優しい最後の隠し味。
両手でしてる頬杖を外して、ちゃんと夏樹ちゃんのほうを向いて。……ほっぺ、熱いままだし、によによしちゃってる顔が見えるけど。
「夏樹ちゃん」
「なぁに?」
「わたしの気持ちなんて、……分かってるくせに」
声、なんか余裕のある感じ。ちょっといじわるで、ずるい。普段とは違うの、かわいいと思わせてくるとこも。
「でも、聞きたいもん、……だめ?」
分かってるけど、……言葉、頭に浮かべるたわけで恥ずかしいな。夏樹ちゃん、よく言ってくれたよね。……わたし、まだ言えそうにないのに。もう、その姿はわかってるのに。
「わかったから、……隣、いいかな」
「いいけど……」
向き合って言う勇気、出てきそうにないから。戸惑ったままの夏樹ちゃんの横の席に、持ってるものごと移る。ドキドキは止まらないけど、まっすぐ見られないだけ、ちょっとは落ち着くかも。
「夏樹ちゃん、……」
「何……?」
横顔も、すらっとしててキレイ。でも、ほっぺ、ちょっと赤くなってる。言われるほうでも、照れちゃうんだね。ふと見せる女の子っぽいとこも、他の人といるときには見なくて、かわいい。
「好き、だよ、……わたしも」
「……そっか」
頭の中で浮かんだ言葉が、そのまま声になる。ブレーキ、もうかからないよ。だって、わたしも、……すき、だもん。夏樹ちゃんとおんなじで。
「全部、先に言われちゃったな、……わたしも、全部同じだったのに」
「へへっ……、普段困らせてばっかだから、お返し」
くすりと笑うとこも、かわいいのがずるい。わたしといるせいかな、なんてうぬぼれてもいいかな。一回気持ちに素直になったら、もっと先に行きたいって思える。
「もう、……『恋人のふり』に比べたら全然じゃない?」
「それは、……ごめんだけど」
「ふふっ、じゃあ、もうちょっとわがままになっていいかな」
「な、なに……?」
わたしも、踏み出してみようかな。ほっぺが熱いまま言ってみた言葉に、戸惑ったような声を出す。
「もっと、夏樹ちゃんとドキドキしたいな、……なんて」
「そ、そう、なんだ……」
恋人同士なんて関係、あまり知らないけど。多分、『すき』ってこういうこと。返ってきた言葉、戸惑ったままみたいな、なんかほっとしてるような。
「……もう、どうかしたの?」
「な、なんにもないって……」
また、照れ隠ししてる。ほっぺ、ちょっと赤くなってるような。……それに、うつむいちゃって、もう。普段の夏樹ちゃんには思わないのに、今はいくらでも、『かわいい』って気持ちが頭に浮かぶ。
「そんな訳ないくせに、……何思ってたの?」
「だって、わがままになるとか言うから、……キスとか、されちゃうのかなって……っ」
「もしかして、イヤだったりした?」
「そ、そうじゃなくて……っ」
そうだったらやだなって思ってたこと、思わず言葉に出てきちゃう。わたしの方を向きながら、ほっぺを抑えちゃってる。普段のきれいで頼れるとこはどっか行っちゃって、残ってるのは、うぶでかわいい女の子。
「ちょっとご飯食べちゃったからにおっちゃうかもだし、やっぱ、恥ずかしいし……」
「そんなの、気にならないと思うしさ、……それに」
「………それに?」
忘れてたいたずら心、ちょっと戻ってきた。今のわたし、さっきの夏樹ちゃんみたい。好きな人の知らないところって、もっと見たくなっちゃうんだな。
「好きになる前に恋人同士になっちゃったし、追いつかないとかなって」
「……ずるい、もうちょっと心の準備させてよ」
「わかった」
水筒に口をつけて、ハンカチで口を拭くのを横目で見て、わたしも、同じようにしてみる。……なんか、ちょっとした儀式みたい、なんて。……まあ、そうか。この先のことしちゃったら、もう、ちゃんとした恋人同士になっちゃうんだ。深く息をして、もう一回、夏樹ちゃんと向き合う。目、もう閉じちゃってる。
「ねえ……」
「……美咲」
寄りかかってくる体を抱き寄せると、いつもは同じくらいになる頭がちょっと見下ろす位置にくる。……かわいい。……すき。その先は、理屈より先に体が動いてくれる。
「……んっ」
「……っ、」
ぷるんって、柔らかいぬくもり。実感が遅れてやってきて、慌てて離す。上目づかいしてくる夏樹ちゃんの顔が近くて、ドキドキが止まらなくなる。
「……なっちゃったね」
「そう、だね……」
恋人同士、なんて言えなくてはぐらかしたのに、気づかれちゃうよね。夏樹ちゃんもわたしも、そんなものができるって思ってなかったのに。わたしたちで、そういう関係になっちゃうなんて。
「いい加減、ご飯食べなきゃ、だよね」
「う、うん」
預けてくれてた頭が遠ざかるのが、ちょっと寂しいって思っちゃう。いつも通りに戻ろうとして、なんかちょっと、ぎくしゃくしてる。理由は、もう分かってる。だって、今までと変わっちゃったから。向かいにいなくてよかったかも、だって、今はもう、顔なんて見れない。
ドキドキしたい、なんて、言うんじゃなかったかも。だって、一緒にいるだけでそうなっちゃって、……こんなのがずっと続いたら、胸の中、おかしくなっちゃうよ。




