もう一味足りない日常。
「夏樹ちゃん、今日もお肉山盛りだねぇ」
「そういう美咲もでしょ?……なんというか、女子高生のお弁当箱って感じじゃないよね、私たち」
白と茶色がに、ちょこっとだけ緑。女子高生というよりは、男子中学生のお弁当だよなぁ。お弁当箱も、特に夏樹ちゃんのは相当大きいから、男の子の兄弟と間違えちゃったのかなってくらい。……それでも、相当スリムなんだよなぁ。私は食べた分だけついちゃうから、油断するとすぐお肉がついちゃう。ほんのちょっとだけ控えめにしてるけど、今のスタイルを維持するので精一杯。秘訣を聞いても、普通に動いてるだけって言うし、……やっぱり羨ましいな。
「……いい?」
「うん、いいよ?今日は豚のロースにしたんだぁ」
「私はヒレなんだ、最近ちょっとお腹のとこが……」
「そうかなぁ、そんなに気にする必要ないと思うんだけど、……やっぱりおいしいね」
それだけで、自然とお互いのおかずを交換できる。最初に会って意気投合したのも、昨日みたいに覚えてるのに、ずっと前のことなんだよね、何か不思議だな。一緒にいないときのこと、想像できないような感じなのに、知らなかった時間のほうが、ずっと長いの。
「このソース、すっごくおいしいし自分でもできないか作ってみてるんだけど、何度試しても全然おんなじのできないんだよねぇ」
「そりゃそうだよ、企業秘密だもん、そんなに簡単にできたらたまんないよ。……もしできちゃったら、うちのお嫁さんになってもらうしかないかな」
「えーっ、夏樹ちゃんのお嫁さん?」
「あはは、冗談だよ、……美咲ならいいかもしれないけど」
「もー、素敵な人なんてもっといっぱいいるよ?」
どうしても、『友達』をつくるのが苦手な私の、唯一といっていいような友達。……その方向だけど、それよりもずっと、深い関係。親友っていうのが、一番近いのかな。……でも、あんなこと言ってるくせに、夏樹ちゃんのお嫁さんってのは、なんとなく、悪くないかも。冗談なのはわかってるけど、夏樹ちゃんのお嫁さんってのも、私ならいいって言ってくれたのも、ちょっとだけ嬉しいのも隠せない。
「私が恋愛とか苦手なの、知ってるでしょ?」
「そうだけどさー、気にしてるとこも好きって言ってくれる人だっているよ?」
「えー?そういわれても、自信なんてないよーっ」
女の子なのにすっごくかっこいいし、告白されたことだって結構あるって言ってたのに、全部断っちゃってるんだよね。……もったいないのに。私が夏樹ちゃんくらいモテモテだったらな。どうしても、私がお姉ちゃんっぽく動いちゃうから、恋愛対象とは思われてないみたいだし。
今の日々に、満足してないわけじゃないけど、……なんとなく、ほんのちょっとだけ、満ち足りないのかな、ちょっとした刺激とか欲しくなるような。