいつもすごいなぁ……」
「そうだよね、どんなときでもいつもの味を出せなきゃお店なんて出せないもの」
「わたしのは、どうかな?」
「んー……」
夏樹ちゃん、難しい顔しちゃってる。ちゃんと味見したし、生焼けとかにはなってないはずなんだけど。目を閉じて、ちゃんと味わってる。
「どうかした?」
「もー、困るよ?」
「えー?何が?」
「もー、とぼけないでよ……、うちの味、かなり近づけてるでしょ」
……ばれちゃったか。『恋』なんてものがわたしたちには遠かったときの冗談めいた言葉、気づいちゃって、いたずらしたくなっちゃった。
「えへへ、そんなに近かった?」
「むぅ……、私、言ったよね……?」
「……再現できたら、夏樹ちゃんのお嫁さんにしてくれるんだよね?」
「う、……それは、言葉のあやっていうか……っ」
夏樹ちゃんも、覚えてたんだ。ぽうって顔を赤らめちゃって、かわいい。手で隠そうとしたってばればれなのに、夏樹ちゃんだって、そんなのは分かってるくせに。
「絶対、他の人に教えたらだめだからね?」
「わかってるよ、……お嫁さんは、わたしだけで十分だもんね」
「そうじゃなくて……っ」
ちょっと、からかいすぎちゃったな。ごめんね。取り乱しちゃう夏樹ちゃんのことなんて、こんな関係になってなかったら、きっと気づかなかったから。
「ごめんって、……誰にも教えるつもりなんてないから。誓ってもいいよ?」
「それは分かってるけどさ……」
ほっぺたが真っ赤なまま、唇を尖らせちゃって。わたしのこと、信じてくれてるのも、胸の中にあるほわほわが膨らんでく。こういうのもいいけど、……ドキドキ、しちゃいたい。
少し空いたほっぺに、軽くくちづける。すらってしてるのに、ここは、もちもちしてるんだ。
「ひゃっ!?」
「誓いのキス、……今はくちびるはイヤかなって」
「そ、それはそうかも、……だけど……っ」
ずるい。なんて小さくこぼすの、かわいい。そんなとこが、好き、なんだよ。わたし、おかしくなっちゃってるの、分かってるけど、止まらない。抱き寄せると目が合って、顔、ちょっとほわってしてる。
「もっと、ドキドキしよ?……夏樹ちゃんは、イヤかな?」
「ううん、……私も、一緒だから……。ね、土日の空いてるとこ教えてよ」
「お互い、あんまり空いてないもんね、……放課後でも、いいかな」
「それもそっか、……でも、最初はちゃんと時間かけたいな」
「うん、……だね。後で、空いてるとこ送るね」
デートって言えないくらい、まだぎこちなくて。でも、大事にしてくれることもわかってくる。心の中で思ってること、すぐ気づいてくれて。……もし、夏樹ちゃんが恋人のふりをしようって言いださなかったとしても、わたしたち、自然にこうなってたかも。
「……そういうのは、その時に、ね?」
「えへへ、もう……」
照れてるのが隠せてない声に、ちゃんと答えられないや。でも、わかってくれるって確かにわかる。……幸せ、なんていうのはありふれてるけど、でも、そうとしか言えないや。




